01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Engel, T., & Reid, P. (2018). Physical Chemistry: Quantum Chemistry and Spectroscopy (4th ed.). Pearson.
章の要約
本書は、二巻からなる物理化学課程のうち、量子力学と分光学の巻である。対をなす巻が熱力学、統計熱力学、反応速度論を扱う。Pearson は17章を挙げている。出版社の説明は計算化学の章を Warren Hehre によるものとし、序文は、書き直された核磁気共鳴の章に共著者 Alex Angerhofer が大きく貢献したと述べている。各章は三つの問いとその答えで始まり、欄外に10〜15の重要概念が示され、章末には主要な式の表、参考文献、問題が置かれる。
第1〜3章:From Classical to Quantum Mechanics(古典力学から量子力学へ);The Schrödinger Equation(シュレーディンガー方程式);The Quantum-Mechanical Postulates(量子力学の公準)
冒頭の章は、古典的な描像から量子的な描像へ移り、シュレーディンガー方程式を導入し、本書の残りの部分が依拠する公準を示す。
第4〜6章:Applying Quantum-Mechanical Principles to Simple Systems(量子力学の原理を単純な系に適用する);Applying the Particle in the Box Model to Real-World Topics(箱の中の粒子モデルを現実の話題に適用する);Commuting and Noncommuting Operators and the Surprising Consequences of Entanglement(可換・非可換な演算子と、もつれの驚くべき帰結)
単純なモデル系が解かれ、続いて箱の中の粒子が現実の話題に適用される。序文によれば、固体中の伝導をよりよく説明するために第5.4節が改訂された。第6章は可換・非可換な演算子ともつれを扱い、その第6.6節は量子計算の進展を取り入れて大幅に改訂された。
第7〜8章:A Quantum-Mechanical Model for the Vibration and Rotation of Molecules(分子の振動と回転の量子力学的モデル);Vibrational and Rotational Spectroscopy of Diatomic Molecules(二原子分子の振動・回転分光)
分子の振動と回転のモデルに続いて、二原子分子の分光が扱われる。序文は、選択律の起源を述べる第8.4節が改訂・拡充されたと述べている。
第9〜11章:The Hydrogen Atom(水素原子);Many-Electron Atoms(多電子原子);Quantum States for Many-Electron Atoms and Atomic Spectroscopy(多電子原子の量子状態と原子分光)
原子の扱いは水素原子に始まり、多電子原子へ進み、多電子原子の量子状態と原子分光で終わる。
第12〜14章:The Chemical Bond in Diatomic Molecules(二原子分子の化学結合);Molecular Structure and Energy Levels for Polyatomic Molecules(多原子分子の構造とエネルギー準位);Electronic Spectroscopy(電子分光)
化学結合は、まず二原子分子で、次に多原子分子で扱われる。第14章は電子分光を扱い、序文によれば、第14.5、14.7、14.10節は電子遷移を始状態と終状態の分子軌道に結びつけるように書き直され、第14.12節はFRETの応用の進展を反映して改訂された。
第15〜17章:Computational Chemistry(計算化学);Molecular Symmetry and an Introduction to Group Theory(分子の対称性と群論入門);Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy(核磁気共鳴分光)
計算化学の独立した章に続いて、分子の対称性と群論が扱われる。最後の章は核磁気共鳴で、この版で全面的に書き直され拡充された。核オーバーハウザー効果、動的核分極、二次元NMR法が溶液中の高分子の構造決定にどう用いられるかについての詳しい議論を含む。
主要概念
第1〜6章:量子力学の基礎
- シュレーディンガー方程式と公準:量子系の運動方程式と、測定可能な量を取り出すための規則(第2〜3章)。
- 箱の中の粒子:固体中の伝導を含む現実の話題に適用される単純なモデル(第4〜5章)。
- 可換・非可換な演算子、もつれ:順序が結果に影響する演算子と、もつれの帰結。量子計算との関わりを含む(第6章)。
第7〜11章:振動、回転、原子
- 分子の振動と回転:量子力学的モデルと、選択律を含むその分光学的帰結(第7〜8章)。
- 水素原子と多電子原子:原子の量子力学的な扱いと原子分光(第9〜11章)。
第12〜17章:分子、分光、計算
- 化学結合と分子のエネルギー準位:二原子分子と多原子分子での結合(第12〜13章)。
- 電子分光:分子軌道に関連づけられた電子遷移(第14章)。
- 計算化学、対称性、群論:分子構造の計算と、対称性による状態の分類(第15〜16章)。
- NMR分光:基本的な方法から、高分子のための二次元の手法まで(第17章)。
批判的分析
長所
- 百科事典的な網羅よりも中核概念。 序文は、物理化学の簡約された百科事典を提供するのではなく、限られた分野で確かな理解を築くことが目的だと述べている。本書は順に全部読む必要はなく、補足的な節は省くことができ、多くの節は比較的独立している。
- 必要な箇所での数学の支援。 第3版の数学補遺は、2〜5ページの11の「Math Essentials」に分割され、その技能が必要になる直前に挿入されている。著者は、学生が数学の授業で学んだ技能を物理化学に移すのが難しいと見ているからである。
- 各章に学習の支援が組み込まれている。 序文と出版社のページには、冒頭の三つの問いと答え、各章10〜15の欄外「Concepts and Connections」、各章末の主要な式の表、参考文献のリスト、例題、そして章末の概念問題、節ごとに整理された数値問題、ウェブシミュレーションに基づく問題が挙げられている。
- 現代的な応用。 著者は基本原理を、走査トンネル顕微鏡、量子ドット、量子計算、固体のバンド構造、原子間力顕微鏡、NMRイメージングと結びつけており、出版社は生物学、環境科学、材料科学からの応用も強調している。
- 計算化学の専用の章。 出版社は、第15章が化学結合と分子構造の教え方を定性的なものから定量的なものへ変えると説明している。
短所
- 物理化学課程の半分にすぎない。 熱力学と反応速度論の内容は対をなす巻にあるため、両方を扱う授業には2冊が必要になる。出版社は、対をなす巻の Pearson+ eText に量子化学と分光学の章が含まれていると述べている。
- 支援の一部が別のプラットフォームにある。 出版社によれば、計算問題の詳しい手順は Mastering Chemistry にあり、これは別売である。本だけを使う読者は、その手順を利用できない。
- 数学の要求。 Math Essentials があるものの、演算子、群論、二次元NMRに関する章があるため、微積分に習熟していることが求められ、線型代数の知識があると助けになる。
- 理論を通した分光学。 分光学は、その量子力学的な基礎を通して提示されている(第8、11、14、17章)。章題は、有機化合物を同定するためにスペクトルを解釈する訓練を示唆しておらず、それには専用のスペクトル解析の本のほうが適している。
コースにおける位置づけ
Engel と Reid の本は、このリストの標準的な授業向けの教科書で、量子化学の学部レベルの完全な扱いと、それに続く主要な分子分光学を含む。Thakkar の Quantum Chemistry: A Concise Introduction は、理論を発展させるのではなく分光学や電子構造計算を使う読者のための、短く考え方を中心とした入門書と説明されており、Engel と Reid の第1〜4章と第12〜13章の前に読む穏やかな最初の一冊になる。McQuarrie の Quantum Chemistry は、原子構造、結合、分光学の背後にある量子論の考え方を厳密に述べたものと説明されており、より厳密な選択肢である。
Jensen の Introduction to Computational Chemistry は、第15章と計算問題の自然な続きである。Pavia、Lampman、Kriz、Vyvyan の Introduction to Spectroscopy と Silverstein らの Spectrometric Identification of Organic Compounds は、IR、NMR、紫外・可視、質量スペクトルを解釈して有機化合物の構造を決めることに焦点を当てており、Engel と Reid の第8、14、17章にある振動・電子・NMR分光の背後の理論を補う。
本書の使い方
序文は、対象とする読者を、化学、生化学、化学工学を専攻する学部生と、大気科学や生物科学を専攻する多くの学生としている。正式な前提条件は示されていない。Math Essentials は、特定の数学的技能が必要になる直前にそれを復習させる。
一学期の授業での実践的な進め方は次のとおり。
- 中核: 量子力学の枠組みを築く第1〜4章、振動・回転と二原子分子の分光の第7〜8章、原子の第9〜10章、化学結合と電子分光の第12〜14章。
- 選択する話題: 第5章と第6章(箱の中の粒子の応用、演算子ともつれ)は興味に応じて。シラバスに原子分光が含まれるなら、原子の状態を扱う第11章。
- 道具と発展: 第12〜13章と並行して読む第15章の計算化学、第16章の対称性と群論、そしてNMRがシラバスにあるなら、この版で書き直された第17章。
各章の冒頭の問いと「Concepts and Connections」の欄外の注から読み始め、章末の問題の前に例題に取り組み、復習には主要な式の表を使う。序文は本書を通読する必要はないと述べているので、時間が足りなければ補足的な節を省くとよい。
