01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Atkins, P., de Paula, J., & Keeler, J. (2022). Physical Chemistry (12th ed.). Oxford University Press.
章の要約
第12版(オックスフォード大学出版局から Atkins' Physical Chemistry の題で刊行)は約930ページの一冊本で、「章」ではなく19の「Focus」(フォーカス)に分かれ、各 Focus はアルファベットの付いた「Topic」(トピック、たとえば Topic 1A、Topic 1B)に分けられている。各 Focus には総合的な活動課題があり、各 Topic には討論問題、演習、問題がある。巻末には資料編と索引が付く。順序は巨視的なもの(気体と熱力学)から始まり、量子論、分子構造、分光学を経て、統計熱力学、分子間相互作用、固体へ進み、最後に動力学(輸送、反応速度論、反応ダイナミクス、表面)に至る。本書は二分冊でも刊行されている。
Focus 1〜3:気体の性質/熱力学第一法則/熱力学第二法則と第三法則
Focus 1 は理想気体、気体運動論モデル、実在気体を扱う。Focus 2 は内部エネルギー、エンタルピー、熱化学、状態関数と完全微分、断熱変化を通して第一法則を展開する。Focus 3 はエントロピー、特定の過程でのエントロピー変化、エントロピーの測定、系に注目した扱い、第一法則と第二法則の組み合わせを論じる。
Focus 4〜6:純物質の物理的変化/単純な混合物/化学平衡
Focus 4 は純物質の相図と相転移の熱力学を扱う。Focus 5 は混合物に進み、その熱力学的記述、溶液の性質、二成分系の相図(液体と固体)、三成分系、活量を扱う。Focus 6 は平衡定数、条件に対する平衡の応答、電気化学セル、電極電位を扱う。
Focus 7〜9:量子論/原子構造とスペクトル/分子構造
Focus 7 は量子力学の起源、波動関数、演算子と観測量、並進・振動・回転運動を導入する。Focus 8 は水素型原子、多電子原子、原子スペクトルを扱う。Focus 9 は原子価結合理論と、水素分子イオン、等核二原子分子、異核二原子分子、多原子分子についての分子軌道理論を通して分子構造を組み立てる。
Focus 10〜12:分子の対称性/分子分光学/磁気共鳴
Focus 10 は形と対称性、群論、対称性の応用を扱う。Focus 11 は分子分光学の一般的特徴を示し、続いて回転スペクトル、振動スペクトル(二原子と多原子)、電子スペクトル、振動スペクトルの対称性解析、励起状態の失活を扱う。Focus 12 は磁気共鳴の原理、NMR スペクトルの特徴、パルス技術、電子常磁性共鳴を扱う。
Focus 13〜15:統計熱力学/分子間相互作用/固体
Focus 13 はボルツマン分布、分子の分配関数、分子のエネルギー、正準集団、内部エネルギーとエントロピー、導出される関数を導入する。Focus 14 は分子の電気的性質、分子間相互作用、液体、高分子、自己組織化を扱う。Focus 15 は結晶構造、回折技術、固体の結合、そして力学的・電気的・磁気的・光学的性質を扱う。
Focus 16〜19:運動する分子/化学反応速度論/反応ダイナミクス/固体表面での過程
Focus 16 は完全気体の輸送性質、液体中の運動、拡散を扱う。Focus 17 は反応速度、積分速度式、平衡に近づく反応、アレニウス式、反応機構とその例、光化学を扱う。Focus 18 は衝突理論、拡散律速反応、遷移状態理論、分子衝突のダイナミクス、均一系での電子移動を扱う。Focus 19 は固体表面、吸着と脱離、不均一系触媒、電極での過程で本書を閉じる。
主要概念
Focus 1〜6:熱力学
- 熱力学の法則:内部エネルギーとエンタルピー、エントロピー、およびそれらの組み合わせ。
- 相図と混合物:純物質と溶液の平衡挙動。
- 化学平衡と電気化学セル:平衡定数と電極電位。
Focus 7〜12:量子論、構造、分光学
- 波動関数、演算子、観測量:量子力学の形式的な言語。
- 原子価結合理論と分子軌道理論:Focus 9 で展開される二つの結合モデル。
- 群論と対称性:分子の性質や振動スペクトルの解析に用いる。
- 磁気共鳴:NMR、パルス技術、EPR。
Focus 13〜19:統計、相互作用、固体、動力学
- ボルツマン分布と分配関数:分子のエネルギーを熱力学に結びつける。
- 分子間相互作用と自己組織化:分子間に働く力と、それが作る構造。
- 速度式、反応機構、アレニウス式:反応速度論の言葉。
- 遷移状態理論と表面過程:反応がどう進むか、表面や触媒がそれにどう影響するか。
批判的分析
長所
- 一冊で幅広く網羅。 19の Focus が熱力学、量子論、分光学、統計熱力学、反応速度論、固体、表面に及ぶため、一冊で二学期から三学期の物理化学の課程をまかなえる。
- モジュール式のレイアウト。 Focus と Topic の構造により、内容がアルファベット付きの短い単位に分けられ、それぞれに問題があるため、教員は Topic を選んで課題にできる。出版社は、この版で学習のための機能が追加され、文体も新しくされたと述べている。
- 基礎を超えた話題。 高分子と自己組織化(Focus 14)、NMR のパルス技術(Focus 12)、光化学(Focus 17)、電極での過程(Focus 19)に専用の Topic があり、中核となる講義内容を広げている。
- 複数の種類の問題。 討論問題、演習、問題、総合活動が全体の構造にわたって配置されている。
短所
- 分量。 約930ページは一つの講義でこなせる範囲をはるかに超え、教員も学生も Focus を選ぶ必要がある。また本書の順序(熱力学が先、量子論が後、反応速度論が最後)はすべてのシラバスに合うわけではない。
- 数学の負担。 目次には群論、演算子、統計集団が現れるため、学生には一般化学を超える微積分と多少の線形代数が必要になる。
コースにおける位置づけ
物理化学コースの中で、本書は学部レベルの包括的な参考書である。Monk の Physical Chemistry: Understanding our Chemical World は一年次の学生向けに書かれ、日常の場面を通して各原理を導入する。Chang の Physical Chemistry for the Chemical and Biological Sciences は化学と生物学の学生向けのわかりやすい読み物であり、Atkins 自身の Physical Chemistry: A Very Short Introduction は中心的な考え方を数式をほとんど使わずに巡る短い入門書である。これらはいずれも本書の前、あるいは本書と並行して読める。
McQuarrie と Simon の Molecular Thermodynamics は熱力学の部分だけを扱い、統計的解釈を早くから導入する。講義で Focus 1〜6 と Focus 13 にもっと深く踏み込みたいときの、第二の情報源として適している。
本書の使い方
本書は、一年以上の物理化学の課程を履修する化学系および関連する理系の学生を対象とする。一般化学と微積分が実質的な前提である。選択的に使うことができ、アルファベット付きの Topic は個別に課題にできるほど短い。
実用的な進め方は次のとおり。
- 熱力学の学期: Focus 1〜6 を順に学び、エントロピーと自由エネルギーが身についたところで、分子レベルの解釈として Focus 13(統計熱力学)を使う。
- 量子論と分光学の学期: まず Focus 7〜9、次に Focus 11(分光学)の前に Focus 10(対称性)、そして磁気共鳴の Focus 12。
- 動力学: 講義で必要なら Focus 17(反応速度論)を早めに学び、Focus 16 と Focus 18〜19 をその後にする。
- 任意: Focus 14(分子間相互作用)、Focus 15(固体)、およびより専門的な Topic。
- 問題を積極的に使う: Topic ごとに演習を解き、Focus レベルの総合活動で複数の Topic の考えを結びつける。
