01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Bird, R. B., Stewart, W. E., Lightfoot, E. N., & Klingenberg, D. J. (2014). Introductory Transport Phenomena. Wiley.
章の要約
本書は、大学院向けの定番教科書であるバード、スチュワート、ライトフットの Transport Phenomena を、ダニエル・クリンゲンバーグを加えて学部向けに改作したものである。約780ページで、導入の第0章のあと、運動量・エネルギー・物質の輸送を扱う三部(番号付きの章は全24章)が続き、後記と、ベクトル・テンソル記法、流束と変化の方程式、数学的話題、輸送物性推算のための表、定数と換算係数の五つの付録が置かれている。巻頭には流束の式の一覧がある。出版社によれば、構成は原著を踏襲しつつ、初めてこの分野を学ぶ学生向けに表現を改め、導出を一歩ずつより丁寧に説明している。各章の末尾には、「反転授業」での活用を想定したまとめと討論用の問いがある。三部は並行して組み立てられており、輸送の種類ごとに同じ順序の章が繰り返される。以下の目次もその観点から読むとわかりやすい。
第0章:輸送現象という主題
三部に入る前に、この分野が何を扱うかを示す導入の章。本書の方針として出版社が述べる点がここに当てはまる。運動量・エネルギー・物質の輸送は一緒に扱われ、それぞれ分子・微視的・巨視的の三つのレベルで学ぶことができる。
第I部 第1–3章:粘度と運動量輸送の機構/殻運動量収支と層流における速度分布/等温系の変化の方程式
まず分子レベルから始まり、運動量の輸送物性として粘度が登場する。次に殻収支によって単純な層流の速度分布を求め、第3章でそれを等温系の変化の方程式へと一般化する。
第I部 第4–8章:乱流における速度分布/等温系の次元解析/等温系の界面輸送/等温流れ系の巨視的収支/非ニュートン液体
残りの運動量の章では、扱いを乱流に広げ、次元解析で結果を整理し、相間の輸送に進み、最後に流れ系全体についての巨視的収支に至る。非ニュートン液体を扱う第8章は、エネルギーと物質の部には対応する章がない。
第II部 第9–16章:熱伝導率とエネルギー輸送の機構/固体と層流における殻エネルギー収支と温度分布/非等温系の変化の方程式/乱流における温度分布/非等温系の次元解析/非等温系の界面輸送/非等温系の巨視的収支/放射によるエネルギー輸送
第II部は熱について運動量と同じ順序をたどる。熱伝導率、固体と層流における殻エネルギー収支、非等温系の変化の方程式、乱流、次元解析、界面輸送、巨視的収支である。エネルギーの部に固有の話題として、非ニュートン液体の章の位置を放射が占める。
第III部 第17–24章:拡散係数と物質輸送の機構/固体と層流における濃度分布/二成分混合物の変化の方程式/乱流における濃度分布/流動する混合物の次元解析/非等温混合物の界面輸送/多成分系の巨視的収支/物質輸送のその他の機構
第III部は化学種について同じ道筋をたどる。拡散係数、殻収支による濃度分布、二成分混合物の変化の方程式、乱流、次元解析、界面輸送、多成分系の巨視的収支である。最終章では、通常の拡散以外の機構による物質輸送を扱う。本文は後記で締めくくられる。
主要概念
第0章と全体の構成
- 三つの輸送の類似性:運動量・エネルギー・物質を並行して展開するため、保存方程式と輸送係数の共通点と相違点が浮かび上がる。
- 三つの記述レベル:分子レベル(輸送物性)、微視的レベル(変化の方程式)、巨視的レベル(系全体の収支)。
第I部:運動量輸送
- 粘度:運動量流束と速度勾配を結びつける輸送物性。
- 殻収支:薄い領域についての収支で、単純な層流の速度分布を与える。
- 変化の方程式:等温流れの一般的な微分方程式で、流束と方程式は付録Bにまとめられている。
- 非ニュートン液体:粘性のふるまいがニュートンの粘性法則に従わない流体。
第II部:エネルギー輸送
- 熱伝導率:伝導による熱流束の輸送物性。
- 界面輸送:相間の熱交換で、次元解析によって整理される。
- 放射:物質の媒体を必要としないエネルギー輸送。
第III部:物質輸送
- 拡散係数:混合物中の分子による物質流束の輸送物性。
- 二成分混合物:二成分系の変化の方程式。
- 多成分系の巨視的収支:装置や臓器全体について複数の化学種を扱う収支。
批判的分析
長所
- 統一的な扱い。 三部が並行した構成をとるので、新しい部ではそれまでの手法をそのまま使える。出版社も、三組の保存方程式と輸送係数の比較を強調している。Wiley が引用する TCE(The Chemical Engineer、2015年5月)のジョゼ・カルロス・マガリャンイス・ピレスによる書評は、本書をこの主題についてもっとも網羅的な本の一つと呼び、三つの輸送すべてをこれほど深く扱う本は珍しいと述べている。
- 理解しやすい導出。 出版社によれば、原著よりも数学的導出に多くの紙幅を割き、一歩ずつ説明しており、ベクトル・テンソル記法の付録に加えて数学的話題の付録もある。
- 学習支援。 章末のまとめと討論用の問いは反転授業に向き、巻頭の流束一覧と付録Bは参照用に使える。Wiley は学生用と教員用の補助サイトも用意している。
- 原著への道筋。 構成が Transport Phenomena に沿っているので、後で大学院版が必要になった学生も同じ構成と記法に出会うことになる。
短所
- 一般的な工学の教科書。 章題からは生物学や医学への応用は見えない。生体輸送の授業では、生理学的な文脈(血流、膜、酸素輸送、医療機器)は他の本から補う必要がある。
- 分量が多く数学的。 約780ページあり、ベクトル・テンソル記法に一つの付録を充てていることからもわかるように、1学期の授業で扱える量を超えており、微分方程式に慣れていることを前提とする。
- 一章だけの話題。 非ニュートン性、放射、物質輸送の「その他の機構」はそれぞれ一章しかなく、本格的な扱いというより入門にとどまる。
コースにおける位置づけ
このコースでは、本書が輸送の一般的な物理を提供し、他の本がそれを生体系に応用する。ルーベンスタイン、イン、フレームの Biofluid Mechanics は、循環系を題材に流体力学を教える入門書で、流体力学の履修を前提としない。第I部の内容へのより穏やかな入口になる。フルニエの Basic Transport Phenomena in Biomedical Engineering と、ロゼッリとディラーの Biotransport: Principles and Applications は、運動量・熱・物質輸送を全体にわたって生理学や医療機器の例とともに扱う。ロゼッリとディラーは、巨視的・殻収支・微視的という同じ進め方まで共有している。バードらで手法を学んだ学生はどちらかに進んで応用を学べるし、どちらかを主教科書にして本書を導出の参照用に使うこともできる。
トラスキー、ユアン、カッツの Transport Phenomena in Biological Systems は、反応を伴う拡散や界面動電現象を含めて輸送理論と生理学を結びつける本で、本書の後のより上級の授業に向いている。フリードマンの Principles and Models of Biological Transport は、膜や上皮を横切る輸送を扱う大学院向けの教科書で、本書が扱わない主題である。
本書の使い方
本書は、化学工学、機械工学、生体医工学の学部生が初めて輸送の授業を受けるときのためのものである。微分方程式までの微積分と基礎物理が必要で、付録AとCがベクトル・テンソル記法と数学的話題を補っているので、早めに読んでおくとよい。
実践的な計画:
- 出発点: 第0章、続いて第1–3章。殻収支の例を手で計算しながら進める。これらの章が本書全体の手法を決める。
- 生体輸送の授業での中核: 熱と物質についての分子・殻収支・変化の方程式の章である第9–11章と第17–19章を、第1–3章と並べて読み、類似性を確かめる。
- 次の段階: 界面輸送と巨視的収支の章(第6–7、14–15、22–23章)。理論を装置や臓器レベルの問題に結びつける。
- 選択: 乱流(第4、12、20章)、非ニュートン液体(第8章)、放射(第16章)、物質輸送のその他の機構(第24章)は授業に応じて選ぶ。
問題に取り組む前に章末のまとめと討論用の問いで理解を確かめ、各部をフルニエ、ロゼッリとディラー、またはトラスキー、ユアン、カッツの生物学的な章と組み合わせて読むとよい。
