01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Luo, L. (2020). Principles of Neurobiology (2nd ed.). Garland Science.
章の要約
第2版は14章、約760ページである。出版社は、本書を単一の著者による、重要な実験を軸に組み立てられた教科書と説明しており、電気生理学から分子遺伝学を経て、システムレベルの問いへと進む構成である。初版(2015年)は13章で、運動系と調節系を1つの章で扱っていた。第2版ではこの2つを分け、神経系がどのように構築されるかを論じる章を加えている。
第1章:An Invitation to Neurobiology(神経生物学への招待)
導入の章である。本書の用語集が図と結びつけている語には、脳の主要な区分(前脳・中脳・後脳)、前頭葉と後頭葉、グリア細胞の種類、感覚と運動のホムンクルス、膝蓋腱反射がある。さらに、発散性興奮、フィードフォワードとフィードバックの興奮・抑制、脱抑制といった回路モチーフも含まれる。
第2章:Signaling within Neurons(ニューロン内のシグナル伝達)
1個のニューロンの内部で電気信号がどのように働くかを扱う。用語集の語は、イオンチャネルの選択性と不活性化の「ボール・アンド・チェーン」モデル、「電池」をもつ電気回路としてのニューロン、閾値下刺激と閾値上刺激、有髄軸索での跳躍伝導を指している。キネシンやダイニンによる軸索輸送も扱う。
第3章:Signaling across Synapses(シナプスを越えるシグナル伝達)
化学伝達に移る。用語集には、シナプス小胞、SNARE タンパク質とダイナミン、自発的な微小終板電位、量子的放出を二項分布で扱うコラムが挙がっている。また、抑制性および促通性のシナプス、代謝型受容体とそのセカンドメッセンジャーのカスケード、樹状突起での統合も扱う。
第4章:Vision(視覚)
視覚は独立した章になっている。用語集には、網膜の細胞の種類(ON型・OFF型双極細胞、水平細胞、スターバースト・アマクリン細胞、ミジェット型および方向選択性の神経節細胞)、オプシン、中心窩、視神経・視交叉・視索が挙がり、皮質の単純型細胞や背側経路も扱う。
第5章:Wiring the Visual System(視覚系の配線)
ここでは、回路がどう働くかから、回路がどう組み立てられるかへと問いが移る。ガイダンス因子(短距離の手がかり、セマフォリン、DCC/Unc40、底板)、ショウジョウバエの光受容細胞の配線(sevenless と boss の変異体)、活動依存的な精緻化(ヘッブの法則、眼優位性)が、この章に対する用語集の項目に含まれる。
第6章:Olfaction, Taste, Audition, and Somatosensation(嗅覚・味覚・聴覚・体性感覚)
4つの感覚が1章を共有する。用語集の項目には、嗅覚受容体、嗅球とキノコ体、有毛細胞とコルチ器官、聴覚回路の遅延線、触覚受容器、後索路、そして痛みに関連するサブスタンスPや痛覚過敏などがある。
第7章:Constructing the Nervous System(神経系の構築)
発生の章である。初期のパターン形成(ソニック・ヘッジホッグ、底板、Delta–Notch シグナル)、皮質投射ニューロンの同一性を決める転写因子(Fezf2 と Satb2)、Slit による正中線でのガイダンス、神経地図、Dscam、神経筋接合部の MuSK、シナプス除去を扱う。
第8章:Motor Systems(運動系)
筋(筋節、ミオシン、運動単位、サイズの原理)から出発し、脊髄回路を経て大脳基底核に至る。口胃神経節がリズム発生のモデルとして登場し、用語集はこの章で「力学系」も定義している。
第9章:Regulatory Systems(調節系)
主題は視床下部による恒常性の制御である。用語集の語には、交感神経系、MC4R と摂食、終板器官(脳弓下器官、OVLT、正中視索前核)にある脱水を感知する領域、視交叉上核がある。補助ビデオは概日リズムを扱う。
第10章:Sexual Behavior(性行動)
性に典型的な行動がどのように決まるかを論じる。ハエの fruitless と doublesex 遺伝子、キスペプチン、内側視索前野、ホルモン作用の組織化–活性化モデルが扱われ、補助ビデオは交尾行動と仔の回収を取り上げている。
第11章:Memory, Learning, and Synaptic Plasticity(記憶・学習・シナプス可塑性)
記憶をシナプスから積み上げて論じる。海馬回路と長期増強の場の電位記録、シナプスタギング、シナプス荷重行列、作業記憶、頭方向細胞と格子細胞、シャープウェーブ・リップルが扱われる。
第12章:Brain Disorders(脳の疾患)
唯一の臨床的な章である。用語集の項目には、てんかん発作とベンゾジアゼピン、L-ドパと黒質、MeCP2、アルツハイマー病に関わるセクレターゼ、mTOR、脊髄小脳失調症がある。補助サイトにはプリオン病のビデオもある。
第13章:Evolution of the Nervous System(神経系の進化)
動物群をまたいで神経系を関連づける章である。左右相称動物と後口動物、Hox 遺伝子、エキソンシャッフリング、細菌の走化性における偏りのあるランダムウォーク、感覚ロドプシン、ヒトで拡大した皮質の外側放射状グリアなどの語が挙がる。
第14章:Ways of Exploring(探究の方法)
方法論の章である。順遺伝学スクリーニング、ノックアウト、MARCM などの遺伝的モザイク法、光遺伝学、単一ユニット記録とパッチクランプ記録、多電極アレイ、超解像顕微鏡と連続電子顕微鏡、拡散テンソル画像、単一細胞 RNA シーケンスを扱う。補助ビデオには CLARITY やコネクトームの再構成がある。
主要概念
第1–3章:全体像、ニューロンのシグナルとシナプス
- 回路モチーフ:繰り返し現れる結線パターン。たとえばフィードフォワード抑制では、ニューロンが直接の興奮と、介在ニューロンを介した遅れた抑制の両方を受ける。
- 跳躍伝導:有髄軸索で、活動電位がランビエ絞輪から次の絞輪へ跳ぶように伝わること。
- SNARE:小胞と標的膜にあり、伝達物質放出の際に膜融合を進めるタンパク質。
- 量子的放出:自発的な微小電位と、融合する小胞の数を表す二項分布による記述。
第4–7章:感覚と配線
- 樹状突起のタイリング:同じ種類のニューロンの樹状突起が、受容野をちょうど1回ずつ覆うこと。
- 短距離の手がかり:軸索と直接接触したときにだけ誘導を行う細胞表面タンパク質。
- ヘッブの法則:繰り返し同期して発火すると結合が強まるという原理で、活動依存的な精緻化に用いられる。
- 離散的地図:入力または標的のニューロンが、糸球体や層などの別個の単位に整理されたもの。
第8–10章:運動系と調節系
- サイズの原理:同じ運動ニューロンプール内では、運動単位の小さいニューロンが先に発火する。
- 力学系:次の状態が現在の状態、入力、ノイズで決まる系で、神経集団の活動のモデル化に使われる。
- 組織化–活性化モデル:性ホルモンが発生期に脳を形づくり、成体では行動を引き起こすという考え方。
第11–14章:記憶、疾患、進化、方法
- シナプスタギング:増強されたシナプスに付く標識が、増強の安定化に必要な新しい分子を捕捉し、入力特異性を保つという仮説。
- 頭方向細胞:動物がどこにいても、特定の方向を向いたときに発火する細胞。
- 光遺伝学:微生物由来のオプシンを発現するニューロンを光で操作する手法。
批判的分析
長所
- 実験を軸にした叙述。 出版社は、本書が重要な実験を軸に構成され、科学がどう進むかを示し、学生を原著論文へ導くと説明している。出版社のページに載る推薦文も同じ点を挙げている。Marla Feller は実験に基づく説明を評価し、Rachel Wilson は各発見への道筋とそれを可能にした技術が書かれていると述べ、Edvard Moser は1人の著者が分野全体を扱うことで生まれる統合に触れている。
- 方法に独立した章がある。 第14章に遺伝学・イメージング・記録・計算の手法がまとめられており、前の章で使われた技術を1か所で調べられる。
- 遺伝学のモデル生物と哺乳類の併用。 用語集にはショウジョウバエの項目(Sevenless、MARCM、Fruitless、キノコ体)と哺乳類の回路の項目が並び、ハエとマウスの研究が一緒に扱われている。
- 補助教材。 補助サイトには、本文で引用されるビデオ、フラッシュカード、図やコラムの番号が付いた閲覧可能な用語集、各章を発展させることを目的とした毎月更新の研究ブログがある。
短所
- 最初のコースより上の水準。 出版社は上級の学部生と大学院生を対象としており、前提として細胞生物学の知識が想定されている。神経系を初めて学ぶ学生が入門書なしで読むと、実験から論を立てる進め方は骨が折れるだろう。
- 話題の配分が均等でない。 視覚には2章があるが、嗅覚・味覚・聴覚・体性感覚は1章を共有する。注意、言語、意思決定のような高次の認知的話題には独立した章がなく、最後の数章は脳の疾患、進化、方法へと向かう。
- 臨床の章は1つだけ。 臨床神経科学は第12章に集中しているため、神経解剖学や臨床との対応が必要な読者は別の教科書を併用することになる。
コースにおける位置づけ
本コースの書目の中で、Luo の本は穏やかな入門書と専門的な教科書の中間にある。Casey Henley の Foundations of Neuroscience は、短い節で構成される無料の入門書であり、Bear、Connors、Paradiso の Neuroscience: Exploring the Brain は行動を軸に組み立てられた入門書である。ニューロンやシナプスをまだ学んでいない読者にはどちらも向いている。この分野の主張がどのように確立されたかを知りたい学生にとって、Luo は2冊目として適している。
ほかの2冊は、範囲は近いが方向が異なる。Martin らの From Neuron to Brain は、細胞と系の神経科学を扱う定評ある教科書で、やはり重要な実験と記録から議論を組み立てている。Augustine らの Neuroscience はより幅広い参考書で、注意・言語・情動・意思決定の章があり、Luo にはない。Luo のシグナルと回路の章を終えたあと、定量的なモデル化に進むなら、Dayan と Abbott の Theoretical Neuroscience が大学院水準の教科書である。
本書の使い方
前提は入門レベルの生物学と細胞生物学である。分子生物学と基礎的な物理の知識があると、シグナル伝達の章が理解しやすくなる。出版社は、本書を1学期の授業で通読できるとしている。
実践的な進め方は次のとおり。
- 中心: 第1–3章。回路の語彙、電気信号、シナプス伝達の土台を築く。
- 感覚と発生の組み合わせ: 第4–5章の視覚とその配線は続けて読むとよく、その後に神経系の構築の一般原理を述べる第7章へ進む。第6章は感覚ごとに選んで読める。
- 系と行動: 第8–11章。授業の順序に合わせる。
- 任意または選択: 疾患のメカニズムには第12章、進化的な背景には第13章。
- 方法の参照: 第14章は第3章のあとに読んでもよいし、技術が出てきたときに参照してもよい。
補助のビデオとフラッシュカードは対応する章と一緒に使い、図番号付きの用語集は復習の地図として活用するとよい。各章を読むときは、それぞれの主張がどの実験に支えられているかを問うこと。これこそ本書が育てようとしている習慣である。
