01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Bear, M. F., Connors, B. W., & Paradiso, M. A. (2025). Neuroscience: Exploring the Brain (5th ed.). Jones & Bartlett Learning.
章の要約
第5版(著作権表示は2026年、刊行は2025年)は4部25章からなり、図解によるヒトの神経解剖学の付録、用語集、参考文献、索引を含めて本文は約975ページある。出版社によれば、本書はヒトの神経系の構成と機能を、大学の入門的な一般生物学の教科書に匹敵するレベルで概観するもので、理系・非理系どちらの学生も対象としている。出版社の移行ガイドによると、章の順序と各章の大まかなテーマは第4版から変わっていない。新版では内容が更新され(遺伝子編集、脳刺激、顕微鏡法、機能イメージング、コネクトミクス、幹細胞、計算モデリング)、各章に学習目標が加わり、「神経科学と医学」のコラムが新設された。
第1部 基礎――第1章:神経科学――過去、現在、未来
冒頭の章は、古代ギリシャやローマ帝国からルネサンスを経て19世紀に至るまでの脳についての考え方をたどる。19世紀には、神経は電線のようなものとみなされ、機能が脳の各部位に局在づけられるようになった。神経系の進化と、基本単位としてのニューロンを紹介したのち、今日の神経科学を描く。分子から認知までの分析レベル、科学的な手続き、研究における動物の利用、そして神経系疾患がもたらすコストである。
第1部 基礎――第2〜7章:ニューロンとグリア/静止状態のニューロン膜/活動電位/シナプス伝達/神経伝達物質系/神経系の構造
第2章はニューロン説、ゴルジ染色、カハールから説き起こし、典型的なニューロンの各部分、ニューロンの分類法(構造、生理学的性質、遺伝子発現による)、そしてグリアの種類を説明する。第3章は、静止膜電位を生み出す化学物質とタンパク質を説明する。第4〜6章は、活動電位(不応期や局所麻酔薬・神経毒の作用を含む)、シナプス伝達と短期シナプス可塑性、神経伝達物質系を扱う。第7章は神経系の全体的な構成を説明し、出版社は更新された話題としてグリンパティック系、慢性外傷性脳症、コネクトミクスを挙げている。続く付録は、ヒトの神経解剖学の図解ガイドである。
第2部 感覚系と運動系――第8〜14章:化学感覚――味覚と嗅覚/眼/中枢視覚系/聴覚系と前庭系――聞くこととバランスをとること/体性感覚系――触覚、痛覚、かゆみ/筋肉と脊髄による運動の制御/脳による運動の制御
第2部は感覚系を一つずつ取り上げ、次に運動系を扱う。出版社が挙げる話題には次のものがある。味覚の分子的な変換機構と、ラベル付き回線方式と集団符号化方式(第8章)、色覚異常と受容野(第9章)、視床の神経核と一次視覚野における並列処理経路(第10章)、有毛細胞の変換機構、蝸牛増幅器、人工内耳、音源定位(第11章)、機械受容チャネルと、痛覚・温度感覚・かゆみを担うチャネル(第12章)、脊髄反射回路、固有感覚、ALSなどの疾患(第13章)、そして運動野とパーキンソン病・ハンチントン病(第14章)である。
第3部 脳と行動――第15〜22章:脳と行動の化学的制御/動機づけ/性と脳/情動の脳内機構/睡眠、概日時計、脳のリズム/言語/安静時の脳、注意、意識/精神疾患
第3部は行動の神経生物学を探る。脳の広範な化学的制御、食欲や社会的動機づけを含む動機づけ、脳における性差とジェンダーを扱う。次に情動と内受容感覚、睡眠と概日リズムをヒトの神経活動記録法とともに取り上げる。残りの章は、言語と失語症、デフォルトモードネットワーク、注意と意識の理論、そして精神疾患とその治療を扱う。
第4部 変化する脳――第23〜25章:脳の配線/記憶システム/学習と記憶の分子機構
最後の部は、経験が脳をどのように変えるかを見る。第23章は、軸索誘導や可塑性を含む神経結合の発達を扱う。第24章は、作業記憶、空間記憶と海馬系、そして記憶の固定における睡眠の役割を扱う。第25章は、ホメオスタティック可塑性やシナプスタグ付けと捕獲を含め、シナプス可塑性を分子レベルで扱う。
主要概念
第1部:基礎(第1〜7章)
- ニューロン説:神経系は個別の細胞であるニューロンからなるという考え方。ゴルジとカハールの研究を通じて確立された。
- 静止膜電位と活動電位:静止しているニューロンの電気的な状態と、軸索に沿って信号を運ぶ全か無かのインパルス。
- シナプス伝達:ニューロン間の化学的な情報伝達。短い時間スケールで変化しうる。
- 分析のレベル:分子、細胞、システム、行動、認知の各レベルの神経科学。
第2部:感覚系と運動系(第8〜14章)
- 感覚変換:化学物質、光、音、機械的刺激を神経信号に変換すること。
- 受容野と並列処理:視覚ニューロンが視野の一部にどう応答するか、そして処理経路がどう分かれ、どう統合されるか。
- 脊髄反射と運動野:運動を組織する脊髄の回路と脳の構造。
第3部:脳と行動(第15〜22章)
- 広範投射性の調節系:脳の状態と行動の化学的な制御。
- 概日リズムと睡眠:体内時計と、睡眠を調節する脳の回路。
- デフォルトモードネットワークと注意ネットワーク:安静時や注意の際に活動する大規模な脳ネットワーク。
第4部:変化する脳(第23〜25章)
- 活動依存的な配線:発達の過程で神経結合がどのように洗練されるか。
- 記憶システム:作業記憶、空間記憶、長期記憶と、それらを担う脳構造。
- シナプス可塑性:学習の基盤となる、シナプス強度の持続的な変化。
批判的分析
長所
- 初学者にも取り組みやすい。 出版社は、内容が大学の入門的な生物学の教科書のレベルで示され、理系だけでなく非理系の学生向けにも書かれていると述べている。それに応じて、前提知識は控えめである。
- 筋の通った4部構成。 本書は、ニューロンから感覚系と運動系、行動を経て、変化する脳へと進む。各部は順に教えることも、短い授業のために選んで使うこともできる。
- 行動を幅広く扱う。 第3部は、動機づけ、性と脳、情動、睡眠、言語、意識、精神疾患にそれぞれまるごと1章をあてている。これらは心理学の学生にとって重要なテーマであり、細胞中心のテキストでは手短に扱われることが多い。
- 学習支援。 「発見への道」コラムは、ノーベル賞受賞者を含む第一線の研究者が執筆している。ほかのコラムは医学との関連やより深い内容を扱う。学習目標、復習問題、用語集が含まれ、第1部には図解による神経解剖学の付録が付いている。
- 改訂された版。 2025年の改訂では、遺伝子編集、コネクトミクス、脳刺激などの最近の手法に関する内容に加え、ロングCOVIDと脳のような話題も加わった。
短所
- 最初の授業としては非常に長い。 1,000ページ近い分量は1学期の授業で扱える量を超えており、多くの授業では章を選ぶ必要がある。
- 構成は第4版を引き継いでいる。 章の順序が変わっていないため、計算モデリングやコネクトミクスのような新しい分野は、独立した章ではなく既存の章のなかに追加されている。
- 定量的な扱いは軽い。 出版社によるレベルの説明からすると、生物物理学やモデリングは記述的に示されていると考えられる。計算論的・理論的な研究に進む学生は、より数学的なテキストを必要とする。
コースにおける位置づけ
このリストの神経科学の本のなかで、本書は生物学と心理学の学生の最初の授業に向いた本格的な入門教科書である。Casey Henley の Foundations of Neuroscience は、同様の基礎をより短い節で扱う、無料のオープンライセンスの入門書であり、より軽い代替として、あるいは別の説明を求める学生の副読本として使える。Purves の Neuroscience と Liqun Luo の Principles of Neurobiology は同じ範囲をより深く扱う。Purves は臨床的な証拠も含む包括的な教科書であり、Luo は各原理の背後にある実験を軸に組み立てられている。どちらも自然な次の一歩となる。From Neuron to Brain は、細胞・システム神経科学の解説を鍵となる実験から組み立てている。Dayan と Abbott の Theoretical Neuroscience は、数理モデリングについての大学院レベルのテキストである。
解剖学と臨床的な文脈については、リストにある神経解剖学の本(Crossman の Neuroanatomy: Illustrated Colour Text、Barker らの Neuroanatomy and Neuroscience at a Glance、Blumenfeld の Neuroanatomy through Clinical Cases、Snell's Clinical Neuroanatomy)が Bear の第7章と図解付録を補う。Nestler の Molecular Neuropharmacology と、Cooper、Bloom、Roth の The Biochemical Basis of Neuropharmacology は、第6章、第15章、第22章の内容を発展させる。
本書の使い方
神経科学の予備知識は必要ない。始めるには学校の生物学と化学で十分であり、膜電位に必要な化学は第3章で補われる。
- どの授業でも中心となる部分: 第1〜7章と神経解剖学の付録。膜電位、活動電位、シナプス伝達は他のすべての土台となるので、第3〜5章はじっくり取り組む。
- 感覚系と運動系: 生物学寄りの授業なら第8〜14章を通読する。短い授業なら、感覚系を一つ(最も分量が多いのは視覚の第9〜10章)と、運動を扱う第13〜14章を選ぶ。
- 行動: 心理学や認知科学の学生は、基礎を終えたら第15〜22章から自由に選べる。
- 学習と記憶: 第23〜25章はまとまった最終単元をなし、第5章の内容を土台にしている。
- 学習の方法: 各章冒頭の学習目標をチェックリストとして使い、章末の復習問題に答える。コラムは任意の発展的な読み物として読む。
2学期の授業なら本書全体を扱える。1学期の場合は、第1部と第2部、あるいは第1部に第3部と第4部から選んだ章を加えて学ぶのがよい。
