01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Sher, A. A., & Molles, M. C. (2026). Ecology: Concepts and Applications (2026 release). McGraw Hill.
章の要約
本書は6つのセクション、全23章からなる。自然史と進化から出発し、個々の生物の適応、個体群、種間相互作用を経て、群集、生態系、さらに景観と地球全体の生態学へと、生態学的な組織化の階層を順に上がっていく。McGraw Hill は本書を番号付きの版ではなく、継続的に更新される「リリース」として刊行しており、1学期で終える大学最初の生態学の授業向けに書かれたと説明している。
第1章:生態学入門――歴史的基盤と発展しつつあるフロンティア
冒頭の章は、学問としての生態学を紹介する。章題が示すとおり、この科学の成り立ちと、現在の研究が向かう方向の両方を扱う。
第2〜4章:陸上の生命/水中の生命/集団遺伝学と自然選択
セクションI「自然史と進化」は、まず地球上の主要な環境を概観する。陸上の生命と水中の生命にそれぞれ1章をあて、続いて集団遺伝学と自然選択を扱う。こうして進化は、あらゆる生態学的過程に先立ち、本書全体の枠組みとして導入される。
第5〜8章:温度との関係/水との関係/エネルギーと栄養との関係/社会的関係
セクションII「環境への適応」は個々の生物を扱う。生物が温度や水にどう対処するか、エネルギーと栄養をどう得るか、そして社会的にどう関わり合うかを取り上げる。社会行動は、個体の適応を学ぶ枠のなかで独立した1章を与えられている。
第9〜12章:個体群の分布と個体数/個体群動態/個体群の成長/生活史
セクションIII「個体群生態学」は、個体群がどこに分布し何個体からなるか、時間とともにどう変化するか、どのように成長するか、生活史の形質がどう異なるかを扱う。個体群モデルが導入されるのはこのセクションである。
第13〜15章:種間相互作用と競争/搾取的相互作用――捕食、植食、寄生、病気/相利共生
セクションIV「相互作用」は、種間相互作用の主な種類を順に取り上げる。競争、捕食・植食・寄生・病気という搾取的な関係、そして相利共生である。
第16〜20章:種の個体数と多様性/種間相互作用と群集構造/一次生産と二次生産/栄養塩の循環と保持/遷移と安定性
セクションV「群集と生態系」は、まず群集を扱い、多様性の測り方と、種間相互作用が群集構造をどう形づくるかを論じる。次に生態系に移り、最初の栄養段階とそれより上の段階での生産、栄養塩の循環と保持、遷移による時間的変化を、安定性の問題とあわせて扱う。
第21〜23章:景観生態学/地理生態学/地球生態学
セクションVI「大規模スケールの生態学」は、スケールを景観、地理的パターン、そして最終的に地球全体の生態学へと広げる。
主要概念
セクションI:自然史と進化(第1〜4章)
- 陸上環境と水域環境:陸と水における生命の主要な舞台。生態学的過程を分析する前に提示される。
- 自然選択と集団遺伝学:本書が生態学そのものに入る前、冒頭に置いている進化のメカニズム。
セクションII:環境への適応(第5〜8章)
- 温度との関係・水との関係:個々の生物が暑さ、寒さ、水の供給にどう対処するか。
- エネルギーと栄養との関係:生物が必要とするエネルギーと物質をどのように得るか。
- 社会的関係:同種の個体どうしの相互作用。適応の一側面として扱われる。
セクションIII:個体群生態学(第9〜12章)
- 分布と個体数:個体群がどこに存在し、何個体からなるか。
- 個体群動態と成長:個体群の大きさが時間とともにどう変化するか。
- 生活史:成長と繁殖のタイミングやパターンが生物によってどう異なるか。
セクションIV:相互作用(第13〜15章)
- 競争:種が互いを制限し合う相互作用。
- 搾取:捕食、植食、寄生、病気など、一方の種が他方を食べたり、その犠牲のうえに生きたりする関係。
- 相利共生:双方に利益をもたらす相互作用。
セクションV〜VI:群集、生態系、大規模スケールの生態学(第16〜23章)
- 種多様性:群集に含まれる種の数とその相対的な個体数。
- 一次生産と二次生産:生産者を通じて生態系に入るエネルギーの量と、そのうち消費者に移る量。
- 栄養塩の循環と保持:元素が生態系のなかをどう移動し、どう保持されるか。
- 遷移と安定性:撹乱のあと群集がどう変化するか、そして群集がどれほど安定しているか。
- 景観・地理・地球規模の生態学:地域、大陸、地球全体のスケールでの生態学的なパターンと過程。
批判的分析
長所
- 想定読者がはっきり示されている。 出版社によれば、本書は1学期で学ぶ大学最初の生態学の授業を受ける学生のために書かれた。基礎的な化学と数学の知識、そして進化・生理学・生物多様性の入門を含む一般生物学の履修を前提としているので、読者は読み始める前に自分の準備状況を判断できる。
- 組織化の階層を一通り網羅した構成。 6つのセクションは、生物から個体群、相互作用を経て、群集、生態系、景観、地球全体へと上がっていく。入門的な生態学シラバスの標準的な項目は、すべて1冊に収まる。
- 進化と自然史が最初に来る。 集団遺伝学と自然選択は第4章、陸と水の生命は第2〜3章で扱われ、個体や個体群の生態学より前に置かれている。学生は、進化の枠組みと主要な環境の全体像を身につけたうえで後半の章に進める。
- 他書では埋もれがちなテーマに独立の章がある。 社会的関係、相利共生、景観生態学、地理生態学には、それぞれ、より広い章の一節ではなく、まるごと1章があてられている。
- 野外研究の経歴をもつ著者。 出版社の著者紹介によれば、Sher は復元生態学、河畔域の侵略的植物、定量的な生態学の手法を研究しており、Molles は主に河川と河畔域の生態学、そして気候変動性が生態系に及ぼす影響を研究してきた。
短所
- 1学期分としては分量が多い。 23章は、ほとんどの1学期の授業で深く扱える量を超えている。教員も独学者も、章を選ぶ必要がある。
- 保全や応用生態学そのものを扱う章がない。 目次には、保全生物学、生態系の復元、天然資源管理の章がない。応用的な授業を求める読者は、これらのテーマが独立して扱われることを期待しないほうがよい。
- 進化は1章のみ。 集団遺伝学と自然選択は1つの章を分け合っている。一般生物学で進化をしっかり学んでいない学生は、背景知識を補う必要があるかもしれない。
- 内容が更新され続ける。 McGraw Hill の「エバーグリーン」方式ではリリース間で内容が更新されるため、あるリリースのページ番号、図、演習が別のリリースと一致しないことがある。授業で指定されたリリースを使っているかどうか確認するとよい。
コースにおける位置づけ
このリストの生態学の本のなかで、本書は最初の授業向けの本格的な教科書である。Jaboury Ghazoul の Ecology: A Very Short Introduction は、学問としての生態学とその応用を手短に概観する本で、全体のつながりをつかむために本書の前や並行して読むことができるが、演習や試験のある授業で教科書の代わりにはならない。Bowman と Hacker の Ecology と Relyea の Ecology: The Economy of Nature は、個体から生物圏までという同じ範囲を扱う、最初の授業向けの別の教科書である。Bowman と Hacker は、各章を貫くケーススタディと、気候変動や外来種のような応用的な問題を軸に章を組み立てている。Relyea は各テーマを適応と進化の観点から捉え、生態学データを扱う演習を加えている。Sher と Molles は進化を重視する点で Relyea と共通しており、データ分析の練習を増やしたい学生には Relyea が補助教材として役立つだろう。
本書を読み終えたあとは、Begon と Townsend の Ecology: From Individuals to Ecosystems が、個体から生態系へという同じ道筋をより広く詳しく扱っており、生態学をさらに学ぶ学生にとって自然な次の一歩となる。Mittelbach と McGill の Community Ecology は大学院レベルの総合的な著作で、本書第13〜17章の内容を、数理モデルや最近の理論を用いてはるかに深く掘り下げている。
本書の使い方
本書は、入門生物学を終えた生物学・環境科学専攻の1〜2年生に向いている。個体群と生態系の章では、基礎的な代数と、ある程度の化学が必要になる。実践的な進め方は次のとおり。
- 中心となる流れ: 第1章、続いて自然選択を扱う第4章、そしてセクションIII〜V(第9〜20章)。個体群、相互作用、群集、生態系は、多くの最初の生態学の授業の中核である。
- 背景となる章: 陸と水の生命を扱う第2〜3章は、参照用の資料として使うとよい。最初に読んで全体像をつかみ、後の章で特定のバイオームや水域生態系が出てきたときに読み返す。
- 関心に応じて選ぶ: セクションII(第5〜8章)は生理生態学や行動生態学に関心のある学生に、セクションVI(第21〜23章)は景観、生物地理、地球環境変動の研究に進む学生に向いている。短い授業なら、それぞれ1〜2章で十分なこともある。
- 能動的に取り組む: 個体群の章で成長モデルが導入されたら、式を書き出し、簡単な数値で試してみる。セクションIVの相互作用の各類型について、身近な生息地から例を探してみる。
生態学を続けて学ぶつもりの学生は、扱いが薄いと感じたテーマを書き留めておき、Begon と Townsend のような、より詳しい教科書で補うとよい。
