01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Wolpert, L. (2011). Developmental Biology: A Very Short Introduction. Oxford University Press.
章の要約
本書はオックスフォード大学出版局の「Very Short Introductions」シリーズの第280巻で、約130ページに序論と11の短い章を収める。カバーの紹介文は、本書を発生について知られていることの簡潔な解説と位置づけている。成長の最初の段階から始め、生物学研究のなかでも最も活発な分野の一つを扱う。出版社はウォルパートを著名な発生生物学者として紹介しており、彼は現在 Wolpert's Principles of Development として刊行されている教科書の最初の著者でもある。本書は細胞や胚全体から個々の過程や器官系へと進み、再生と進化で締めくくられる。
序論
序論はまず発生の不思議を示す。直径約10分の1ミリの受精卵が、ひとりの人間をつくる情報をもっているのである。続いて発生学の歴史が素描される。ヒポクラテスは熱と湿り気で発生を説明しようとした。アリストテレスは前成説と後成説という選択肢を立て、後成説を支持した。17世紀には前成説が優勢になった。この問題に決着をつけたのは、細胞説、遺伝は生殖細胞を通じてのみ伝わるというヴァイスマンの考え、そして最終的にはDNAと、タンパク質をコードする遺伝子の発見だった。
第1章:細胞
この章は本書の枠組みを定める。発生は細胞の協調的なふるまいの結果であり、そのふるまいは主に各細胞がもつタンパク質によって決まる。パターン形成、形態形成(形の変化)、細胞分化、成長という4つの過程が導入される。発生の遺伝的制御を理解するには、そこに特異的に関わる遺伝子を突き止めなければならないことが説明される。
第2〜3章:脊椎動物/無脊椎動物と植物
第2章は脊椎動物の胚を、卵割、胞胚または胚盤葉上層、原腸形成、神経管の形成とたどる。頭尾軸と背腹軸がどのように確立されるか、内臓の左右非対称性がどのように生じるか、Hox遺伝子が体軸に沿った位置の情報をどのように与えるかが説明される。第3章は、ショウジョウバエ、線虫 Caenorhabditis elegans、植物のシロイヌナズナに目を向ける。線虫の細胞運命は、シグナル分子の濃度勾配によってではなく、一つ一つの細胞ごとに決まることが多い。植物では、ほとんどの構造が胚の段階のあとに分裂組織からつくられる。
第4〜6章:形態形成/生殖細胞と性/細胞分化と幹細胞
第4章は、動物の胚が原腸形成の際に、細胞の収縮、接着、分裂を通じてどのように形を変えるかを説明する。植物はこれと対照的で、形は方向性のある細胞分裂と、内部の圧力による細胞の伸長から生まれる。第5章は、動物と被子植物における生殖細胞の機能と、性の発生に関わる染色体とホルモンを説明する。第6章は、分化を、転写因子とDNAの化学修飾によって制御される遺伝子活性のパターンの結果として説明する。幹細胞、血液の形成、プログラム細胞死も論じられる。
第7〜8章:器官/神経系
第7章は、勾配によって指定される位置情報が、どのように器官のパターンをつくりうるかを示す。例は、脊椎動物の肢、ハエの成虫の付属肢、昆虫と脊椎動物の眼、血管系、そして花である。第8章は神経系の発生を4つの段階に分ける。神経細胞の性質の指定、標的への軸索の伸長、シナプスの形成、そして枝や細胞を除去することによる結合の洗練である。
第9〜11章:成長、がん、老化/再生/進化
第9章は、章題が示すとおり、成長と、がんや加齢において成長の制御が破綻したときに何が起こるかを扱う。第10章は2種類の再生を区別する。付加再生ではサンショウウオの肢のように新しい構造が成長し、形態調節ではヒドラのように、ほとんど細胞分裂を伴わずに既存の組織のパターンがつくり直される。哺乳類の骨の修復も論じられる。第11章は、多細胞の動物と植物の進化は胚発生の変化の結果だと論じる。その変化は、遺伝子がいつどこで発現するかの遺伝的な変化と、新しいタンパク質の機能から生じる。
主要概念
序論と第1章:細胞
- 後成説と前成説:胚の構造は段階的に生じるのか、最初から存在するのかという歴史的な問い。
- 生殖質:子は生殖細胞を通じてのみ形質を受け継ぐというヴァイスマンの考え。
- 発生の4つの過程:パターン形成、形態形成、細胞分化、成長。
第2〜3章:脊椎動物/無脊椎動物と植物
- 体軸:胚の前後軸、背腹軸、左右軸。
- 原腸形成:体の設計図を築く細胞層の再配置。
- Hox遺伝子:頭尾軸に沿った位置を指定する遺伝子。
- モザイク発生と分裂組織:線虫における細胞ごとの運命決定と、植物における分裂組織からの継続的な成長。
第4〜6章:形態形成/生殖細胞と性/細胞分化と幹細胞
- 細胞接着と収縮:動物の胚の形をつくる細胞の力。
- 生殖系列:多くの動物で、新しい個体をつくることのできる唯一の細胞。
- 転写因子:ある細胞でどの遺伝子が働くかを制御するタンパク質。
- 幹細胞:自己複製し、特殊化した細胞を生み出すことのできる細胞。
第7〜11章:器官/神経系/成長、がん、老化/再生/進化
- 位置情報:細胞が自分の位置について得る情報。勾配から読み取られることが多い。
- 軸索誘導とシナプスの洗練:ニューロンがどのように標的を見つけ、結合がどのように刈り込まれるか。
- 付加再生と形態調節:新たな成長による再生と、既存組織のパターンのつくり直しによる再生。
- 発生を通じた進化:遺伝子発現のタイミングと場所の変化が、新しい形の源となること。
批判的分析
長所
- 主要な教科書の著者による本。 本書は Principles of Development の最初の著者の考え方を凝縮している。位置情報と4つの基本過程を重視することで、どんな胚についても筋道立てて考える方法を読者に与える。
- 小さな紙幅で幅広い比較。 脊椎動物、ハエ、線虫、モデル植物、サンショウウオ、ヒドラがすべて登場する。いくつかの章(形態形成、生殖細胞、器官)では植物と動物が比較される。読者は一般原理と生物間の違いの両方を目にすることになる。
- 歴史から始まる。 序論は、現代の発生生物学を、ヒポクラテスやアリストテレスからヴァイスマンに至る長い思想史のなかに位置づける。これは初学者が、この分野がどんな問いに答えるために築かれたのかを理解する助けになる。
- 胚の先へのつながり。 幹細胞、がんと老化、再生、進化の章は、発生生物学が医学や進化生物学とどこでつながるかを示している。
短所
- 2011年の刊行。 その後の幹細胞のリプログラミング、オルガノイド、ゲノム編集、単一細胞解析の研究は扱われていない。
- 非常に凝縮されている。 約130ページに11章という構成では、主要な過程の名前を挙げる程度にとどまる。分子シグナル経路や実験的証拠の説明は、必然的に短い。
- 授業用の教科書ではない。 本書は手早く全体像をつかむための本である。授業用の教科書のように体系的な学習向けに構成されてはおらず、試験準備を頼ることはできない。
コースにおける位置づけ
本書は発生生物学のリストで最も短い本であり、自然な出発点である。Jamie Davies の Life Unfolding も一般読者向けに書かれているが、ヒトの体と自己組織化に焦点を当て、約300ページある。Wolpert のあとでより長い物語を読みたい読者に向いている。最初の授業の教科書としては、Slack と Dale の Essential Developmental Biology が、少数のモデル生物を通じて一般原理を確立するコンパクトなテキストである。Barresi と Gilbert の Developmental Biology は、主要なモデル生物をより深く扱い、発生を進化、再生、病気、環境と結びつけている。
現在は Cheryll Tickle らが編集する Wolpert's Principles of Development は、Wolpert 自身のアプローチを本格的な分量で受け継ぐ教科書である。細胞生物学と分子生物学の予備知識を前提としており、本書の枠組みを気に入った読者にとって自然な次の一歩となる。Carroll、Grenier、Weatherbee の From DNA to Diversity は、Wolpert の最終章を、発生遺伝子の変化がどのように動物の多様性を生み出すかについての本格的な解説へと発展させている。
本書の使い方
学校の生物学で十分な予備知識となる。本書は、最初の発生生物学の授業に備える学生、全体像を求める他の生物学分野の学生、そして一般読者に向いている。
- 最初に読む: 序論と第1章。本書の残りの部分が繰り返し立ち返る4つの過程を設定している。
- 中心: 第2〜4章と第6〜7章。主要なモデル生物の胚、形態形成、分化、位置情報という、どの教科書も土台とする内容を扱う。
- 関心に応じて: 神経科学の学生には第8章、幹細胞と医学に関心のある人には第6、9、10章、進化生物学者には第11章。
- 教科書と並行して: 教科書の各単元の前に、対応する Wolpert の章を読む。そのあとで、教科書が彼の概略にどんな実験と分子を付け加えているかを書き留める。
本書は2011年のものなので、幹細胞と技術についての記述は出発点として扱い、最近の教科書で情報を更新するとよい。
