01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Johnson, K. (2011). Acoustic and Auditory Phonetics (3rd ed.). Wiley-Blackwell.
章の要約
約230ページの短い本で、音声の物理学と、聞き手がそれをどう聞き取るかを紹介する。2011年にWiley-Blackwellから刊行された第3版は、出版社によれば、親しみやすさと学問的厳密さのバランスをとったものである。構成は2部で、音響学、信号処理、聴覚、音声知覚を扱う基礎の5章と、それらの道具を音声の各類に適用する音声分析の4章からなる。各章の終わりには推薦文献と練習問題があり、巻末に一部の解答がある。
第I部 Fundamentals(第1–5章)
- 第1章:Basic Acoustics and Acoustic Filters. 音の感覚と伝播から始め、単純周期波、複合周期波、非周期波を区別し、音響フィルターで終わる。
- 第2章:The Acoustic Theory of Speech Production: Deriving Schwa. 音源・フィルター論の立場をとる。声帯振動と声道のフィルター作用から出発し、振り子、定在波、音響管の節と腹を使って、シュワーの母音フォルマントを導く。
- 第3章:Digital Signal Processing. 連続信号と離散信号、アナログ・デジタル変換(標本化と量子化)、分析法として、RMS振幅、高速フーリエ変換、自己相関によるピッチ追跡、デジタルフィルター、線形予測符号化、スペクトルとスペクトログラムを扱う。
- 第4章:Basic Audition. 末梢聴覚系の解剖、音の大きさ、聴覚の周波数応答、飽和とマスキング、聴覚表象を述べる。
- 第5章:Speech Perception. 出版社によれば今回の版で新しい章。聴覚の能力、音声学的知識(範疇的知覚と音声的整合性を含む)、言語的知識が知覚をどう形づくるかを扱い、摩擦音の知覚地図を含む知覚的類似性で終わる。
第II部 Speech Analysis(第6–9章)
- 第6章:Vowels. 母音産出の管モデル、摂動理論、量子論と適応的分散による「好まれる」母音、母音フォルマントと音響的母音空間、母音の聴覚的・音響的表象、言語横断的な母音知覚を扱う。
- 第7章:Fricatives. 乱流、調音位置、摩擦音への量子論の適用、摩擦音の聴覚スペクトル、摩擦音知覚の次元を扱う。
- 第8章:Stops and Affricates. 音源関数(発声の型と音源)、閉鎖音における声道フィルター関数、破擦音、閉鎖音の聴覚的性質、さまざまな母音文脈における閉鎖音の知覚を扱う。
- 第9章:Nasals and Laterals. 帯域幅、鼻閉鎖音、側音、鼻音化、鼻子音の知覚を扱う。
主要概念
第1–3章
- 単純波、複合波、非周期波:冒頭の章で区別される3種類の音波。
- 音響フィルター:声道が音源を形づくる働きで、音声産出の理論の基礎。
- 標本化と量子化:アナログ・デジタル変換の二つの段階。
- 高速フーリエ変換と線形予測符号化:スペクトルとフォルマントの推定のための分析法。
第4–5章
- マスキングと飽和:耳が音に反応する際の限界。
- 聴覚表象:耳の処理によって音響信号がどう変換されるか。
- 範疇的知覚:連続的な音響差を離散的なカテゴリーとして知覚すること。
第6–9章
- 量子論:調音空間の一部の領域が安定した音響的結果を生むという考えで、ここでは母音と摩擦音に適用される。
- 適応的分散:「好まれる」母音体系の理論。
- 摂動理論:声道の形が変わったときにフォルマントがどう動くかを予測する方法。
批判的分析
長所
- 物理学を基本から組み立てる。 第2章は管の音響学からシュワーを導き、第1章は音の感覚から始まるので、読者は道具を使う前にそれを知ることができる。
- 産出、信号、聴取を1冊で。 音響理論、デジタル信号処理、聴覚、音声知覚が一緒に扱われ、音声分析の章では音の各類に音響と聴覚の両面から戻る。
- 各章の練習。 各章の終わりに推薦文献と練習問題があり、短答問題の一部に解答がつくため、独習にも向く。出版社は関連話題を扱うコラムにも触れている。
- 簡潔。 第3版は250ページ弱で、2部構成が明快であり、1学期の科目に収まる分量である。
- 新しい版。 出版社は、実際的な関心だけでなく理論的な問題も扱う音声知覚の新章を特色として挙げている。
短所
- 技術的な内容。 第3章でデジタルフィルター、FFT、線形予測符号化が導入されるため、信号分析に不慣れな読者は、練習問題とともにこの章を丁寧に進める必要がある。
- 扱う音の類が限られる。 第II部は母音、摩擦音、閉鎖音と破擦音、鼻音と側音を扱っており、接近音など他の類や韻律についての独立した章は目次にない。
- 調音の基礎は前提。 本書は音声学入門の履修を前提とし、転写や調音をゼロから教えるものではない。
- 版の時期。 2011年版は、音響分析のソフトウェアや手法のその後の発展より前のものである。
コースにおける位置づけ
音声学・音韻論のリストのなかで、音響に重点を置いた本である。LadefogedとJohnsonの A Course in Phonetics は、音声産出と国際音声記号による転写を実践的に学べる入門書で、最初に読む本として自然である。Peter Ladefogedの Elements of Acoustic Phonetics は、音声の音響分析に関する、より古い古典的な案内書である。Clarkらの An Introduction to Phonetics and Phonology は調音、音響、音韻の内容を併せもち、Carley、Mees、Collinsの Practical English Phonetics and Phonology は英語の音のワークブックである。Oddenの Introducing Phonology はデータに基づく音のパターンの入門である。調音音声学がしっかりした段階で、音響信号を理解し測定したいときに選ぶのがJohnsonの本である。
本書の使い方
調音音声学の最初の科目を履修済みで、グラフを読める言語学、音声科学、音声学の学部生や大学院初年次に向く。
実際の読み方の例は次のとおり。
- 核: 音と音源・フィルター論を扱う第1・2章、ソフトウェアで使う分析法を扱う第3章、母音を扱う第6章。
- 知覚を重視する科目: 第4・5章。
- 子音の章: 最初の6章のあとの第7–9章は、科目に応じてどの順でもよい。
- 練習: 各章末の練習問題を解き、一部の解答と照合し、第3章の方法に合わせて音響分析ソフトで録音を分析する。
