01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Wacks, R. (2010). Privacy: A Very Short Introduction. Oxford University Press.
章の要約
本書はオックスフォード大学出版局の「Very Short Introductions」シリーズの一冊で、176ページの小型本、全6章から成る。出版社の説明によれば、電子的監視、生体認証、CCTV、IDカード、RFIDタグ、オンラインのセキュリティ、従業員の監視、DNAから、言論の自由とプライバシーの緊張関係を経て、プライバシーの将来までを扱う概観である。著者のレイモンド・ワックスは香港大学の法学・法理論の名誉教授で、30年以上にわたりプライバシーについて著してきた。本書は一つの立場から書かれている。プライバシーは圧力にさらされた基本的価値であり、それを守るにはより明確な思考が必要だ、という立場である。
第1章:The Assault(攻撃)
現代のプライバシーへの脅威を取り上げる。国家と企業による監視、盗聴・傍受、CCTV、生体認証、RFIDタグ、データベース、なりすまし、オンライン上の追跡などである。何が脅かされているのか、なぜそれが重要なのかという、以後の章の問いを設定する。
第2章:An Enduring Value(不変の価値)
技術から一歩引いて、プライバシーはなぜ尊重されてきたのか、どう定義できるのかを問う。プライバシーを特定の時代や文化に限られない人間的価値として考察し、多様な利益を指して使われるこの概念を特定することの難しさを論じる。著者が個人情報をプライバシーの中核に据えようとすることの哲学的な土台を整える章である。
第3章:A Legal Right(法的権利)
法の側面に移る。アメリカの取り組みでは、プライバシーは憲法上の自由と自律に結びつけられており(ブランダイスの早い提唱やRoe v Wadeなどの判決が参照点となる)、これをヨーロッパの人権とデータ保護に基づく取り組みと比較する。また、侵入や私的事実の公開から生じる私法上の請求も検討し、プライバシーの単一の法的権利がどこまで実行可能かを問う。
第4章:Privacy and Free Speech(プライバシーと表現の自由)
報道の自由と私生活の保護の衝突を扱い、著名人とメディアをめぐる事件を取り上げる(索引にはナオミ・キャンベルやキャサリン・ゼタ=ジョーンズなどの名がある)。新聞、パパラッチによる撮影、親密な事柄の暴露に対し、裁判所が公共の利益とどう比較衡量するかを問う。
第5章:Data Protection(データ保護)
個人情報の規制を扱う。データ主体とデータ利用者の地位、データ保護制度の諸原則、プライバシー・コミッショナーのような規制機関の役割である。主にヨーロッパの制度を中心とし、アメリカの取り組みを対比させ、暗号化などの技術的保護手段にも触れる。
第6章:The Death of Privacy?(プライバシーの死?)
プライバシーは消えつつあるのか、それとも形を変えているだけなのか、また法、技術、世論に何ができるのかを問うて締めくくる。著者の結論は、プライバシーは引き続き守るに値する不可欠な価値だというものである。
主要概念
第1〜2章:攻撃、不変の価値
- 監視:国家や民間機関が、CCTV、傍受、生体認証、RFIDなどを通じて個人を監視すること。
- 価値としてのプライバシー:特定の法規則とは別に、プライバシーそれ自体が重要だという主張と、その定義の難しさ。
第3〜4章:法的権利、プライバシーと表現の自由
- 憲法上のプライバシー:プライバシーを自由と個人の自律に結びつけるアメリカの判例の系譜。
- 私法上の請求:侵入や私的事実の公開に対する訴え。
- 表現の自由とプライバシー:情報に対する公共の利益と、放っておかれる個人の利益との均衡。
第5〜6章:データ保護、プライバシーの死?
- データ保護:個人データの収集・利用・開示を規律する法規則、データ主体の地位、規制機関による監督。
- 情報プライバシー:個人情報に対する支配であり、著者が重点を置くプライバシーの側面。
批判的分析
長所
- **専門家による簡潔な概観。**著者は数十年にわたりプライバシーを研究しており、本書は技術、哲学、比較法、報道の自由、データ保護を6つの短い章で扱う。より専門的な本を選ぶ前に全体像を知りたい読者に向く。
- **明確な構成上の問い。**脅威(第1章)、価値(第2章)、法的保護(第3章)、主要な対立利益(第4章)、規制(第5章)、将来(第6章)という順序で、初学者に分野の地図を与える。
- **比較による枠組み。**アメリカの憲法上のプライバシーを、ヨーロッパのデータ保護・人権法と並べることで、同じ名の下で法体系ごとに異なる利益が保護されている理由が見えやすくなる。
- **読みやすいとの評。**書店掲載の書評は、著者を博識で説得力のある擁護者と評し、本書を小さいが濃密だと述べている。
短所
- **立場のある議論。**著者は特定のアプローチを主張しており、本書は中立的な概観であると同時に議論でもある。他の論者の説明も併せて読む必要がある。
- **短く、古くなっている。**176ページでは各領域を概説できるだけで、刊行は2010年であり、技術、判例、データ保護法はその後大きく変化した。2015年に章題を改めた第2版が出ているため、手元の版を確認すること。
- **教義書ではない。**試験に必要な、私的情報の濫用に関するイングランド法の詳細や人権法の判例は学べない。
コースにおける位置づけ
このコースの図書一覧では、Merris AmosのHuman Rights Lawは、人権法と欧州人権条約を軸にした英国の人権法の教科書である。Harris、O'Boyle、WarbrickのLaw of the European Convention on Human Rightsは、ストラスブールの判例を通じて条約上の権利を詳述した学術書である。Conor GeartyのCivil LibertiesとLiberty and Securityは市民的自由と自由・安全保障の均衡を扱い、On Fantasy Islandは人権法を政治的文脈で論じる。Kai MöllerのThe Global Model of Constitutional RightsとAileen KavanaghのThe Collaborative Constitutionは、権利がどう裁かれ、どう保護されるかを論じる著作である。
Wacksは、テーマに特化した読みやすい入口である。一度か二度で通読し、プライバシーがなぜ争われるのかを理解したうえで、授業が第8条やデータ保護に進んだときの背景として使うのがよい。
本書の使い方
1年生や専門外の読者に向いており、法律の予備知識は不要である。章が順に積み上がっているため、通して読むこと。時間が限られる場合、法的な核心は第3章と第5章で、第4章はメディア法や表現の自由を学ぶ人に有用である。
一次資料と併用する。第3章の後には、人権法の教科書で第8条の主要判決を読み、第5章の後には、現行のデータ保護法と規制機関の指針を確認する。著者自身の立場は一つの見解として扱い、他の文献と照らして検証すること。
