01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Willis, K. (2021). Theories and Practices of Development (3rd ed.). Routledge.
章の要約
本書は全8章、本文約233ページ(全体で292ページ)のコンパクトな教科書である。Routledge の紹介によれば、開発をめぐる考え方と政策がどのように展開してきたかを、経済・政治・社会・環境・空間の各側面から述べ、開発は地方・国家・地球規模のそれぞれの水準での権力の不平等と結びついているため、決して中立的な概念ではない、と論じている。第2章と第3章が主要な理論的伝統を担い、第4〜7章はテーマ別の章である。
第1章:開発の意味
全書で最も長い章(1〜35ページ)で、「開発」という語が何を指すと受け取られているかを扱う。Routledge は開発を権力と結びついた概念として提示しており、この冒頭の意味の検討が、その枠組みを以後の章に向けて準備する。
第2章:近代化、ケインズ主義、新自由主義
2つある理論の章の1つ目で、主流の開発政策を形作ってきた3つの立場をまとめて扱う。近代化の考え方とケインズ型の国家介入から、市場志向の新自由主義的改革までである(36〜65ページ)。
第3章:構造主義、ネオ・マルクス主義、社会主義
2つ目の理論の章(66〜98ページ)で、構造主義、ネオ・マルクス主義、社会主義の立場を扱う。第2章の主流の立場と並べて置かれる伝統である。
第4章:政治と開発
今版で新設された章。Routledge によれば、開発と民主主義、市民社会組織、人権をめぐる議論を提示する。
第5章:草の根の開発
草の根の開発を扱う章(133〜159ページ)。名称が示すとおり、地域社会の水準から出発する開発の立場を検討する。
第6章:開発の社会的・文化的側面
開発の社会的・文化的な側面を扱う章。Routledge は、今版で多様性と開発に関する節が拡充されたと述べている。
第7章:環境と開発
環境と開発の関係を扱う章(190〜222ページ)で、テーマ別の章の最後にあたる。
第8章:結論
短い終章(223〜233ページ)。Routledge によれば、本書全体は「持続可能な開発目標」の時代における開発の将来を考察している。
主要概念
第1〜3章:意味と理論
- 中立ではない概念としての開発:全書の組織原理となる主張で、開発の定義と戦略には不平等な権力関係が伴うという考え方。
- 近代化、ケインズ主義、新自由主義:第2章でまとめて扱われる3つの立場で、主流の開発を形作ってきた政策の枠組み。
- 構造主義、ネオ・マルクス主義、社会主義:第3章の批判的な伝統。
第4〜8章:テーマと実践
- 民主主義、市民社会、人権:新設された政治の章の主題。
- 草の根の開発:地域社会の水準から出発する開発の立場。
- 多様性:社会的・文化的な差異。開発が経験され、推進されるあり方の一部である。
- 持続可能な開発目標:Routledge によれば、本書が開発の将来を考える際の時代背景となる政策の枠組み。
批判的分析
長所
- コンパクトで、理論を軸に構成されている。 8章・約233ページで開発論争を短い道のりでたどることができ、2つの理論の章がテーマ別の章の前に明確な幹をなしている。
- 一貫した批判的枠組み。 Routledge は、開発が複数の水準の権力の不平等と絡み合うものとして扱われていると述べており、これにより個々の伝統を比べるための共通の問いが得られる。
- 現在の議論に合わせて更新されている。 第3版は政治と開発の章を加え、多様性の扱いを拡充し、持続可能な開発目標を見据えている。
- 学習を助ける工夫。 出版社は、理論が実践でどう働くかを示すボックス記事、表、図版を挙げており、各章の末尾には要約、討論課題、参考文献、ウェブ資料がある。
短所
- 深さより広さ。 近代化、ケインズ主義、新自由主義が約30ページの1章を、構造主義、ネオ・マルクス主義、社会主義がもう1章を分け合っており、各伝統は掘り下げた分析ではなく概観にとどまる。
- 部門別・地域別ではなくテーマ別。 章題には、農業・保健・都市化といった特定の部門や地域は挙げられていない。そのため、それらを必要とする読者は、テーマ別の章の中の例として見いだすか、別の本に頼ることになる。
- 視覚資料は多くない。 Routledge が挙げるのは292ページに対して51点の白黒図版であり、地図やデータのグラフを豊富に求める読者は別の資料が必要になる。
コースにおける位置づけ
Willis の本は、理論を軸に組み立てられた簡潔な教科書である。Potter らの Geographies of Development は、理論を植民地の歴史、グローバル化、制度、都市と農村の地域に結びつける、地理学を主軸とした入門書とされ、地図と事例を用いる。Willis より場所に即した材料がほしい読者にとって自然な組み合わせである。Sheppard らの A World of Difference は、開発を論争的な概念として扱う本格的な地理学の書で、Willis の各伝統になじんだ後に二巡目として読むのに向く。
Amartya Sen の Development as Freedom は、人々が実際に享受する自由によって開発を評価すべきだと論じ続ける書であり、第1章の開発の意味の議論と並べて読む一次文献になる。Jeffrey Sachs の The Age of Sustainable Development は、経済学者が一般読者向けに書いた図版入りの入門書で、第7章・第8章と合わせて読むのによい。The Companion to Development Studies は短い章を集めた大部の編著の参考書で、Willis が紹介する概念や論争を調べるのに最も適している。
本書の使い方
Routledge は本書を、地理学・政治学・開発学の学部生向けに位置づけている。Routledge は明快で読みやすい入門書だとしており、開発についての事前学習は特に必要ないようである。人文地理学や社会科学の入門科目を履修しておくと、用語が理解しやすい。
実際的な進め方は次のとおりである。まず第1〜3章を順に読む。後の章が前提とする定義と、3つの系統の理論がここで確立されるからである。そのうえで、授業に合わせて第4〜7章から選ぶ。統治と権利には第4章、参加型・地域社会の立場には第5章、社会的差異には第6章、環境問題には第7章である。第8章は短く、それまでの章を読み終えた後の締めくくりとして読める。
各章末の討論課題と参考文献リストを使って概観から原典の著者へ進み、各理論の章を、開発を扱ったより長い本の事例と組み合わせて、その理論がどれだけうまく説明できるかを確かめるとよい。
