01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Kossiakoff, A., Seymour, S. J., Flanigan, D. A., & Biemer, S. M. (2020). Systems Engineering Principles and Practice (3rd ed.). John Wiley & Sons (Wiley Series in Systems Engineering and Management).
章の要約
第3版は5つの部に23章を収め、本文は約640ページ(Wiley の表示では全688ページ)で、3つの版すべての序文を載せている。著者たちはジョンズ・ホプキンス大学ホワイティング工学部のシステムズエンジニアリング課程の教員であり(または教員であった)、その課程の主任を務めたのが、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所の元所長・主任科学者 Alexander Kossiakoff である。Wiley は本書を、複雑な技術システムの開発と調達について学ぶ学部上級生と大学院生のための入門的な最初の教科書と紹介し、読者に「システムズエンジニアのように考える」ことを教えるよう構成されているとして、リスク、プロトタイピング、モデリングとシミュレーション、ソフトウェア・システムズエンジニアリングについての記述が更新されたことを挙げている。各章は要約の節で終わり、無料で公開されている第1章の抜粋では、その後に問題と参考文献の一覧が続いている。
第I部 第1章:システムズエンジニアリングと現代のシステムの世界
無料の抜粋として読める冒頭の章は、システムズエンジニアリングの機能を複雑なシステムのエンジニアリングを導くことと定義し、「システム」を、多様な要素が入り組んだ関係をもつエンジニアリングされたシステムに限定する(洗濯機はこれにあたらない)。システムズエンジニアリングが従来の専門分野とどう違うか(システム全体を見ること、概念開発を主導すること、専門分野の橋渡しをすること)、プロジェクト管理とどう関係するかを説明し、続いてシステムズエンジニアリングの全体像、「システムズエンジニアリングの視点」、それを必要とするシステムの例、典型的な活動と文書、職業としてのシステムズエンジニアリング、そして経験、メンタリング、幅と深さを兼ね備えた「T字型」の組み合わせに基づくキャリア開発モデルを概観する。
第I部 第2–4章:複雑なシステムの構造/システム開発プロセス/システムズエンジニアリングのマネジメント
第2章はシステムを要素、階層、構成ブロック、環境、インターフェースに分析し、複雑性を論じる。第3章は本書全体で用いるシステムのライフサイクル、開発の進化的な性格、「システムズエンジニアリング手法」、開発全体を通じた試験を示す。第4章は開発のマネジメントを扱い、作業分解構成(WBS)、システムズエンジニアリング・マネジメント計画、システムズエンジニアリングの組織を論じる。
第II部 第5–8章:ニーズ分析/要求分析/機能分析/評価と選定
概念開発の段階である。第5章は新しいシステムの発案、システム思考、運用分析、実現可能性、ニーズの妥当性確認を扱う。第6章はシステム要求を展開し、その源泉、属性、階層、指標、検証と妥当性確認を論じ、従来型とアジャイル型の要求開発を比較する。第7章は概念の選定、機能分析と配分、機能分析の成果物とトレーサビリティを扱う。第8章は代替案分析、オペレーションズ・リサーチの技法、経済性と費用負担能力、概念の選定と妥当性確認を扱い、ここでも従来型とアジャイル型を比較している。
第II部 第9–12章:システムアーキテクティング/モデルベース・システムズエンジニアリング(MBSE)/意思決定分析と支援/リスク管理
第9章はアーキテクチャの種類、アーキテクチャ・フレームワークとビュー、アーキテクチャの開発、トレーサビリティ、妥当性確認を紹介する。第10章は MBSE とその言語・ツール、ライフサイクル全体での利用を例とともに紹介する。最も長い章の一つである第11章は、意思決定、モデリング、シミュレーション、トレードオフ分析、評価手法を扱う。第12章はリスク管理をライフサイクルのなかに位置づけ、リスクのトレーサビリティと分析技法を論じる。
第III部 第13–17章:先行開発/ソフトウェア・システムズエンジニアリング/工学設計/システム統合/試験と評価
エンジニアリング開発の段階である。第13章は不確実性の低減を扱い、リスクを減らす手段としてのプロトタイプ開発や開発試験を含む。本書で最も長い第14章はソフトウェアを扱い、その構成要素、複雑性と抽象化、ライフサイクル・モデル、分析と設計、コーディング、統合と試験、マネジメントを論じる。第15章は構成要素の設計、設計の妥当性確認、構成管理を扱う。第16章は統合の階層、統合の種類、計画と設備を扱う。第17章は開発試験と運用試験・評価、ヒューマンファクターの試験、試験計画と試験のトレーサビリティ、システム・オブ・システムズの試験を扱う。
第IV部 第18–20章:生産/運用と支援/システム・オブ・システムズ・エンジニアリング
開発後の段階である。工場におけるシステムズエンジニアリングと開発から生産への移行(第18章)、設置、運用中の支援と大規模な改修、そして開発を方向づけるべき運用上の要因(第19章)、システム・オブ・システムズ・エンジニアリングの違い、種類、属性、課題(第20章)を扱う。
第V部 第21–23章:エンタープライズ・システムズエンジニアリング/システムセキュリティ・エンジニアリング/システムズエンジニアリングの未来
より広い領域を扱う3つの短い章である。エンタープライズ・システムズエンジニアリングの定義、プロセス、課題、セキュリティの種類とそのシステムズエンジニアリングへの応用、システム・アプローチを適用すべき領域と未来のシステムズエンジニアの教育を論じる。
主要概念
第I部:基礎
- システムズエンジニアリング:システム全体の成功を中心目標として、複雑なシステムのエンジニアリングと開発を導くこと。
- システムズエンジニアリングの視点:個々の部分の目標をシステム全体の目標に従わせること。
- システムのライフサイクル:概念開発からエンジニアリング開発を経て開発後に至る段階で、本書の構成の軸となる。
- 作業分解構成と SEMP:システムズエンジニアリングを計画し管理するための主な道具。
第II部:概念開発
- ニーズ分析と運用分析:新しいシステムが必要で実現可能であることを確かめること。
- 要求の階層とトレーサビリティ:要求を構造化し、機能と設計を通じて追跡すること。
- 機能分析と配分:システムがなすべきことを定め、機能を要素に割り当てること。
- アーキテクチャ・フレームワークと MBSE:アーキテクチャのビューと形式的なモデルによってシステムを記述すること。
- トレードオフ分析とリスク管理:代替案の中から選び、不確実性を管理すること。
第III–V部:開発、展開、領域
- リスク低減としてのプロトタイピング:本格的な開発の前にプロトタイプをつくって不確実性を減らすこと。
- 統合と試験・評価:システムを組み上げ、開発試験と運用試験で検証すること。
- システム・オブ・システムズ:連携して機能しなければならない独立したシステムの集まり。
- エンタープライズとセキュリティのシステムズエンジニアリング:システム・アプローチを組織とセキュリティに広げること。
批判的分析
長所
- 明快なライフサイクル構成。 各部は基礎と概念開発からエンジニアリング開発を経て、生産、運用、支援へとシステムをたどるため、本書を分野全体の地図として使うことができる。
- 概念開発を深く扱う。 第II部は、ニーズ、要求、機能、評価、アーキテクチャ、MBSE、意思決定分析、リスクに8章をあてている。第1章が論じるように、これはシステムズエンジニアが設計を主導する段階である。
- 現在の実務に合わせた改訂。 この版では MBSE の章、要求と概念評価における従来型とアジャイル型の比較、システム・オブ・システムズ、エンタープライズ、セキュリティについての章が加わっている。
- 職業についての記述が充実。 第1章は、システムズエンジニアリングが他の専門分野やプロジェクト管理とどう違うか、システムズエンジニアがどのように育つかを論じており、その役割が何を伴うのかを学生が理解する助けになる。
短所
- 新しい話題は深さより幅。 MBSE、エンタープライズ・システムズエンジニアリング、セキュリティ、システム・オブ・システムズにはそれぞれ13–21ページの章が1つずつあてられているだけで、全体像をつかむには足りても実践には足りない。たとえば SysML によるモデリングには専用の教科書が必要である。
- 数学は軽い。 定量的な手法は第8章と第11章に集中しており、目次には信頼性、保全性、ライフサイクル・コストのモデルの章がない。それらを必要とする学生は他の資料を探す必要がある。
- 大規模プログラム志向。 応用物理研究所での著者の経歴と、複雑なシステムの開発と調達への重点により、本書は大規模プログラムを志向している。小規模な製品チームの読者はプロセスを縮小して適用する必要がある。
- 長い。 約640ページあり、1つの授業で扱いきるのは難しく、取捨選択が必要である。
コースにおける位置づけ
このシステムズエンジニアリングのコースで、Kossiakoff らはプロセス志向の主教科書にあたる。Blanchard と Fabrycky の Systems Engineering and Analysis は同じライフサイクルを、はるかに多くの定量分析(意思決定モデル、経済性、最適化、信頼性、ライフサイクル・コスティング)とともに扱う。Kossiakoff の第1章もこれを参考文献に挙げており、両者は互いをよく補い合う。Jon Holt の Systems Engineering Demystified は MBSE と SysML を軸にした初学者向けの入門書で、第10章のよい副読本になる。
Buede と Miller の The Engineering Design of Systems は、要求とアーキテクチャをモデルベースで扱い、第6–10章を発展させる。Crawley、Cameron、Selva の System Architecture は、本書では第9章で扱われるアーキテクティングを、本格的な意思決定の分野へと発展させる大学院向けの教科書である。Dym らの Engineering Design: A Project-Based Introduction は工学設計の最初の授業向けの本で、本書の前に読むことができる。
本書の使い方
本書は、工学や理学の学部上級生と大学院生、そしてシステムの役割に移ろうとしている技術者に向いている。少なくとも1つの工学分野に通じていると例を理解しやすい。Wiley のサイトで無料公開されている第1章の抜粋は、本書の文体を判断するのによい手がかりになる。
1学期で使う場合の実践的な計画:
- 中核: 用語とライフサイクル・モデルのために第I部(第1–4章)を、続いて概念開発の中心である第5–8章を読む。
- 焦点に応じて選ぶ: アーキテクチャと MBSE については第9–10章、意思決定とリスク分析については第11–12章。プロジェクト型の授業では4章すべてが役に立つ。
- 開発と展開: エンジニアリング開発、統合、試験については第13章と第15–17章、ソフトウェア集約型システムに取り組む学生には第14章、生産と支援については第18–19章。
- 任意: 第V部と第20章は、ゼミやレポート向けである。
章末問題に取り組み(たとえば第1章の問題は、計算ではなく説明と議論を求めている)、参考文献の一覧を使ってさらに深く学ぶこと。第10章はモデリングの教科書やツールと組み合わせ、授業で計算が求められる場合は、第8章と第11章を Blanchard と Fabrycky の定量的な章と組み合わせるとよい。
