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工学

工学

A Heat Transfer Textbook(伝熱工学教科書)

John H. Lienhard V; John H. Lienhard IV

英語原題: A Heat Transfer Textbook

二人の工学教授による伝熱工学の入門教科書で、伝導、対流、ふく射、物質移動を物理的原理から展開し、次元解析と工学的判断を重視する。著者は第6版(2024年)を無料でダウンロードできるよう公開しており、その前の第5版は Dover からペーパーバック版(2019年)が刊行されている。

前提知識: 常微分方程式までの微分積分学と熱力学の入門科目。対流の章では流体力学の知識があると理解しやすい。

難易度レベル
初級
学術レベル
学部
heat transferconductionconvectionthermal radiationopen access教科書

01 / 読書ガイド

読書ガイド

引用

Lienhard, J. H., V, & Lienhard, J. H., IV. (2024). A Heat Transfer Textbook (6th ed., Version 6.00). Phlogiston Press. Free official edition: https://ahtt.mit.edu/

章の要約

第1章:序論

第I部「熱交換の一般的問題」は、伝熱を定義し、それを熱力学の第一法則・第二法則(熱の流れによるエントロピー生成を含む)と関係づけ、三つの伝熱形態を導入する章から始まる。フーリエの法則による熱伝導、ニュートンの冷却則と熱伝達率による対流、ステファン=ボルツマン、ウィーン、プランクの法則による放射である。章の最後では、本書で繰り返し現れる三つの課題――熱伝導方程式を解くこと、h を求めること、放射の形態係数を求めること――を見通し、章末問題のねらいを説明する。

第2章:熱伝導の概念、熱抵抗、熱通過率

この章は熱伝導方程式を導き、平板・円筒・球における1次元定常問題を解くための段階的な方法を示し、フーリエ、フィック、オームの法則の間の電気的アナロジーを展開する。熱抵抗回路、接触抵抗、保温の臨界半径、熱通過率 U(汚れ係数を含む)を多くの例題とともに導入し、章で確立した内容を短いまとめで列挙する。

第3章:熱交換器の設計

第一法則と U を用いて、二つの流体の流れの間で熱がどのように交換されるかを導く。主な熱交換器の形式(並流と向流、シェル・アンド・チューブ、直交流)を説明し、対数平均温度差とその補正係数を導き、出口温度が未知の場合のための温度効率-NTU 法を導入し、既存の熱交換器の性能評価と設計寸法の決定の違いを論じる。序文は第1〜3章を合わせて伝熱の「ミニコース」と呼んでいる。

第4章:伝導解析、次元解析、フィンの設計

第II部「熱伝導の解析」は、熱伝導問題を適切に設定する(well-posed にする)とはどういうことか、一般解をどう求めるかの説明から始まり、変数分離で解く2次元定常問題も含む。著者はさらに独自の簡略化された次元解析の方法(「関数置換法」とπ定理)を示し、これを以後のすべての章で用いて、複雑な定常伝導問題に適用する。章の最後はフィンの設計で、フィンの方程式とフィン効率から、ステゴサウルスの背板のような自然界のフィンの例までを扱う。

第5章:非定常および多次元の熱伝導

非定常な加熱がいかに無駄を生むかの例として、ジェームズ・ワットによるニューコメン機関の改良から始まり、集中熱容量による冷却とビオ数、平板の級数解、温度応答線図と1項近似、半無限領域への熱伝導(日本刀の鍛造で例示)を扱う。最後の節では、形状係数や熱流線図法を含む定常の多次元伝導と、1次元解の重ね合わせによる非定常の多次元伝導を導入する。

第6章:層流および乱流境界層

第III部「対流熱伝達」は本書で最も大きな部である。この章は平板上の層流境界層について連続の式、運動量方程式、エネルギー方程式を導き、速度境界層と温度境界層を結びつけるプラントル数の役割を説明し、積分法と相似解から熱伝達率を求める。レイノルズ=コルバーンのアナロジーを示し、続いて――この版で全面的に書き直された部分である――乱流境界層、乱流境界層における熱伝達、そして全体の熱伝達のための遷移の扱いを述べる。

第7章:さまざまな形状における強制対流

章は内部流へと移る。管内の層流の速度分布と温度分布の発達、十分に発達した流れのヌッセルト数、乱流管内流とその相関式、加熱される管を熱交換器とみなす考え方である。続いて、水力直径による非円形ダクト、円柱と管群まわりの直交流を扱い、解析の及ばない形状について経験的な相関式を探し評価するための助言で締めくくる。

第8章:単相流体の自然対流と膜状凝縮

浮力による自然対流と重力による膜状凝縮は物理を共有しているため、この章では両者の支配方程式を並べて展開する。続いて、鉛直等温平板上の層流自然対流(次元解析、実験データ、チャーチル=チューの相関式)、円柱・球・水平平板・閉空間における自然対流、そして最後にヌッセルトの解析を含む平板と円柱上の層流膜状凝縮を扱う。

第9章:沸騰およびその他の相変化における熱伝達

1934年の抜山の実験とプール沸騰曲線から出発し、核生成と核沸騰、テイラー不安定性に基づく限界(バーンアウト)熱流束の流体力学的理論、膜沸騰と膜状凝縮とのアナロジー、極小熱流束、遷移沸騰を説明する。さらに表面とシステムの影響、管内の強制対流沸騰と凝縮、滴状凝縮、ヒートパイプへと進む。

第10章:放射伝熱

第IV部はこの独立した章で、第2章以降ならどこでも読める。第1章の放射の概念を基礎に、キルヒホッフの法則と放射率・吸収率の関係、有限な黒体間の形態係数とその計算法、拡散灰色体間の熱交換のための電気回路網の方法、吸収・射出する気体を通る放射、そして大気による吸収の役割を含む太陽エネルギーを扱う。

第11章:物質移動入門

この版で大幅に改訂された第V部は、混合物の組成と化学種の流束、2成分混合物におけるフィックの法則、化学種保存の式、静止媒体中の拡散を導入する。低い物質移動速度での対流物質移動について熱と物質移動のアナロジーを展開し、それを熱と物質の同時移動(蒸発、湿球温度)に適用する。続いてクエット流(停滞膜)モデルで高い物質移動速度とその熱伝達への影響を扱い、混合物の輸送物性の推定と、新たに加えられた多成分・非理想拡散の節で終わる。

主要概念

第1章:序論

  • フーリエの法則:熱流束は温度勾配の符号を変えたものに比例し、その比例定数が熱伝導率である。
  • 熱伝達率 h:対流による熱流束と、表面と流体の温度差との比。
  • 黒体放射:プランクの法則に従う放射で、それを積分するとステファン=ボルツマンの法則が得られる。

第2章:熱伝導の概念、熱抵抗、熱通過率

  • 熱伝導方程式:フーリエの法則とともに固体内の温度を支配するエネルギー収支の式。
  • 熱抵抗:電気抵抗に相当する量で、複合壁や対流面を回路として扱えるようにする。
  • 熱通過率 U:二つの流体の間のすべての抵抗をまとめた単一の係数。

第3章:熱交換器の設計

  • 対数平均温度差:U が一定の熱交換器に適した平均温度差。
  • 温度効率-NTU 法:出口温度が未知のときに熱交換器の性能を予測する方法。
  • 性能評価と寸法決定:既存の熱交換器の性能を予測することと、要求される熱量に対して大きさを選ぶことの違い。

第4章:伝導解析、次元解析、フィンの設計

  • 適切に設定された問題:一意な解を得るのに必要な方程式、境界条件、初期条件を備えた熱伝導問題。
  • π定理と関数置換法:問題を無次元数に還元するための著者の簡潔な方法。
  • フィン効率:フィンの実際の伝熱量と、フィン全体が根元温度であった場合の伝熱量との比。

第5章:非定常および多次元の熱伝導

  • ビオ数と集中熱容量:内部抵抗が表面抵抗に比べて小さいとき、物体は一様な温度のまま冷える。
  • フーリエ数と1項解:無次元時間で、これを超えると級数の1項だけで非定常伝導を記述できる。
  • 半無限物体:深い領域へ浸透する熱の解で、後の境界層の考え方の枠組みとなる。

第6章:層流および乱流境界層

  • 境界層:表面近くの薄い領域で、速度と温度が壁面の値から主流の値へと変化する。
  • プラントル数:運動量拡散率と熱拡散率の比で、二つの境界層の相対的な厚さを決める。
  • レイノルズ=コルバーンのアナロジー:壁面摩擦と熱伝達を結びつけ、一方から他方を見積もれるようにする関係。

第7章:さまざまな形状における強制対流

  • 十分に発達した流れ:速度分布と無次元温度分布が流れ方向に変化しなくなった管内の領域。
  • 水力直径:円管の結果を、注意しながら非円形ダクトに適用するための長さ。
  • 経験的相関式:データに基づくヌッセルト数の式で、それでも理論的な極限を満たす必要がある。

第8章:単相流体の自然対流と膜状凝縮

  • レイリー数とグラスホフ数:粘性拡散と熱拡散に対する浮力の大きさを表す無次元数。
  • 膜状凝縮:冷たい面上に液体が連続した膜をつくる凝縮で、ヌッセルトによって解析された。

第9章:沸騰およびその他の相変化における熱伝達

  • プール沸騰曲線:熱流束と壁面過熱度の関係で、核沸騰・遷移沸騰・膜沸騰の領域をもつ。
  • 限界熱流束:核沸騰における最大熱流束で、流体力学的(テイラー)不安定性から予測される。
  • ヒートパイプ:作動流体の蒸発と凝縮によって熱を運ぶ密閉装置。

第10章:放射伝熱

  • キルヒホッフの法則:適切な条件のもとで放射率は吸収率に等しい。
  • 形態係数:ある面から出た放射のうち、別の面に到達する割合。
  • 灰色体回路網:拡散灰色面どうしの放射交換を表す電気的アナロジー。

第11章:物質移動入門

  • フィックの法則:2成分混合物では、拡散による質量流束は質量分率の勾配に比例する。
  • 熱と物質移動のアナロジー:物質移動速度が低いとき、熱伝達の相関式を物質移動に転用できる。
  • 停滞膜モデル:高い物質移動速度を考慮するために使われるクエット流のモデル。

批判的分析

長所

  • ミニコースを組み込んだ明快な構成。 序文によれば、第1〜3章は熱交換器の設計で終わる自己完結的な概観であり、そのあとで伝導、対流、放射の詳しい学習に入る。学生は、h や形態係数に何章も費やす前に、それらがなぜ重要なのかを理解できる。
  • 物理的な説明と歴史。 各章はフーリエ、ワットとニューコメン機関、抜山の沸騰実験、乱流についてのリチャードソンの戯れ歌といった物理的なイメージや歴史的な挿話で始まり、本文は相関式を示すだけでなく、境界層や沸騰の各領域の振る舞いを詳しく説明する。
  • 実用的な次元解析の方法。 著者の関数置換法(第4章)は一貫して用いられ、学生は以後のあらゆる問題に使える一つの道具を得る。
  • 豊富で目的のはっきりした問題。 各章に長い問題集(合計500問以上)があり、角括弧内に部分的な答えが示されている。序文によれば解答集には520問以上の解答が収められ、ウェブサイトからそれらの解答にリンクされている。第1章は、問題が実際的な計算力、物理的な洞察、解析力をどのように養うことを意図しているかを説明している。

短所

  • 数値解法の章がない。 第5章は、級数解法がほぼ直接の数値解法に取って代わられたと述べるが、本書は差分法や有限要素法を教えておらず、数値解を求める問題がときどきあるだけである。
  • 前提知識は本当に必要。 序文は3〜4年生レベルの熱力学と流体力学を前提としており、第6章と第11章は偏微分方程式と境界層解析を使うため、基礎の弱い学生には厳しい。
  • 1学期分より多い内容。 序文自身が、1学期の講義では高度な内容の一部を除く必要があると述べている。沸騰、気体放射、多成分拡散は、通常、最初の講義の範囲を超える。
  • ほぼ SI 単位のみ。 ヤード・ポンド法はわずかな問題にしか現れない。多くの講義にはそれで十分だが、米国慣用単位で作業しなければならない学生にとっては練習が限られる。

本書で扱う応用

応用は全編にわたっている。熱交換器の性能評価と寸法決定(第3章)、熱交換器の伝熱管や生物におけるフィン(第4章)、日本刀の例のような焼入れと鍛造(第5章)、微小電気機械システム(MEMS)やコンパクト熱交換器における層流管内流(第7章)、凝縮器(第8章)、ボイラー、蒸発器、滴状凝縮、ヒートパイプ(第9章)、太陽エネルギーと大気の放射(第10章)、冷却塔、除湿器、燃焼器、蒸発(第11章)である。付録 A がこれらの計算に必要な物性データを提供する。

コースにおける位置づけ

「熱・物質移動」のリストの中で、本書と Nellis と Klein の Introduction to Engineering Heat Transfer が入門的な選択肢であり、Çengel と Ghajar の Heat and Mass Transfer、Kreith と Manglik の Principles of Heat Transfer、Bergman、Lavine、Incropera、DeWitt の Fundamentals of Heat and Mass Transfer はより本格的な工学教科書である。説明によれば、これらはいずれも幅広い学部向け教科書である。Lienhard の本は同じ中核的な話題(伝導、対流、沸騰、放射、物質移動)を扱っており、最初の講義の主教科書としても、それらのどれに対しても無料の副読本としても使える。第9章と第11章に見られるとおり沸騰と物質移動の扱いが充実しているので、他の本が指定されている場合でも役に立つ。

Ghiaasiaan の Convective Heat and Mass Transfer は大学院レベルの専門的な次の段階であり、そこへ進む前に本書の第6〜8章と第11章を終えておくべきである。

本書の使い方

本書は熱力学と流体力学を履修した工学系の3〜4年生向けに書かれており、独習にも向いている。1学期の講義では、著者が強調するとおりまず第1〜3章を扱い、次に第4章(次元解析とフィン)、第5章のうち集中熱容量と1次元非定常の節、第6章のレイノルズ=コルバーンのアナロジーまでと設計に必要な乱流の結果、第7章、第8章の自然対流の部分、第10章を扱うとよい。第10章は第2章以降のどの時点でも読める。第9章と第11章は2つ目の講義や、プロセス工学・エネルギーに関心のある学生に向いており、第11章は第9章と第10章を前提としない。

各章から何問かの問題に取り組み、角括弧内の部分的な答えで進み具合を確かめ、物性値は付録 A を使うこと。著者はウェブサイトで改訂版を公開しているので、タイトルページ裏の版番号を控え、更新を確認するとよい。

版と出典

本ガイドは第6版、Version 6.00(2024年4月19日付、© 2024 John H. Lienhard V and John H. Lienhard IV、Phlogiston Press)に基づき、著者の公式サイト https://ahtt.mit.edu/ から無料でダウンロードしたものを用いた。同サイトには解答集へのリンクもある。本ガイドは、序文(本書の構成とこの版での変更点)、目次全体、そして全11章についてすべての節の冒頭、第2章のまとめ、1.4〜1.5節の全文、例題と章末問題の数と抜粋を参照している。