01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Goodsell, D. S. (2009). The Machinery of Life (2nd ed.). Copernicus Books / Springer.
章の要約
第2版は全9章、約170ページ(図書館の書誌では x + 167ページ)の短い図解書である。著者はスクリプス研究所を拠点とする分子生物学の研究者であり画家でもあって、初版の序文で説明された2種類の図を軸に本書を組み立てている。生きた細胞の一部を約100万倍に拡大して内部に詰まった分子を描いた絵と、個々の分子を原子レベルの細部まで示した図である。著者自身の本書紹介ページによれば、第2版はフルカラーの図版をゲノミクスとプロテオミクスの成果にもとづいて更新しており、新たに描かれた大腸菌(Escherichia coli)細胞の断面図と、生と死を扱う新しい章を含む。
第1章:序論(Introduction)
6ページの導入章である。本書の出発点は、初版の序文の言葉を借りれば、分子の世界が日常の経験から100万倍という大きさの差で隔てられていることであり、図版はその隔たりを埋めるためのものである。Tina Toni による Human Genomics 誌の書評は、細胞内のタンパク質を部屋の中の米粒にたとえるような、大きさを実感させる比較を特に評価している。
第2〜3章:分子機械(Molecular Machines)/生命のプロセス(The Processes of Living)
この2章は、本書の残りの部分が前提とする分子生物学と生化学の基礎をなす。書評によれば、DNA、脂質、多糖などの分子を扱い、続いて細胞がそれらを使って新しいタンパク質をつくり、エネルギーを得て、自らを守り、周囲と情報をやりとりするしくみを説明している。
第4章:細胞の中の分子:大腸菌(Molecules in Cells: Escherichia coli)
細菌細胞をめぐる章で、表紙にも使われている大腸菌の新しい断面図が中心となる。第5章とあわせて、原核細胞と真核細胞を比べられるようになっている。
第5章:ヒトの細胞:区画化の利点(A Human Cell: The Advantages of Compartments)
真核細胞を扱う対になる章で、題名が示す考え方、すなわち膜と細胞小器官によって細胞が何をできるようになるかを軸に構成されている。著者のページは、細胞膜から核まで真核細胞を貫く、更新されたパノラマ図に触れている。
第6章:ヒトの体:特殊化の利点(The Human Body: The Advantages of Specialization)
最も長い章(82〜107ページ)で、単一の細胞から体の特殊化した細胞へと進む。書評は、筋収縮、血流、神経の発火を可能にする細胞内の構造と細胞間の情報伝達を挙げており、著者のページはミエリン鞘の図を紹介している。
第7章:生と死(Life and Death)
この版で新たに加わった章で、分子・細胞・個体の各レベルにおける生と死を扱う。書評はがん、老化、死に言及している。
第8章:ウイルス(Viruses)
ウイルスと免疫応答への分子レベルの入門で、HIV や鳥インフルエンザ・豚インフルエンザのウイルス、ワクチンが効く場合と効かない場合がある理由、ある感染症が他より致命的である理由を論じる。
第9章:あなたとあなたの分子(You and Your Molecules)
最終章は健康と日常生活に目を向け、ビタミン、毒物、抗生物質が体に及ぼす作用を論じる。
主要概念
第1〜3章:スケールと分子の機構
- 分子のスケール:分子と日常の物体のあいだにある100万倍の大きさの差。図版は一定の倍率で描くことでこれを埋める。
- 分子機械:タンパク質などの高分子を、タンパク質をつくり、エネルギーを得て、信号を伝える作動部品としてとらえる見方。
- 分子の混雑:細胞内に分子がぎっしり詰まっている状態で、断面を描いた絵がそれを目に見えるものにする。
第4〜6章:細胞と体
- 原核細胞と真核細胞:大腸菌とヒトの細胞を比べ、区画化によって何が加わるかを示す。
- 特殊化:多細胞の体の細胞がそれぞれ異なる役割を担い、情報をやりとりして協調するしくみ。
第7〜9章:健康と病気
- 複数のスケールでの生と死:がんや老化などの過程を分子から個体全体までたどる。
- ウイルスと免疫:ウイルスが細胞に感染するしくみと、ワクチンおよび体の防御の分子的な基盤。
批判的分析
長所
- 共通の縮尺で描かれた図。 Toni の書評は、すべての図がほぼ同じ縮尺で描かれているため、ページをめくりながら DNA、タンパク質、リボソーム、膜の孔、細胞小器官の大きさを比べられると指摘している。書評者はさらに、混み合った細胞内部の図によって、がらんとしたシグナル伝達経路の図から受けていた印象が改まったと述べている。
- 短く明快。 書評は、明快で簡潔な言葉づかいと、基礎を押さえながら直観を育てる短い本文を評価している。初版の序文は、本文は科学者でない読者を念頭に書き、図版は生化学者を満足させる水準の厳密さで描いたと述べている。
- スケールを行き来する。 書評者は第6章、第7章、第9章を本書の白眉とし、分子の過程から筋肉、神経、病気、老化へとズームアウトしていく描き方を評価している。
- 図の背後にある科学の解説。 著者のページは、個々の図版の背後にある科学を説明した著者自身の Biochemistry and Molecular Biology Education 誌の連載記事(2009〜2012年。大腸菌、ミトコンドリア、真核細胞のパノラマ、ウイルス、神経筋シナプス)へのリンクに加え、正誤表と発表用の縮小版の図を提供している。
短所
- 教科書ではない。 書評者は、本書が分子生物学の包括的な手引きでも教科書でもないとはっきり述べている。本書は分子が何をしているかを説明するが、読者にすべての過程を細部まで追わせることはしない。
- 2009年時点の科学。 図版は第2版のために当時得られていた成果で更新されたものであり、その後の構造に関する知見は反映されていない。
- 化学の授業には化学が少ない。 本書は一般読者向けに書かれ、化学的な推論よりも視覚的な直観を育てるものなので、化学専攻の学生は試験の対象となる内容について教科書を必要とする。
コースにおける位置づけ
このリストの生化学の本のなかで、Goodsell の本は教科書の前またはそれと並行して読む細胞の絵本であり、教科書の代わりにはならない。最も近い相棒は Mark Lorch の Biochemistry: A Very Short Introduction で、生命の分子がどのようにつくられ変化するか、そしてこの学問がどう発展してきたかを短い文章で紹介する。一方 Goodsell は、それらの分子がどこにあり、細胞がどれほど混み合っているかを見せてくれる。
コースそのものについては、McKee と McKee の Biochemistry: The Molecular Basis of Life や Pratt と Cornely の Essential Biochemistry といった入門教科書が、Goodsell が絵で示すだけの構造、酵素、代謝経路を扱い、Lehninger Principles of Biochemistry や Berg らの Biochemistry のような包括的な参考書はそれをはるかに先まで進める。高分子を物理化学から説明する Kuriyan、Konforti、Wemmer の The Molecules of Life は、Goodsell が描く構造の背後にある物理的原理を知りたい学生にとって、ずっと後の段階の本である。
本書の使い方
本書は、これから生化学や細胞生物学を学び始める学生、生体分子に初めて出会う化学の学生、そして細胞の内部を正確に思い描きたい人に向いている。専門知識は不要で、学校で学ぶ生物と化学の知識があれば本文についていける。
実際的な読み方は次のとおりである。
- コースの前に: 第1〜5章を1〜2回に分けて読む。分子、細菌細胞、ヒトの細胞についての頭の中の地図ができ、教科書の図を位置づけやすくなる。
- コースと並行して: 筋収縮、血流、神経の信号伝達を学ぶときに第6章に戻り、がんと老化、ウイルスと免疫、ビタミン・毒物・抗生物質の作用については第7〜9章に戻る。
- 学習中に: 書評者が勧めるように図版どうしの大きさを比べ、教科書が一つの酵素や経路を示したときには、Goodsell の混み合った場面のなかでその分子を探してみる。
- さらに先へ: 著者の Biochemistry and Molecular Biology Education 誌の記事は、個々の絵がどのように組み立てられたかを説明しており、構造生物学に関心のある学生にとって自然な次の読み物である。著者のウェブサイトの正誤表も確認しておくとよい。
