01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Lorch, M. (2021). Biochemistry: A Very Short Introduction. Oxford University Press.
章の要約
本書は Oxford の Very Short Introductions シリーズの第674巻で、本文約125ページ、全8章の小型の初版である。序文、図版一覧、参考文献、読書案内、索引を備えている。著者はハル大学の化学・生化学科の学科長で、同大学の科学コミュニケーション・パブリックエンゲージメントの教授でもある。出版社は生化学を、細胞内の反応、その反応によって生み出され、変化し、分解される分子、そして細胞の機構と構造を形づくる巨大分子(DNA、タンパク質、炭水化物、細胞骨格)を研究する学問と説明している。本書はこの分野の主要概念を、歴史上の人物とその人々が研究した分子とともに扱い、続いて現在の科学とイノベーション、そして生化学とバイオテクノロジー、合成生物学との関係を論じるとされる。その紹介文には、生化学的プロセスを変化させる化学の例として、ペニシリンやアスピリンといった薬と、ボツリヌス毒素が登場する。
第1章:生化学のルーツ
最も長い章(約23ページ)で、この分野の歴史をたどり、それを最も古いバイオテクノロジーの一つである発酵と結びつける。歴史から始めることで、科学をそれを生み出した人々と実験を通じて示すという本書のアプローチが確立される。
第2章:水、脂質、炭水化物
生命の基本的な小分子を扱う短い章である。水の極性がなぜ水を優れた溶媒にするのか、エネルギーの貯蔵、シグナル伝達、構造材料としての脂質の役割、そして細胞の燃料であり構造的な足場でもある炭水化物を説明し、構成単位としてのヌクレオチドも紹介する。
第3章:タンパク質――自然のナノマシン
タンパク質は細胞の主要な機構として示される。この章はタンパク質の構造を機能と結びつけ、翻訳後修飾が20種類の標準アミノ酸を超えて化学的な多様性をどう広げるかを説明し、酵素反応速度論とタンパク質の折りたたみ問題で締めくくられる。
第4章:核酸――生命の設計図
タイトルが示すとおり、この章は遺伝情報を保存し伝える分子として DNA と RNA を紹介し、第2章と第3章で始まった生体分子の主要な種類の概観を完成させる。
第5章:細胞を動かす――生体エネルギー論
この章は分子からエネルギーへと話題を移す。細胞がその化学を駆動するエネルギーをどのように獲得し利用するかである。
第6章:DNA の製造と維持
核酸に関する二つ目の章で、DNA がどのように作られ維持されるかを扱い、第4章の構造的な説明を、遺伝物質を複製し保存するプロセスへと広げる。
第7章:細胞内で生化学を追う
この章は、生きた細胞の中で生化学がどのように観察されるかへと進む。これは、この分野の現在の科学とイノベーションを扱うという出版社の約束に沿ったものである。
第8章:バイオテクノロジーと合成生物学
最後の章は、生化学の知識を使って生命システムを操作することを扱う。出版社が本書の締めくくりのテーマとして挙げる、生化学とバイオテクノロジー、合成生物学の相互作用である。
主要概念
第1–2章:歴史と小分子
- 発酵:微生物による糖の変換。最も古いバイオテクノロジーの一つであり、生化学の歴史の出発点。
- 水の極性:水分子における電荷の偏りで、水を生命の分子にとってよい溶媒にしている。
- 脂質:エネルギーを貯え、シグナルを運び、膜などの構造をつくる分子。
- 炭水化物:糖とその重合体で、燃料としても構造材料としても使われる。
第3章:タンパク質
- 構造と機能:タンパク質の働きはその立体構造に依存するという原理。
- 翻訳後修飾:タンパク質が作られた後に加えられる化学的変化で、その構成単位の多様性を広げる。
- 酵素反応速度論:酵素が触媒する反応の速さの研究。
- タンパク質の折りたたみ問題:アミノ酸の鎖がどのようにして機能する形に至るのかという問題。
第4–6章:情報とエネルギー
- 核酸:遺伝情報を保存し伝達する分子である DNA と RNA。
- 生体エネルギー論:細胞がどのようにエネルギーを得て利用するかの研究。
- DNA の複製と維持:DNA が複製され、損なわれずに保たれるプロセス。
第7–8章:方法と応用
- 細胞内の生化学:反応と分子を細胞という場の中で研究すること。
- 合成生物学:生化学的な理解に基づいて新しい生物学的部品やシステムを設計し構築すること。
批判的分析
長所
- 本当の意味での最初の概観。 8つの短い章で、分野の歴史、生体分子の主要な種類、エネルギー、DNA の扱い、細胞を研究する方法、そして応用を扱っており、これほど短い本としては幅広い。
- 歴史と人物。 長い歴史の章から始め、科学者たちとその研究した分子を紹介すると全体を通じて約束していることで、生化学の知識が何であるかだけでなく、それがどのように得られたのかを読者に感じさせる。
- 現在の科学と応用。 8章のうち2章が現代の研究方法とバイオテクノロジー・合成生物学を扱い、出版社が挙げる例(ペニシリン、アスピリン、ボツリヌス毒素)は化学を医学や日常生活と結びつけている。
- 科学コミュニケーターによる執筆。 著者は大学の化学・生化学科を率い、科学コミュニケーション・パブリックエンゲージメントの教授職にもある。この組み合わせは、初めてこの分野に触れる読者向けの本にふさわしい。
短所
- 各テーマの扱いがごく短い。 約125ページなので、たとえば水、脂質、炭水化物の章は10ページほどしかない。化学構造の詳細、定量的な扱い、練習問題の余地はない。
- 代謝の章がない。 目次には生体エネルギー論の一章を除いて代謝経路の章がない。解糖系、クエン酸回路、脂肪酸やアミノ酸の代謝が必要な読者は教科書に頼る必要がある。
- 概観であって授業用の教科書ではない。 目次には演習や問題集が見当たらず、試験のある授業の教科書の代わりにはならない。
コースにおける位置づけ
本書はこの生化学のコースで最も短く、最も技術的でない本であり、最初の授業の前か、その始めに読むのが最もよい。Goodsell の The Machinery of Life は自然な相棒である。分子を実際の縮尺と現実的な混み具合で描いたその絵は、Lorch が言葉で説明するもの、とくにタンパク質と細胞の章を具体的にしてくれる。授業そのものについては、最初の授業向けの教科書が引き継ぐ。McKee と McKee の Biochemistry: The Molecular Basis of Life(化学の予備知識が少ない学生向けに書かれている)、Pratt と Cornely の Essential Biochemistry、Hines らの Biochemistry: A Short Course は、構造、酵素、代謝、遺伝情報を問題演習とともに扱っている。
より長い教科書(Berg らの Biochemistry、Lehninger Principles of Biochemistry、Voet、Voet、Pratt の Fundamentals of Biochemistry、Appling らの Biochemistry: Concepts and Connections、Miesfeld と McEvoy の Biochemistry)は、一連の授業全体のための包括的な教科書である。Kuriyan らの The Molecules of Life は物理化学を通じて巨大分子を説明し、McMurry と Begley の The Organic Chemistry of Biological Pathways は反応機構を通じて代謝を説明する。どちらも最初の授業を終えた読者に向いている。
本書の使い方
本書は、これから生化学を学び始める高校卒業生や1年生、詳しい授業の前に概観を得たい化学・生物学・医学の学生、そして一般の読者に適している。高校レベルの化学と生物学になじみがあると、より読みやすい。
実際的な読み方は次のとおりである。
- 授業が始まる前に通して読む。 数回に分けて読み切ることができ、その順序(歴史、小分子、タンパク質、核酸、エネルギー、DNA のプロセス、方法、応用)がこの分野の地図となる。
- 授業の準備として中心となる部分: 第2–5章。多くの教科書の最初の単元(水と生体分子、タンパク質の構造と酵素、核酸、生体エネルギー論)に対応する。
- 動機づけと背景のために: 分野の歴史を扱う第1章と、現在の方法と応用を扱う第7–8章。教科書の内容がどこへつながるのかを示してくれる。
- 巻末の読書案内を活用し、 どのテーマについても次に読む本を見つける。
読みながら、各章で名前の出てくる分子とプロセスのリストを作り、後でそれぞれが授業の教科書のどこに出てくるかを確認するとよい。そうすれば、短い本が省いている構造、機構、問題を教科書が補ってくれる。第3章を Goodsell の本のタンパク質の図と並べて読むことは、機械としてのタンパク質というイメージを定着させるよい方法である。
