01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Allcock, H. R. (2019). Introduction to Materials Chemistry (2nd ed.). Wiley.
章の要約
第2版は約500ページ、全22章で、3部に分かれている。第I部「材料化学の背景」(第1–5章)、第II部「さまざまな種類の材料」(第6–13章)、第III部「先端技術における材料」(第14–22章)である。最初の章は本書を、材料科学における化学の役割についての入門的で定性的な概観と位置づけ、材料がどのように設計され、合成され、評価され、使われるかに重点を置くと述べている。各章はアルファベットで区切られた節からなり、ほぼすべての章が参考文献案内と、授業での討論やエッセイ用の学習問題で終わる。巻末には用語の付録がある。出版社によれば、この版ではグラフェン、ナノチューブ、発光ダイオード、極端紫外線リソグラフィー、生体医用材料、金属有機構造体が新たに扱われている。
第1章:材料化学とは何か
材料の種類、化学の役割、構造と物性の相関、用途、新しい材料をつくるアプローチ、技術との接点を概観する。本書を合成・構造・物性・用途のサイクルを軸に組み立て、既存の材料を加工によって改良するやり方と、分子レベルで新しい材料を設計するやり方とを対比する。
第2章:材料化学の基礎となる原理
なぜ材料ごとに性質が異なるのかを問い、元素ごとの役割、主な結合の種類(ファンデルワールス力、共有結合と配位結合、水素結合、イオン性集合体、金属結合、エネルギーバンドとバンドギャップ)、分子単位の大きさと形、超構造、色の起源を順に検討する。
第3章:基本的な合成と反応化学の背景
元素の単離法(高温還元、電解、微生物による抽出、気相堆積)、材料合成の技術、反応速度論、分離法、そしてハロゲン化物や酸化物から有機金属化学、架橋、重合–解重合平衡に至るまで、材料化学で最もよく使われる反応の種類を扱う。
第4章:材料科学で利用される代表的な元素の化学
炭素、ケイ素、ホウ素、リン、窒素、酸素、硫黄を概観し、続いて典型金属、遷移金属、ランタノイドとアクチノイドを扱う。
第5章:構造決定と材料キャラクタリゼーションのための特殊技術
測定法の一覧ともいえる章で、バルク材料の方法(微量元素分析、赤外–ラマン分光と固体NMR、熱分析、応力–ひずみ試験、X線回折、屈折率、磁化率、電気伝導度、電子顕微鏡)、表面と薄膜の方法(SEM、STMとAFM、XPS、エリプソメトリー、接触角)、溶液の方法(NMR、光散乱、ゲル浸透クロマトグラフィー)を挙げる。
第6–7章:固体中の小分子、多孔質固体
第6章は、円盤状分子からの液晶や電荷移動錯体を含め、小分子がどのように充塡され自己集合するかを扱う。第7章は包接化合物、金属有機構造体、ゼオライト、逆オパール、分子インプリンティングを扱う。
第8章:セラミックスと無機ガラス
酸化物セラミックスとケイ酸塩鉱物、粘土と石綿、ガラス(パイレックス型ガラスや「ゴリラ」ガラスを含む)、光ファイバーとゾル–ゲル法、ペロブスカイト、炭化ケイ素や窒化ケイ素などの非酸化物セラミックス、そして成形加工。
第9–10章:高分子:基礎的側面、高分子のモルフォロジーと成形加工
第9章は付加重合、縮合重合、開環重合、電解重合、構造と物性の関係、ポリエチレンからケブラーやエポキシまでの古典的な高分子、シリコーンやポリホスファゼンなど無機元素を含む高分子を扱う。第10章は固体状態(絡み合い、微結晶性、液晶性)、複合材料とブレンド、ソフトマター(エラストマーとゲル)、そして3Dプリンティングに至る成形加工法を扱う。
第11章:炭素系材料
ダイヤモンド、炭素繊維、ガラス状炭素と非晶質炭素、フラーレン、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、sp³ナノスレッドを扱い、ほかの層状・繊維状固体と比較する。
第12–13章:金属と合金、超伝導体
第12章は鉱石からの個々の金属の単離、金属と合金の固体構造(充塡、転位、粒界)、腐食、そして電気的・熱的・磁気的・光学的・機械的性質を扱う。第13章は高温超伝導体を導入し、命名法、合成、構造、理論、用途を扱う。
第14–16章:半導体の基礎、フォトリソグラフィーとマイクロリソグラフィー、半導体デバイス
半導体の原理(バンドギャップ、キャリア移動度、ドーパント)、半導体グレードのシリコンと化合物半導体の作製、高分子半導体。次にリソグラフィーの工程とフォトレジストの化学。そしてデバイス:トランジスタ、集積回路とメモリ、太陽電池(高分子系、ペロブスカイト系、色素系を含む)、LED、レーザー、有機EL、イメージセンサー、量子ドット。
第17章:光学デバイスとフォトニクスデバイス
屈折率、分散、複屈折、受動素子(レンズ、導波路、フィルター、偏光子)、そして応答性材料:液晶デバイス、フォトクロミック材料、非線形光学材料、エレクトロクロミック材料。
第18–19章:エネルギー生成と貯蔵のための材料とデバイス、膜
数種類の燃料電池、リチウムイオン電池と全固体電池、キャパシタとスーパーキャパシタ。続いて、淡水化、気体分離、透析、薬物送達のための多孔質膜と非多孔質膜、ゲル膜、圧電型の音響トランスデューサー膜。
第20–22章:材料の表面科学、生体医用材料、材料科学における微小化
金属・セラミックス・高分子・半導体の表面、表面上での分子の集合と接着。生体医用の金属、セラミックス、生体内で安定な高分子と生体内分解性高分子、および心血管、整形外科、薬物送達、組織工学への応用。そしてナノ構造、そのトップダウンとボトムアップによる作製、ナノ粒子、分子機械。
主要概念
第I部:背景(第1–5章)
- 構造と物性の相関:材料の分子構造や固体構造をその物性に結びつけることで、本書の中心的な組織原理である。
- バンドギャップ:満たされた電子バンドと空のバンドのエネルギー差で、固体が導体、半導体、絶縁体のどれになるかを決める。
- ゾル–ゲル法と気相合成:固体や薄膜をつくる低温の溶液法と気相堆積法。
- キャラクタリゼーション技術:構造と物性を決めるための回折、分光、熱、機械、顕微鏡の各手法。
第II部:材料の種類(第6–13章)
- 金属有機構造体とゼオライト:空孔に分子を取り込んだり分離したりできる結晶性の多孔質固体。
- 高分子のアーキテクチャー:直鎖、分岐、ブロック、星形、網目の構造と、それらが物性をどう支配するか。
- グラフェンとカーボンナノチューブ:グラファイト状炭素の単層の形と、それを巻いた形。
- 転位と粒界:金属の力学的挙動を支配する欠陥。
第III部:先端技術(第14–22章)
- ドーピングとp–n接合:不純物による半導体の伝導度の制御と、ダイオード、トランジスタ、太陽電池が依存する接合。
- フォトレジスト:光に当たると溶解性が変わる高分子で、微細回路のパターン形成に使われる。
- 生体内分解性高分子:体内で分解される高分子で、薬物放出や組織の足場に使われる。
- トップダウンとボトムアップの作製:大きな物体を削ってナノ構造をつくるか、分子を集合させてつくるか。
批判的分析
長所
- 化学者の視点から材料へ。 本書はどの材料の分類よりも先に、結合、合成、個々の元素の化学から始め、第1章では合成・構造・物性・用途を軸に分野を明確に組み立てている。出版社が引用するCHOICEによる初版の書評(2009年4月)は、基本的な化学原理から主要な材料群を経て特別な例へと進むこの道筋を評価している。
- 分量に比して際立つ幅広さ。 セラミックス、ガラス、高分子、炭素、金属、超伝導体、半導体、フォトニクス、エネルギー材料、膜、表面、生体材料、ナノ構造のすべてに章があり、ほかの教科書では別々に扱われる技術と化学がどうつながるかを示している。
- 新しい話題。 第2版には金属有機構造体、グラフェン、sp³ナノスレッド、ペロブスカイト太陽電池、全固体電池、3Dプリンティングが含まれる。
- 討論向けの学習問題。 各章の学習問題は授業での討論やエッセイ用に作られており、各章に参考文献案内が付いているので、ゼミ形式の授業に向いている。
短所
- 意図的に定性的。 本書は自らを定性的な概観と位置づけており、学習問題は数値問題ではなく討論やエッセイの課題である。結晶学、固体の熱力学、バンド理論の定量的な演習が必要な学生には別の教科書が必要になる。
- 各分類の扱いは簡潔。 約500ページに22章があるため、数ページしか割かれない話題もある。超伝導体とフォトリソグラフィーはそれぞれ約10ページである。本書は特定の材料分類のための教科書というより、分野全体の地図である。
- 体系的な結晶学がない。 結晶構造は金属の充塡、回折法、個々の材料を通じて登場するが、格子、単位胞、空間群を扱う章はない。
コースにおける位置づけ
Allcockはこのコースのリストで最も幅広い本であり、自然な出発点である。Charles Carraherの Introduction to Polymer Chemistry はAllcockが第9–10章で扱う高分子化学を本格的に展開し、Robert YoungとPeter Lovellの Introduction to Polymers は材料としての高分子のキャラクタリゼーション、モルフォロジー、力学的挙動を加える。この2冊が高分子を専門にする学生にとっての次の段階になる。Anthony Westの Solid State Chemistry and its Applications は無機固体の構造、合成、物性を扱う学部向けの教科書で、Allcockが定性的にしか扱わない結晶学、欠陥化学、物理的性質を補う。セラミックス、金属、電子材料に進む学生の次の一歩である。
Peter Müllerの Crystal Structure Refinement は回折データから結晶構造を決定し精密化するための実践的な手引きで、回折の実験を行う学生にのみ関係し、Allcockの第5章のX線回折の節よりずっと後に読むべき本である。
本書の使い方
本書は、材料化学の最初の授業を受ける化学の学部生、化学的な背景を求める工学や材料科学の学生、そして概観を必要とする産業界の科学者に向いている(出版社が引用する初版の書評は、初心者だけでなく科学者や産業人にとっても有益な資料だと述べている)。一般化学は欠かせない準備であり、高分子の章には有機化学、第3–4章と第8章には無機化学の知識がいくらかあると役立つ。
実践的な計画:
- どの授業でも中核となる章: 第1–2章(枠組みと結合)と第5章(キャラクタリゼーション。後の章で手法が出てくるたびに参照する)。
- 材料の分類: 授業に応じて第II部から選ぶ。第8章、第9–10章、第11章、第12章が主要な分類を扱い、第6–7章と第13章はより専門的である。
- 技術: 第14章と第16章は半導体とデバイスについての一まとまりをなす。第18–22章は発表やエッセイのテーマとして個別に割り当てることができる。
- 参照用: 第3–4章は、後の章が特定の合成法や元素に依拠するときに選んで読むのがよい。
学習問題は討論のきっかけや短いエッセイの題材として使い、どの章でも深く学ぶには参考文献案内をたどるとよい。本書には計算がほとんどないので、授業で問題演習が求められる場合は、固体構造についてはWestと、高分子についてはCarraherまたはYoungとLovellと組み合わせるとよい。
