01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Lanza, R., Langer, R., Vacanti, J. P., & Atala, A. (Eds.). (2020). Principles of Tissue Engineering (5th ed.). Academic Press.
章の要約
本書は複数の著者による参考書で、全88章が23の部に分かれている。編者は Robert Lanza、Robert Langer、Joseph P. Vacanti、Anthony Atala である。出版社は構成を三層で説明している。組織の成長と発生の基礎、組織や器官を設計するための方法と道具、そして器官系ごとの現在の知見である。第5版では新興技術の部が加わり、幹細胞の内容が増え、食品向けの組織工学の章も加わった。以下では章題を部ごとにまとめる。
序論(第1〜4章)
概観の4章:From Mathematical Models to Clinical Reality;Stem Cells as Building Blocks;Moving into the Clinic;Tissue Engineering: Current Status and Future Perspectives。技術的な部に入る前に分野の全体像を示す。
第1〜3部:成長と分化、in vitro での制御、in vivo での合成(第5〜16章)
第1部「The Basis of Growth and Differentiation」は、細胞の分子生物学と分子構成から始まり、細胞と基質の相互作用、基質分子とそのリガンド、形態形成、遺伝子発現と細胞運命の決定へ進む。第2部「In Vitro Control of Tissue Development」は、機能的な組織をつくるための培養条件、バイオリアクター設計の原理、細胞外タンパク質による細胞挙動の調節、分岐形態形成、メカノバイオロジーを扱う。第3部は In Vivo Synthesis of Tissues and Organs の1章のみである。
第4〜5部:生体材料、移植(第17〜23章)
第4部「Biomaterials in Tissue Engineering」には Cell Interactions with Polymers、Polymer Scaffold Fabrication、Biodegradable Polymers、3D Scaffolds の各章がある。第5部「Transplantation of Engineered Cells and Tissues」は、宿主の免疫応答、胎児期の組織工学と移植、免疫隔離デバイスを扱う。
第6〜7部:幹細胞、遺伝子治療(第24〜30章)
第6部は5章からなる:Embryonic Stem Cells、Induced Pluripotent Stem Cells、Neonatal Stem Cells in Tissue Engineering、Embryonic Stem Cells as a Cell Source for Tissue Engineering、Postnatal Stem Cells in Tissue Engineering。第7部は Gene Therapy と Gene Delivery into Cells and Tissues を組にしている。
第8〜19部:器官系ごとの応用(第31〜73章)
本書で最も長い部分である。各部は、乳房、心血管系(前駆細胞と心臓再生、心臓組織工学、血管、心臓弁)、内分泌・代謝(膵島、バイオ人工膵臓、胸腺と副甲状腺)、消化器系(肝幹細胞と肝組織工学を含む)、造血系、腎・泌尿生殖器系、筋骨格系(骨、椎間板、関節軟骨、腱と靱帯)、神経系、眼科、口腔・歯科、呼吸器系、皮膚(皮膚上皮幹細胞、創傷修復、バイオ工学による皮膚構築物)の順である。
第20〜21部:組織工学による食品、新興技術(第74〜80章)
第20部には Principles of Tissue Engineering for Food と Prospects for In Vitro Cultured Meat がある。第21部は 3D Bioprinting、Biofabricated 3D Tissue Models、Body-on-a-Chip、Monitoring and Real-Time Control of Tissue Engineered Systems、Bio-Manufacturing for Regenerative Medicine を扱う。
第22〜23部:臨床経験、規制・商業化・倫理(第81〜88章)
第22部は、組織工学による皮膚、軟骨、骨、心血管製品、臓器の臨床経験を述べる。第23部は The Regulatory Process from Concept to Market、Business Issues、Ethical Issues で終わる。
主要概念
序論と第1〜3部
- 構成要素としての幹細胞:工学的組織の細胞源。冒頭の章で紹介され、第6部で詳しく扱われる。
- 細胞外マトリックスと細胞挙動:細胞とマトリックスの相互作用、基質分子、細胞外タンパク質シグナルに関する章。
- バイオリアクター設計:工学的組織を in vitro で培養するための原理。
- メカノバイオロジー:組織発生と器官工学における力学的な力の役割。
第4〜7部
- 足場:高分子足場の作製、生分解性高分子、3次元足場。
- 宿主の免疫応答:移植された工学的組織に対する免疫の障壁。免疫隔離デバイスはその対応の一つ。
- 人工多能性幹細胞:幹細胞の部で独立した章をもつ細胞源。
- 遺伝子導入:細胞や組織への遺伝子の導入。第7部で扱う。
第8〜23部
- 器官別の戦略:同じ道具立てを組織ごとに適用する。軟骨や骨から角膜、肺まで。
- バイオプリンティングとボディ・オン・ア・チップ:新興技術の部に集められた技術。
- 規制と商業化:概念から市場までの道筋と、事業上・倫理上の問題。
批判的分析
長所
- 幅広さが一か所に。 88章が、細胞生物学、材料、バイオリアクター、移植免疫、幹細胞、遺伝子治療、十数の器官系の部を覆い、最後に臨床経験と規制が置かれる。
- 選択的に読みやすい構成。 部に分かれているので、関心のある器官系や道具にそのまま進める。出版社は、生物学、化学、材料科学、工学のバランスをとった書だと述べている。
- 臨床に至る道筋を含む。 臨床経験の第22部と、規制・商業化・倫理の第23部は、分野の参考書では珍しく、トランスレーションを理解したい読者に役立つ。
- 第5版で更新。 iPS細胞、幹細胞ニッチ、幹細胞由来の血液成分、食品への応用、そしてバイオプリンティングやボディ・オン・ア・チップを含む新興技術の部が加わった。
短所
- 参考書であり、授業の順序ではない。 執筆者が多く88章あり、調べるために作られている。出版社が挙げる読者は、幹細胞工学や遺伝子編集に携わる科学者と各診療科の医師であり、この分野に入ったばかりの学生には、どこを飛ばすかの案内が必要になる。
- 深さの不均一は設計上のもの。 器官別の各部は1章から7章までで、ある組織の扱いはその部に割り当てられた章数に左右される。
- 分量。 規模のために通読は難しく、1学期の授業で使えるのはその一部にすぎない。
コースにおける位置づけ
組織工学の読書リストの中で、本書は最上位にある大型の参考書である。Birla の Introduction to Tissue Engineering と van Blitterswijk の Tissue Engineering は教科書で、前者はこの分野を工学設計の問題として扱う単著の入門書、後者は基礎から個別の組織とトランスレーションへと進む、複数の著者による授業用教科書である。Slack の Stem Cells: A Very Short Introduction は専門外の読者向けの短い概説である。出発点としては、いずれも Lanza より適している。
Yannas の Tissue and Organ Regeneration in Adults は、皮膚と神経の誘導再生に絞った専門書である。教科書が簡単にしか触れない話題を調べたいときや、分野全体が何を含むかを知りたいときは Lanza を引き、広がりと一つの深い議論の両方を求めるなら Yannas と組み合わせるとよい。
本書の使い方
教科書と並べて使う参考書として扱い、最初から最後まで通読する本とは考えないこと。細胞生物学や生体医工学の素養がある読者は、序論の各章で分野の範囲をつかみ、その後、研究課題や授業の主題に合う部に進むとよい。
- 一般的な授業での中核: 序論、in vitro での制御を扱う第2部、生体材料の第4部、幹細胞の部、そして最後の臨床・規制・倫理の部。
- 関心に応じて: 第8〜19部から必要な器官系の部を選ぶ。バイオプリンティングやオルガン・オン・チップの手法は新興技術の部を読む。
- 実用上のコツ: 教科書がある組織や方法を紹介したら、ここで対応する章を探し、専門家による記述を読む。
