01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Henkin, T. M., & Peters, J. E. (2020). Snyder and Champness Molecular Genetics of Bacteria (5th ed.). ASM Press.
章の要約
本書は約640ページで、番号のない序論、13の章、用語集からなる。出版社は、本書を古典的教科書の新版であり、創始者たちへの敬意を込めて書名を改めたものと説明している。本文は大腸菌(Escherichia coli)と枯草菌(Bacillus subtilis)を中心に据え、実験、医学、生態、バイオテクノロジーの面で重要なほかの細菌からも例を引く。各章の終わりには要点のまとめ、討論用の問い、推薦文献があり、番号付きのコラム(ボックス)が付く章も多い。
序論
序論は生物界(細菌、古細菌、真核生物)を概観し、遺伝学とは何かを定義し、細菌遺伝学の実用上の特徴を挙げる。一倍体の細胞、短い世代時間、コロニーの純化、段階希釈、選択、菌株の保存である。ファージ遺伝学も扱い、形質転換、接合、形質導入から、遺伝暗号、オペロン説、合成ゲノム学に至る分野の歴史を簡潔に述べる。
第1–2章:細菌の染色体:DNAの構造、複製、分配/細菌の遺伝子発現:転写、翻訳、タンパク質のフォールディングと局在
第1章はDNAの構造と複製の機構、複製の誤りと障害、複製と細胞分裂の関係、染色体の分配、核様体、ゲノムを見直す。第2章は遺伝子発現について同様に扱う。RNAとタンパク質の構造、転写、RNA分解、翻訳、遺伝暗号、フォールディングと分解、タンパク質の局在と分泌、そして読み枠と融合遺伝子を扱う「What You Need To Know」という節である。
第3章:細菌の遺伝解析:基礎と現在の手法
方法論の章である。遺伝学の用語と命名、ルリア-デルブリュックの実験とレダーバーグの実験、突然変異率、突然変異の種類、復帰と抑制、変異株の単離と性質決定、相補性試験、形質導入・形質転換・Hfr接合による地図作成を扱う。
第4–6章:プラスミド/接合/形質転換
第4章はプラスミドの性質、複製制御、維持(par系を含む)、クローニングベクターを説明する。第5章は接合、稔性プラスミド、可動化プラスミド、Hfr株の形成、組込み型接合因子を扱う。第6章は自然形質転換、その調節と役割、人為的に誘導するコンピテンスを扱う。
第7–9章:バクテリオファージと形質導入/転移、部位特異的組換え、組換え酵素のファミリー/相同組換えの分子機構
第7章は溶菌的発生と溶原的発生(λ系を含む)、ファージの遺伝解析、形質導入、CRISPR/Casや制限修飾などの宿主の防御、道具としてのファージを扱う。第8章はトランスポゾン、トランスポゾン変異誘発、部位特異的組換え酵素を扱う。第9章は大腸菌の相同組換え、ファージの組換え経路、リコンビニアリングを説明する。
第10章:DNA修復と突然変異誘発
この章は、DNA修復の証拠、特定の損傷に対する修復、ミスマッチ修復、ヌクレオチド除去修復、損傷耐性、SOS応答、損傷乗り越え合成を取り上げる。
第11–12章:遺伝子発現の調節:遺伝子とオペロン/全体的調節:レギュロンとスティミュロン
第11章は転写開始の負の調節と正の調節から、アテニュエーション、mRNAの安定性の調節、翻訳の調節、翻訳後調節へと進む。第12章は異化代謝産物抑制、窒素同化、リボソームとtRNAの合成、緊縮応答、ストレス応答、鉄の調節、病原性遺伝子の調節、枯草菌の胞子形成を扱う。
第13章:ゲノムとゲノム解析
最終章は細菌のゲノム、DNA塩基配列決定、PCR、制限エンドヌクレアーゼ、クローニングと組み立ての技術、CRISPR/Cas系を扱う。
主要概念
序論と第1–3章:基礎と遺伝解析
- 一倍体の遺伝学と選択:まれな変異体を選び出す実験に細菌が適している理由。
- 突然変異に関する古典的実験:ルリア-デルブリュックの実験とレダーバーグの実験。この章はこれらを用いて、変異体がクローンであることを示し、突然変異率を導入する。
- 相補性と地図作成:変異を遺伝子に割り当て、地図上に位置づけるための試験と交雑。
第4–9章:DNAの移動と再編成
- プラスミドと接合:細胞間で遺伝子を運び、伝達するレプリコン。
- 自然形質転換:コンピテントな細胞によるDNAの取り込み。
- 形質導入と溶原性:ファージによる遺伝子の移動と、プロファージの維持。
- 転移と部位特異的組換え:組換え酵素のファミリーによるDNAの移動と再編成。
- 相同組換え:RecBCDとRecFの経路、RecA、リコンビニアリング。
第10–13章:修復、調節、ゲノム
- SOS応答と損傷乗り越え合成:誘導性の修復とDNA損傷への耐性。
- オペロンとレギュロン:個々のオペロンと、より大きな遺伝子集団の協調的な調節。
- アテニュエーションとRNA構造:RNAの立体構造を通じた転写と翻訳の制御。
- CRISPR/Cas:第7章ではファージ防御として紹介され、第13章では分子ツールとして扱われる。
批判的分析
長所
- DNAからゲノムへの明快な流れ。 複製と発現から始まり、遺伝解析、遺伝子伝達、組換えと修復を経て、調節とゲノム学に至る。第3章が実験の論理を先に示すので、後の専門的な章がそれを活用できる。
- 証拠の統合。 出版社は、生化学、ゲノム、構造の情報が各主題に織り込まれていると述べている。節の構成にも、ルリア-デルブリュックの実験やレダーバーグの実験、修復と突然変異誘発の章のエームス試験のコラムなど、実験レベルの細部が表れている。
- 学習支援。 各章に要点のまとめ、討論の問い、推薦文献があり、巻末には用語集がある。番号付きのコラムは、主題をヒトを含むほかの生物と結びつける。
- 現代的な内容。 リコンビニアリング、合成ゲノム学、CRISPR/Cas、先進的な塩基配列決定法が目次に現れる。
短所
- モデル生物への重点。 出版社は本文が大腸菌と枯草菌を中心にしていると明記している。ほかの細菌群に関心のある読者は、主に例を通してそれらに触れることになる。
- 遺伝学であり、生理学ではない。 代謝、細胞外被の生合成、生態そのものを扱う章はない。それらは生理学の教科書で学ぶ内容である。
- 最初の1冊としては難しい。 Wileyは、本書を学部または大学院初期の教科書としている。詳しい機構の説明と長い13の章をもつため、遺伝学や分子生物学の入門をすでに修めた学生に向く。
- ゲノム学は最後。 塩基配列決定とゲノム解析は、分子機構の章のあとの第13章に置かれている。したがって本書は、機構からゲノムへと積み上げる順序であり、その逆ではない。
コースにおける位置づけ
本書は、微生物学の読書リストの中で遺伝学を軸にした上級の教科書である。Money『Microbiology: A Very Short Introduction』、OpenStax『Microbiology』、Tortoraほか『Microbiology: An Introduction』は入門書で、Madiganほか『Brock Biology of Microorganisms』は一般的な教科書であり、その遺伝学の章が本書への自然な準備となる。
White、Drummond、Fuqua『The Physiology and Biochemistry of Prokaryotes』は最も近い相棒である。あちらは増殖、バイオエナジェティクス、代謝、輸送、シグナル伝達を主題別に扱い、HenkinとPetersの本は細菌の遺伝子がどのように複製され、発現し、交換され、修復され、調節され、解析されるかを扱う。両者を並べて読むのは、細菌分子生物学の大学院の授業にとって合理的な進め方である。
本書の使い方
分子生物学と遺伝学の入門を学んだ上級の学部生と大学院生に向く。細菌を扱う研究者にとっても参考書として役立つ。
実用的な進め方:
- 中核: 序論に続き、第1–3章を順に。第3章を先に習得すること。後の章は、その遺伝学の語彙と実験を使うからである。
- 遺伝子伝達のまとまり: 第4–9章は一つのまとまりとして、順に読める。
- 調節のまとまり: 第11章と第12章。背景として第2章を使う。
- 関心に応じて: DNA修復なら第10章、ゲノム解析の手法とCRISPR/Casなら第13章。
- 演習: 各章末の討論の問いに取り組み、推薦文献から元の実験にたどり着く。
