01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
White, D., Drummond, J. T., & Fuqua, C. (2011). The Physiology and Biochemistry of Prokaryotes (4th ed.). Oxford University Press.
章の要約
本書は全23章からなり、生物群ごとではなく生理学上の主題ごとに構成されている。出版社はこの構成を、一般的な原理を浮かび上がらせる方法として紹介している。以下の見出しは書中の章題に従う。第4版では共著者としてDrummondとFuquaが加わり、出版社は3つの新章(RNAとタンパク質の合成、バイオフィルムと構造化された多細胞集合体、細胞間コミュニケーション)と、全体を貫く2つのテーマ(エネルギー論と分子機械)を挙げている。
第1–3章:構造と機能/増殖と細胞分裂/染色体の複製と分配
最初の章群は細胞の土台を築く。第1章は系統発生と細胞構造を扱う。第2章は増殖の測定、増殖生理、収量と速度論、定常状態と連続培養、細胞分裂を順に取り上げる。第3章はDNA複製、染色体の分離と分配を扱う。
第4–6章:膜のバイオエナジェティクス:プロトン電位/電子伝達/光合成
エネルギー論の部分が代謝経路より先に置かれている。第4章は化学浸透説とプロトン電位から始まり、その測定、プロトン電位が駆動する仕事、それを生み出す反応を扱う。第5章は好気呼吸と嫌気呼吸、ミトコンドリアと細菌における電子伝達体の配置に移る。第6章は光合成原核生物(紅色細菌、緑色硫黄細菌、シアノバクテリア)、光合成色素、膜構造を扱う。
第7–10章:代謝経路の調節/細胞質のバイオエナジェティクス/中心代謝経路/脂質・ヌクレオチド・アミノ酸・炭化水素の代謝
これらの章は代謝の化学を扱う。第7章は酵素の調節、速度論、共有結合修飾を論じる。第8章は高エネルギー分子、基転移、基質レベルのリン酸化を扱う。第9章は解糖系、ペントースリン酸経路とエントナー・ドウドロフ経路、ピルビン酸の酸化、クエン酸回路、グリオキシル酸回路を順にたどる。第10章は脂質、ヌクレオチド、アミノ酸、脂肪族炭化水素の代謝を扱う。
第11–12章:RNAとタンパク質の合成/細胞壁と莢膜の生合成
第11章はRNA合成とタンパク質合成の2節からなる。第12章はペプチドグリカン、リポ多糖、細胞外多糖の合成と輸送、レバンとデキストランの合成、グリコーゲン合成を扱う。
第13–15章:無機物の代謝/C1代謝/発酵
第13章は硝酸塩と硫酸塩の同化と異化、窒素固定、無機栄養(リソトローフィー)を扱う。第14章は二酸化炭素固定系と、メチロトローフによるC1化合物での増殖を扱う。第15章は酸素毒性と嫌気性菌のエネルギー保存から始め、電子の受け皿、嫌気的な食物連鎖、個々の発酵(プロピオン酸、酢酸、乳酸、混合酸、酪酸発酵など)を論じる。
第16–18章:環境ストレスへの応答/溶質輸送/タンパク質の輸送と分泌
第16章はpHの維持、浸透圧、熱ショック応答、DNA修復、SOS応答、酸化ストレスを扱う。第17章は溶質取り込みの速度論、エネルギー依存性の輸送、薬剤排出を扱う。第18章はSec系、シグナル認識粒子、TAT系、細胞外へのタンパク質分泌、ペリプラズムでのタンパク質のフォールディングを扱う。
第19–20章:環境の手がかりへの応答/走化性・光応答・走気性
第19章は二成分シグナル伝達系を紹介し、Nar、Ntr、Phoレギュロンなどの個別の調節系、浸透圧への応答、異化代謝産物抑制、病原性因子を順に扱う。第20章は走化性のモデルを組み立て、続いて光応答と走気性を扱う。
第21–23章:微生物バイオフィルム/細胞間コミュニケーションの機構/細菌の発生
最後の章群は多細胞的な振る舞いを扱う。バイオフィルムの性質、形成、調節、阻害(第21章)、拡散性シグナルと接触依存性シグナル(第22章)、粘液細菌とカウロバクターの発生、枯草菌の胞子形成(第23章)である。
主要概念
第1–6章:細胞、増殖、エネルギー
- プロトン電位:膜をはさむ電気化学的勾配。呼吸や光合成を、ATP合成、輸送、その他の仕事と結びつける。
- 化学浸透説:電子伝達がこの勾配をどのようにつくるかを説明する理論。
- 増殖の生理と速度論:増殖をどう測り、収量と速度をどう記述するか。
第7–15章:代謝
- 代謝経路の調節:酵素の速度論、構造変化、共有結合修飾を制御の要点とする。
- 基転移ポテンシャル:生合成に関わる高エネルギー分子を比べる方法。
- 中心代謝経路:解糖系とその変形、クエン酸回路、グリオキシル酸回路。
- 無機栄養とC1代謝:無機化合物や炭素1個の化合物からエネルギーと炭素を得ること。
- 発酵の収支:電子の受け皿と嫌気的な食物連鎖が発酵をどう制約するか。
第16–23章:応答、輸送、行動
- ストレス応答:熱ショック、SOS応答、酸化ストレス。
- 二成分シグナル伝達:環境条件と遺伝子発現の変化を結びつけるシグナル系。
- 走化性:方向性のある運動を支える感知と順応の仕組み。
- バイオフィルムと細胞間コミュニケーション:多細胞の集合体と、細胞間のシグナル伝達。
- 細菌の発生:カウロバクター、粘液細菌、胞子を形成するバチルスにおける分化。
批判的分析
長所
- 主題別の構成。 出版社は、主題別の構成が生理と代謝の一般原理の理解に役立つと述べている。本書は代謝を、細胞が増殖するために解決しなければならない化学的・物理的問題として示している。
- エネルギー論が先。 第4–6章がプロトン電位を代謝経路の章より先に紹介するので、後の代謝を、細胞がどのようにエネルギーを保存するかという観点で読める。
- 調節と行動を幅広く扱う。 第19–23章の5章が、シグナル伝達、走化性、バイオフィルム、細胞間コミュニケーション、発生を扱い、細胞が周囲をどう感知し、それにどう行動するかを示している。
- 学習支援が備わっている。 出版社によれば、各章の終わりに要約、演習問題、研究文献への豊富な参考文献がある。
短所
- 生化学の比重が大きい。 節の構成は詳細で(第9章だけで16の番号付き節があり、クエン酸回路の反応の化学も含まれる)、読者にはしっかりした生化学の基礎が必要である。
- 遺伝学は一部のみ。 目次には複製、分配、RNAとタンパク質の合成があるが、細菌の遺伝解析、水平遺伝子伝達、ゲノム学そのものの章はない。これらは細菌遺伝学の専門書で学ぶほうがよい。
- 内容が古くなっている。 2011年刊行のため、バイオフィルムや細胞間シグナルといった、出版社が本版の新要素として挙げている主題についてのその後の研究は反映されていない。
- 多様性の概観ではない。 主題別の構成なので、生物群を順に巡る記述はない。そうした概観が必要な読者は、一般的な微生物学の教科書を併用する必要がある。
コースにおける位置づけ
本書は微生物学の読書リストの中で、生理学と生化学を扱う上級の教科書である。Money『Microbiology: A Very Short Introduction』は短い導入であり、OpenStax『Microbiology』とTortoraほか『Microbiology: An Introduction』は健康分野に重点を置いた1学期向けの入門書である。Madiganほか『Brock Biology of Microorganisms』は、細胞構造、代謝、遺伝、多様性、生態を扱う一般的な教科書で、読者は通常まずこうした本に取り組む。
そのうえで、White、Drummond、Fuquaは一般教科書の代謝と調節の章を研究水準まで掘り下げ、細胞の生理と生化学の理解を深める。本書は、HenkinとPetersの『Snyder and Champness Molecular Genetics of Bacteria』を補う関係にある。後者は細菌の遺伝解析と分子遺伝学の上級教科書である。両書を合わせると、細菌がどのように働くかと、その遺伝子がどのように研究され調節されるかの両方がわかる。
本書の使い方
微生物学、生化学、関連分野の上級学部生と大学院生、そして原核生物の生理学を体系的に知る必要のある研究者に向いている。実際の前提は、一般的な微生物学の講義と生化学の講義である。
実用的な進め方:
- 中核: まず細胞と増殖を扱う第1–2章、次にエネルギー論と中心代謝を扱う第4–9章。後の章はこれらを前提にしている。
- 関心に応じて選ぶ: 第10–15章は生合成、無機・C1代謝、発酵。第16–20章はストレス、輸送、感知。第21–23章は多細胞的な行動。
- 章末の資料を使う。 各章を読んだら演習問題を解き、関心のある主題では参考文献をたどって原著論文へ進む。
