01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Lesk, A. M. (2019). Introduction to Bioinformatics (5th ed.). Oxford University Press.
章の要約
第5版は約400ページで、10章と短い結び(Conclusions)からなる。各章には演習と問題、推薦文献のリストがあり、オックスフォード大学出版局のコンパニオンサイトでは演習の解答、問題のヒント、「ウェブレム」(ウェブを使う問題)、本書のPerlプログラム、ウェブリンク集が公開されている。出版社は、次世代シーケンシング、機能予測、配列アセンブリ、エピゲノミクス、遺伝子編集のバイオインフォマティクス、一塩基変異の影響についての新しい内容を挙げている。
第1章:序論
約47ページのしっかりした導入章である。演習からは、DNAとRNAの化学、遺伝暗号と翻訳を復習し、関係を表す方法としてグラフ(ノードとエッジ)を導入していることがわかる。2つのケーススタディが短いPerlプログラムを用い、一方はDNA配列をタンパク質に翻訳し、もう一方は重なり合う断片をつなぎ合わせる。ウェブレムの1つはCRISPR/Casの発見の経緯を説明させる。
第2章:遺伝学からゲノムへ
古典遺伝学からゲノム全体へと進む。制限酵素地図とゲル電気泳動、生物界全体でのゲノムサイズ、シーケンシング、コンティグとカバレッジ、そしてサフィックス木やオイラー路を含む、アセンブリに使われる文字列とグラフの手法を扱う。演習ではDNAの証拠を個人識別や血縁の問題、たとえば父子鑑定、性別判定、リチャード3世の遺骨の同定などに応用する。
第3章:生命の全景
配列が決定されたゲノムと、そこからわかることを概観する章で、完了した真核生物ゲノムの表や、2018年3月時点のゲノムプロジェクトの状況の表を含む。演習とウェブレムは、遺伝病の遺伝様式、ミトコンドリア遺伝、オペロン、遺伝子の水平伝播、ヒトのグロビン遺伝子を生んだ重複、タンパク質機能の分類を扱う。
第4章:アラインメントと系統樹
本書の中心となる手法の章で、最も長い章の1つである。ドットプロット(Box 4.1にPerlプログラムがある)、PAMやBLOSUMなどの置換行列、動的計画法によるアラインメント、BLASTとPSI-BLASTによるデータベース検索、多重配列アラインメントとプロファイル、距離行列からの系統樹の構築を扱う。一連のウェブレムは、霊長類から後口動物まで生命の系統樹をさかのぼっていく。
第5章:構造バイオインフォマティクスと創薬
タンパク質の構造を導入する。構造を安定化させる力、二次構造、ヘアピン、β-α-βユニット、TIMバレルなどの代表的なフォールディングモチーフ、オーソログとパラログ、コイルドコイルの予測、Protein Data Bankの利用である。演習はさらに、薬物設計、リガンドの結合、結合の熱力学へと進む。
第6章:科学出版物とアーカイブ:媒体、内容、アクセス、提示
生物学の知識がどのように蓄積され、検索されるかを扱う章である。科学文献とPubMed、オープンアクセスと著作権、Protein Data Bankなどのデータベース、そしてテキストからの情報検索を取り上げ、遺伝子名やタンパク質名の認識や、自然言語の曖昧さの問題にも触れる。
第7章:人工知能と機械学習
分類とその評価(真陽性と偽陽性、ROC曲線とその下の面積、訓練セット)、主成分分析による次元削減、重みと閾値からなるニューラルネットワークを導入する。隠れ層のないネットワークでは排他的論理和を計算できないという古典的な限界や、データを高次元の特徴空間に写すことも扱う。ケーススタディではタンパク質をコードするRNA転写産物とコードしない転写産物を区別し、ウェブレムではこれらの手法をタンパク質構造の分類に応用する。
第8章:システム生物学入門
生物学的ネットワークのモデルとしてのグラフに戻る。経路と最短経路(ロンドン地下鉄を例に検討する)、次数分布、スケールフリーネットワークとその成長を扱う。問題では情報理論の考え方も登場し、項目を区別するのに必要なイエス・ノー質問の数、データ圧縮、Burrows-Wheeler変換などを取り上げる。
第9章:代謝経路
ミカエリス・メンテンの関係を含む酵素反応速度論、酵素番号(EC番号)とGene Ontologyの識別子による酵素の命名、個々の生合成経路、生物種間での経路の比較を扱う。
第10章:組織化の制御と制御の組織化
最終章は調節と細胞の組織化を扱う。ファージディスプレイ、ツーハイブリッド法、構造決定など相互作用を検出する実験手法、相互作用のエネルギー論、そして調節因子と標的遺伝子のあいだに繰り返し現れる結合パターンを含む転写調節ネットワークの配線である。短い結びで本書は終わる。
主要概念
第1–3章:生物学とゲノムの基礎
- 遺伝暗号と翻訳:コドンからアミノ酸への対応で、本書最初のプログラムとして実装される。
- ゲノムアセンブリ:重なり合うリードからゲノムを再構成すること。進み具合の尺度としてカバレッジとコンティグがあり、道具としてサフィックス木とオイラー路がある。
- 比較ゲノミクス:さまざまな生物のゲノムから、遺伝子の構成、遺伝子重複、水平伝播について何がわかるか。
第4–5章:配列と構造
- 置換行列:PAMやBLOSUMのように、あるアミノ酸が別のアミノ酸に置き換わる起こりやすさを得点化した表。
- 動的計画法:より小さな問題の最適解を積み上げて最適なアラインメントを求める方法。
- データベース検索:遠い相同配列を見つけるためのBLASTと、プロファイルに基づくPSI-BLAST。
- タンパク質構造の階層:二次構造と繰り返し現れるモチーフが組み合わさってフォールドができる。
第6–7章:情報と学習
- 情報検索:文献やアーカイブから関連する記録を探し出すことと、テキストから意味を取り出す難しさ。
- 分類器の評価:予測手法を評価するための感度、特異度、ROC曲線。
- ニューラルネットワーク:閾値を持つ重み付きユニットの層が、データの分類を学習する。
第8–10章:システム
- グラフとしての生物学的ネットワーク:ノード、エッジ、経路、次数分布を代謝系と調節系に応用する。
- 酵素反応速度論:反応速度が基質濃度にどう依存するかで、経路モデルの基礎となる。
- 調節ネットワーク:遺伝子発現と細胞の組織化を協調させる制御回路。
批判的分析
長所
- 生物学者のために書かれている。 出版社によれば、本書は予備知識を前提とせず、プログラミングの詳しい知識を持たない生物学系の読者を主な対象としている。手法に入る前に、最初の数章で分子生物学と遺伝学を復習する。
- 豊富な演習と、その支援。 出版社は、例題、自己確認問題、演習、問題が頻繁に置かれていると説明している。コンパニオンサイトで演習の解答と問題のヒントが公開されているため独習がしやすく、ウェブレムは学生を実際のデータベースやサーバーへと導く。
- 幅広さと、軽い計算の流れ。 ゲノム、アラインメント、系統、構造、文献データベース、機械学習、ネットワーク、代謝経路、調節までを扱う。本文中の短いPerlプログラムは、プログラミングを前提にすることなく、計算がどのようなものかを示す。出版社が引用する大学教員の推薦文は、明快な文章と、叙述と図の組み合わせを評価している。
- 実験室の外への応用。 法医学的な個人識別、血縁、遺伝病が演習に繰り返し登場し、出版社も本書の範囲として医学、法科学、人類学を挙げている。
短所
- プログラミングは示されるが、教えられない。 プログラムはPerlで書かれているが、現在のバイオインフォマティクスではPythonほど使われていない。いくつかのウェブレムはPythonのプログラムを求めるが、本書は言語そのものを教えない。解析コードを書く必要のある学生には、別の授業か、Compeau と Pevzner の本のような書籍が必要になる。
- 手法は概観のレベルにとどまる。 各章は約20~55ページで広い領域を扱うため、アルゴリズムは説明されるものの深くは展開されず、スコアやハイスループットデータの統計的な扱いも限られる。
- 変化の速い分野では古くなっている。 2019年の版であり、ゲノムプロジェクトの状況は2018年3月時点、機械学習の手法もその時期のものである。新しいシーケンシング技術、データベース、深層学習ツールは扱われていない。
コースにおける位置づけ
本書はこのコースへのやさしい入口である。Compeau と Pevzner の Bioinformatics Algorithms も初学者向けだが、生物学上の問いから出発し、プログラミングの課題を通じてアルゴリズムを展開していく。コードを書きたい学生は両者を組み合わせ、Lesk の第2章と第4章を、同書のアセンブリとアラインメントの章と並行して読むとよい。Baxevanis、Bader、Wishart の Bioinformatics は専門家が分担執筆した教科書で、ゲノムアノテーションから発現データ、メタゲノミクスまで、データベースや解析ツールの実際の使い方にさらに踏み込む。Lesk で全体像をつかんだあとに読む本として自然である。
Zvelebil と Baum の Understanding Bioinformatics は、配列、構造、システムの手法について、より長く数学的な説明を与えるもので、Lesk の記述の背後にある導出を知りたい学生に向く。Uri Alon の An Introduction to Systems Biology はネットワークモチーフと設計原理を微分方程式で定量的に扱う本である。Lesk の第8~10章はその定性的な背景になるが、Alon は Lesk が求めない微積分の知識を必要とする。
本書の使い方
本書は、バイオインフォマティクスの最初の授業を必要とする学部1~2年の生物学の学生や、生物医学などの生命科学系の学生に適している。入門レベルの分子生物学の知識があれば十分で、プログラミングは必要ない。情報系出身の学生にとっては、第1~3章の生物学の復習が役に立ち、計算面の内容は軽く感じられるだろう。
読み進め方の一案:
- 中核: 第1、2、4章。生物学の背景、シーケンシングとアセンブリ、そしてバイオインフォマティクス全体で使われるアラインメントと検索の手法がそろう。実際の検索を行う前に、第4章の演習を手で解いておくこと。
- 第2段階: 比較ゲノミクスの第3章とタンパク質構造の第5章。構造生物学や薬理学に進む学生には第5章が欠かせない。
- 選択: 第6章と第7章は必要に応じて読めばよい。予測手法の評価の仕方を学ぶなら第7章である。第8~10章はシステム生物学への短い入門をなし、授業の最後にまとめて扱うことができる。
コンパニオンサイトを積極的に使うこと。演習の解答をそこで確かめ、諦める前に問題のヒントを参照し、各章でいくつかのウェブレムに取り組むとよい。ウェブレムは本文を、実際に使われているデータベースやサーバーへと結びつける。Perlプログラムを実行するか、Pythonで書き直して、アルゴリズムが動くところを確かめるとよい。分野の変化が速いため、本書が言及するデータベースやツールについては現在の版を確認すること。
