01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Charlesworth, B., & Charlesworth, D. (2010). Elements of Evolutionary Genetics. Roberts and Company Publishers.
章の要約
本書は10章と、数学・統計の付録から成り、『Nature Genetics』の書評(Mackay, 2010)によれば約768ページである。出版社の紹介は、進化にかかわる遺伝的過程のモデルがどのように作られ、古典遺伝学と分子遺伝学のデータの解釈にどう使われるかを教える本だとしている。Mackay の書評の冒頭の段落も同じ言い方でこの分野を定義している。突然変異と組換えが、選択、遺伝的浮動、移住の作用を受けて、分離している遺伝子座や量的形質において、集団内・集団間で、短い時間尺度でも長い時間尺度でも、遺伝的変異のパターンをどう生み出すか。そして、その理論を観察された対立遺伝子頻度の分布や量的形質の遺伝分散に適用し、ゲノムのどの領域が中立な突然変異と浮動の均衡から予想されるとおりに進化しているか、どの領域が、たとえば平衡選択、選択的スイープ、有害突然変異の除去といった逸脱の痕跡を示すかを推定する、というものである。以下の章の並びは、この描像とよく合っている。
第1章:Variability and Its Measurement(変異性とその測定)
冒頭の章は、遺伝的変異とその測定方法を扱う。
第2章:Basic Selection Theory and the Maintenance of Variation(選択の基礎理論と変異の維持)
一つの遺伝子座にはたらく選択と、変異が失われずに維持される条件。
第3章:Directional Selection and Adaptation(方向性選択と適応)
適応と最も密接に結びつく過程である方向性選択を、遺伝的なレベルで扱う。
第4章:Migration, Mutation and Selection(移住、突然変異、選択)
移住、突然変異、選択を、遺伝的変異を変える過程として合わせて扱う。
第5章:The Evolutionary Effects of Finite Population Size: Basic Theory(有限な集団サイズの進化的効果:基礎理論)
集団の大きさが有限であるとき、遺伝的に何が起こるかの基礎理論。本書では、遺伝的浮動がここから登場する。
第6章:Molecular Evolution and Variation(分子進化と変異)
DNA配列データとの接続。分子レベルで観察される変異と分岐を、前の章で作ったモデルでどう解釈するか。
第7章:Genetic Effects of Spatial Structure(空間構造の遺伝的効果)
集団の空間構造がもたらす遺伝的な帰結。
第8章:Multiple Sites and Loci(複数の部位と遺伝子座)
扱いを単一の遺伝子座から複数の部位・遺伝子座へ広げる。
第9章:The Evolution of Breeding Systems, Sex Ratios and Life Histories(繁殖様式、性比、生活史の進化)
遺伝モデルを使って、交配様式、性比、生活史の進化を論じる応用の章。
第10章:Some Topics in Genome Evolution(ゲノム進化のいくつかの話題)
最終章は、ゲノム全体のレベルでのいくつかの話題へ向かう。
数学・統計の付録
各章で使う数学と統計のための参照部分。
主要概念
第1〜4章
- 遺伝的変異性とその測定:第1章。
- 選択と変異の維持:第2章。
- 方向性選択と適応:第3章。
- 移住、突然変異、選択:複数の力の複合的な作用。第4章。
第5〜8章
- 有限集団サイズと浮動:第5章。
- 分子進化と変異:第6章。
- 空間構造:第7章。
- 複数の部位と遺伝子座:第8章。
第9〜10章と付録
- 繁殖様式、性比、生活史:第9章。
- ゲノム進化:第10章。
批判的分析
長所
- 基本原理からデータまで積み上げる。 章の順序は、変異とその測定から始まり、選択、浮動、移住を展開し、その後に初めて、理論を分子データ、空間、複数の遺伝子座、繁殖様式、ゲノムに適用する。出版社は本書を、モデルの使い方だけでなく作り方も示す案内書と位置づけている。
- 現代のデータとの結びつきが明確。 Mackay の書評は、理論を対立遺伝子頻度の分布や量的形質の分散に適用することを述べており、目次でも分子進化とゲノム進化にそれぞれ1章が与えられている。
- この分野で研究している著者。 出版社の著者紹介によれば、2人とも王立協会フェローで、集団遺伝学、分子・ゲノム進化、交配様式の進化を研究している。また Evolution: A Very Short Introduction の著者でもある。
- 専用の数学付録。 数学・統計手法の付録が独立しているので、すべての技法を本文の章に入れなくても、導出を参照できる。
短所
- 要求水準が高い。 約768ページの、理論が中心の本である。フロントマターは、遺伝学と進化の講義に加え、代数、微積分、基礎的な確率に慣れていることを挙げている。そうでない読者には骨が折れる。
- 主題が狭い。 目次は遺伝的過程とそのモデルに集中している。系統学、化石記録、種分化、行動の進化は章題にないので、本書は一般的な進化学の教科書の代わりではなく、補うものである。
- 公開されている証拠が少ない。 目次と出版社の紹介からは、演習問題があるかどうか、各章がどのような進度で進むかがわからず、これらの点はこの資料からは判断できない。
コースにおける位置づけ
このコースの他の進化の本は、より範囲が広い。Zimmer の The Tangled Bank と、Charlesworth 夫妻自身の Evolution: A Very Short Introduction は入門の読み物で、後者は同じ著者による、共通祖先、自然選択、その他の過程が適応、新しい種、生命の歴史をどう説明するかの簡潔な解説である。Bergstrom と Dugatkin の Evolution および Futuyma と Kirkpatrick の Evolution は、この分野全体を扱う学部向けの教科書で、ダーウィンの On the Origin of Species は基礎となる著作である。
Elements of Evolutionary Genetics は、これらに対する専門的で数学的な補完の書である。一般的な進化学の講義の後、とりわけ Futuyma と Kirkpatrick の集団遺伝学の各章の後に、モデルがどう導かれ、データでどう検証されるかを見たくなったときに読むのが適している。
本書の使い方
本書は、遺伝学と進化学を学び、代数、微積分、基礎的な確率に慣れている、進化学・遺伝学などの分野の大学院生や上級学部生向けである。
実践的な進め方は次のとおり。
- 中核: 第1〜5章を順に。変異、選択、突然変異、移住、浮動を確立する章で、残りはこれらに依存する。
- 次に: 分子データの第6章と、多遺伝子座モデルの第8章を、付録を開いたまま読む。
- 関心に応じて: 空間構造は第7章、繁殖様式・性比・生活史は第9章、ゲノム進化は第10章。
- 演習: 導出を自分の手で行い、生物学的な文脈を知るために一般的な進化学の教科書を開いておく。
