01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Alon, U. (2020). An Introduction to Systems Biology: Design Principles of Biological Circuits (2nd ed.). Chapman & Hall/CRC.
章の要約
第2版は全15章、ネットワーク・モチーフ、頑健性、最適性の三部からなり、約340ページである。出版社は、生物システムの構造と振る舞いを支配する設計原理を明快に示し、細胞や組織の調節に繰り返し現れる単純な回路要素を強調する本だと説明している。第1版に比べて七つの章が加わり、ヒトの生理や疾患に関わる新しい例が入り、演習問題は66題から189題に増えた。著者のウェブサイトには本書に対応する講義動画がある。
第I部:ネットワーク・モチーフ(第1–6章)
第1章「転写ネットワーク:基本概念」は全体で使う語彙を導入する。第2章「自己調節」と第3章「フィードフォワード・ループ」は、それぞれ繰り返し現れる小さなパターンを一つ取り上げ、その働きを問う。第4章「時間的プログラムと転写ネットワークの全体構造」は、単一のモチーフからネットワーク全体の構造と時間とともに進むプログラムへと進む。第5章「正のフィードバック、双安定性、記憶」と第6章「生物学的振動子のつくり方」は、状態を保持する回路と周期的に動く回路を扱う。
第II部:頑健性(第7–12章)
第7章「速度論的プルーフリーディングと立体構造プルーフリーディング」は、分子認識の正確さから始まる。第8章「頑健なシグナル伝達」と第9章「走化性」は、ばらつきがあっても働き続ける回路を、細菌の走化性を例に扱う。第10章「倍率変化検出」、第11章「組織における動的補償と相互抵抗」、第12章「発生における頑健な空間パターン形成」は、相対的変化への応答、組織レベルの制御、発生での空間パターンの形成へと問いを広げる。
第III部:最適性(第13–15章)
第13章「最適な遺伝子回路設計」は、コストと利益を比べることで、回路がなぜその形をしているのかを問う。第14章「生物学における多目的最適性」は、複数の目標を同時に満たさなければならない系を考える。第15章「モジュール性」は、生物ネットワークがモジュールに組織されることを扱って本書を閉じる。
主要概念
第I部:ネットワーク・モチーフ
- 転写ネットワーク:遺伝子とそれを調節する転写因子を回路として捉えたもの。
- ネットワーク・モチーフ:自己調節やフィードフォワード・ループのように、ネットワークに繰り返し現れる小さな調節パターン。
- 双安定性と記憶:正のフィードバックにより回路が二つの状態の一方を保持できること。
- 振動子:持続的な周期変動を生み出す回路。
第II部:頑健性
- プルーフリーディング:分子認識の正確さを高める速度論的・立体構造的な仕組み。
- 頑健なシグナル伝達:構成要素にばらつきがあっても出力が確実に保たれること。
- 倍率変化検出:入力の絶対的な変化ではなく相対的な変化に依存する応答。
- 動的補償:パラメータが変わっても機能を保つ組織レベルの仕組み。
第III部:最適性
- 最適な回路設計:回路の構造をコストと利益のトレードオフとして説明すること。
- 多目的最適性:複数の競合する目標によって形づくられる設計。
- モジュール性:ネットワークが半ば独立した部分に組織されること。
批判的分析
長所
- カタログではなく原理。 三部構成は名前のついたモチーフから頑健性、最適性へと進み、各章を一つの設計原理の生物学への適用として読める。
- 生物学者でない読者向け。 出版社が引用する Physics Today の書評は、生物学の予備知識も、さらには関心さえも前提としないと述べ、各章の演習を特に評価している。同じく引用されている Nature は、第1版の明快な叙述と付録を称賛している。
- 豊富な演習。 第2版の演習は189題で、第1版の66題の約3倍あり、授業の教科書として使いやすい。CHOICE の評者は、生物システムがこれらの設計原理に従うことを示す多くの実験を集めた本だと述べている。
- 新しい内容。 出版社によれば、七つの新章は第1版以降の10年間の進展を扱い、新しい例はヒトの生理と疾患にまで及ぶ。
短所
- 扱う範囲が狭い。 15章は遺伝子調節、シグナル伝達、発生における回路についてであり、ゲノミクス、配列解析、大規模ネットワーク推定を求める読者はここでは見つけられない。
- 定量的な準備が必要。 叙述は数学的で、回路の動態の簡単なモデルを軸にしている。微積分と微分方程式の素養がないと後半は難しい。
- 版による違い。 第2版は第1版と章立てが異なるため、古い授業資料の演習番号や章番号は引き継げない。
コースにおける位置づけ
このコースの他の本はバイオインフォマティクスの教科書なので、Alon は主題の別の部分を担う。Compeau と Pevzner の Bioinformatics Algorithms は、各章が生物学の問いから始まり、それに答えるアルゴリズムを組み立てる課題駆動型の入門書である。Lesk の Introduction to Bioinformatics は、プログラミングを前提とせずにデータベースや配列解析などの手法を示す。Baxevanis、Bader、Wishart の Bioinformatics は主要なデータベースと解析手法を扱う編著、Zvelebil と Baum の Understanding Bioinformatics は配列・構造・システムにまたがる学際的入門書である。
Alon は細胞を調節回路の集まりとして捉え、モデル化と設計原理から迫る点で異なる。一般的なバイオインフォマティクスや分子生物学の講義の後に、主題の「システム」側として読むのが適しており、回路レベルの考え方をデータと結びつけたいときは、編著のネットワークの章と併せるとよい。
本書の使い方
遺伝子調節の定量的な像を得たい生物学、物理学、工学、情報科学の大学院生・学部上級生に向く。主な準備は微積分と基礎的な微分方程式で、生物学は必要に応じて導入される。
実用的な読み方:
- 中核: まず第1〜3章。転写ネットワークと、以降が依拠する二つのモチーフを確立する。
- 次に: 第4〜6章(ネットワーク構造、記憶、振動)、続いて第II部の頑健性を第7〜9章から読む。
- 任意または後で: 第10〜12章は中核の後ならどの順でもよい。第III部(第13〜15章)は、回路がなぜ今の形なのかを考える締めくくりとして適している。
- 練習: 各章末の演習を解く。書評者は演習を本書の価値の中心とみている。著者のウェブサイトの講義動画も各章と併せて使える。
