01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Jacob, R., Fisher, M., & Chave, L. (2022). Guidebook to Intellectual Property (7th ed.). Hart Publishing.
章の要約
第7版は約290ページで、28の短い章が5つの部にまとめられている。出版社は本書を、法学生のほか実務家などの初学者に向けて、知的財産法の基本的な法原則の輪郭を示すと同時に、制度が実際にどう機能しているかを伝える本として紹介している。その際、ルールを覚えるだけではチェスを理解したことにならず、ゲームの実際の進め方を知る必要がある、という比喩が使われる。著者は技術的な細部を避け、脚注を一切置かない。判例には言及するが、簡潔に説明する。Sir Robin JacobとMatthew Fisherはユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)で知的財産法を教えており、Lynne ChaveはUCLのInstitute of Brand and Innovation Lawの研究者で、以前は特許・商標の弁理士として実務に就いていた。
第1部 第1〜3章:模倣・独占・支配/裁判所・救済・訴訟/特許か、著作権か、意匠か
導入部は、個々の権利を学ぶ前に全体の枠組みを示す。法がなぜ複製や模倣に対する支配を認める場合があるのか、知的財産紛争がどのように裁判所に持ち込まれ、どのような救済が得られるのか、そして製品を保護する主要な方式のうちどれを選ぶべきかを扱う。
第2部 第4〜7章:特許とその取得方法/重要な発明/特許についてさらに/工業意匠
「製品の保護」と題するこの部は、特許の取得方法から始まる3章で特許を扱い、続いて工業意匠の保護に移る。
第3部 第8〜16章:商標とパッシングオフから悪意の虚偽表示その他の訴訟まで
最も長い部で、商標、パッシングオフ、不正競争を扱う。商標とパッシングオフを並べて示す冒頭の章に続き、登録商標の一生を順にたどる。登録(第9章)、侵害(第10章)、侵害の例外(第11章)、取消しと無効による登録からの抹消(第12章)である。第13章はEU商標、「国際」登録、周知商標を、第14章は団体商標、証明商標、地理的表示を扱う。最後にパッシングオフ(第15章)と、悪意の虚偽表示その他の訴訟(第16章)が置かれる。
第4部 第17〜23章:著作権入門から著作者人格権その他の関連権まで
著作権の部は、導入から始まり、著作権が保護する著作物(第18章)、著作者性・帰属・保護期間(第19章)を経て、「著作権侵害とは何か」「侵害でないものは何か」という対になった章(第20〜21章)に進む。最後に著作権の取引(第22章)と、著作者人格権その他の関連権(第23章)で締めくくられる。
第5部 第24〜28章:その他の事項
最後の部は、個々の権利を横断するか、その周辺にある主題を集めている。刑事法と税関による差止め(第24章)、秘密とプライバシー(第25章)、データベース権(第26章)、ライセンスまたは権利の消尽という見出しのもとでの保護対象商品の転売(第27章)、そして国際的側面と競争法(第28章)である。出版社は、秘密保持義務違反、データベース、植物品種の扱いを、4つの主要な権利よりも簡潔なものと説明している。
主要概念
第1部:導入
- 模倣・独占・支配:知的財産権が何をするのかを捉えるために冒頭の章が用いる3つの観念。
- 救済と訴訟:権利者が裁判所から何を得られるか。個々の権利より先に扱われる。
- 保護方式の選択:ある製品を特許、著作権、意匠権のいずれで守るのがよいか。
第2部:製品の保護
- 特許:出願手続を通じて取得される、発明に対する登録された権利。
- 工業意匠:製品の外観に対する保護。
第3部:商標、パッシングオフ、不正競争
- 登録・侵害・取消し:登録商標のライフサイクル。
- パッシングオフ:自らの商品や事業を他人のものと誤認させることに対する、登録を要しない訴訟。
- 団体商標・証明商標・地理的表示:単一の事業者ではなく、団体への所属、認証された基準、産地を示す標章。
第4部:著作権と関連権
- 著作物:著作権が保護する対象の類型。
- 侵害と許容される行為:どのような複製が禁じられ、どのような複製が禁じられないか。
- 著作者人格権:著作権の経済的権利とは別の、著作者の権利。
第5部:その他の事項
- 秘密とプライバシー:登録制度や著作権の外にある情報の保護。
- データベース権:データベースの内容に対する独立した権利。
- 権利の消尽:いったん市場に出された商品の転売をどこまで支配できるかの限界。
批判的分析
長所
- ルールだけでなく実務を伝える。 本書が掲げる目的は、法の輪郭だけでなく、知的財産が実際にどう機能するかの感覚を読者に与えることである。裁判所、救済、特許・著作権・意匠の選択から始める構成はこの目的を支えており、読者は法理より先に実務上の問いに出会う。
- 読みやすい形式。 脚注がなく、技術的な細部も少なく、章が短く平明な題を持つため、通読しやすい。出版社が引用するEntertainment Law Reviewは、本書を古典と呼び、その文体と内容は今も非常に価値があると評している。
- 主要な権利をすべて扱う。 特許、意匠、商標とパッシングオフ、著作権にそれぞれ独立した部が与えられ、その他の事項の部は、刑事的執行と税関による差止め、データベース権、消尽など、短い授業では省かれがちな主題にも及ぶ。
- 経験豊かな著者陣。 UCLでの教育と実務経験が組み合わされており、Chaveは特許・商標弁理士として働いた経験を持つ。制度の運用についての洞察を約束する本にふさわしい。
短所
- 本格的な教科書ではない。 本書は意図的に法の細部ではなく形を示す。脚注がなく判例の説明も短いため、これだけでレポートや事例問題の答案を支えることはできない。出版社自身、より詳しい学習を位置づけるための本として紹介している。
- 扱いの深さに偏りがある。 28章のうち9章を商標が占める一方、意匠は1章のみで、秘密、データベース、植物品種は明示的に簡潔に扱われる。これらの主題を重視する授業では、より詳しい資料が必要になる。
- 英国中心の記述。 本書は英国の制度を説明しており、EUと国際的な事項は特定の章(第13章と第28章)にまとめられている。他の法域の読者は、一般的な概念の理解に用いるのがよい。
- 版の時期。 第7版は2022年の刊行であり、その後の判例や立法は最新の教科書で確認する必要がある。
コースにおける位置づけ
このコースにおいて本書は、知的財産の側の短い導入書である。Bentlyらの Intellectual Property Law は、本書が意図的に省いた判例と批判的分析を備えた本格的な教科書であり、ある権利の全体像をつかむためにまず本書の該当部を読み、続いて本格的な教科書の対応する章に進むのが自然な順序である。James Boyleの The Public Domain は性格の異なる本で、知的財産がどこまで及ぶべきかについての批判的な議論である。本書が説明する基本的な権利に慣れてから読むと理解しやすい。
情報技術の側では、Ian Lloydの Information Technology Law が、プライバシー、データ保護、サイバー犯罪、電子商取引、デジタル環境における知的財産を扱う学部向けの入門書であり、Andrew Murrayの Information Technology Law: The Law and Society は、インターネット、デジタルコンテンツ、個人データに関するルールを、技術と社会をめぐるより広い議論に結びつける。本書の著作権、データベース権、秘密とプライバシーの章は、両書の背景知識として役立つ。
本書の使い方
本書は、知的財産法の科目を始める、あるいは選択科目を選ぼうとしている法学生、そして発明、ブランド、創作物がどのように保護されるかの実用的な見取り図を必要とするビジネス、理工系、クリエイティブ産業の学生に適している。法律の予備知識は前提とされていない。
実践的な読み方:
- 授業の前に: 第1部を通読する。短く、権利、救済、保護方式の選択について、本書の残りの部分が用いる語彙を与えてくれる。
- 講義と並行して: 授業の各ブロックに対応する部を、講義の数日前に読む。特許と意匠なら第2部、商標とパッシングオフなら第3部、著作権なら第4部である。そのうえで、判例と条文の詳細のために本格的な教科書に進む。
- 選択的な読書: 第5部は、主題が出てきたときに章ごとに読める。たとえばIT法の授業でデータ保護とプライバシーを学ぶときに第25章を、消尽が扱われるときに第27章を読む。
- 復習のために: ひとつの部を一度に読み返すと、登録から取消しまでの商標の流れのように、ある権利の構造を短時間で取り戻せる。そのうえで詳しいノートに移るとよい。
本書には脚注がないため、言及されている判例をメモしておき、評価課題で重要になる論点については判例集やデータベースで確認すること。版が2022年のものなので、法の論点は最新の資料で確かめる必要がある。
