01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Iggers, G. G., Wang, Q. E., & Mukherjee, S. (2017). A Global History of Modern Historiography (2nd ed.). Routledge.
章の要約
本書は、18世紀半ば以降の歴史叙述を比較の観点から描いた歴史である。約390ページで、序論と8つの章、用語集、推薦文献、索引からなる。章は年代順に並び、それぞれ西洋の歴史学を中東、インド、東アジアなどの伝統とあわせて取り上げ、西洋のモデルがどのように受容され、改変され、あるいは拒まれたかを問う。
序論(Introduction)
出版社によれば類書のない、グローバルで比較的な視点を示し、近代化とグローバル化の中で各社会の歴史叙述がどう変化したかという問いを提示する。
第1章:Historiographical Traditions in the World: A View of the Eighteenth Century
西洋の学術的歴史学が広まる以前の、18世紀頃の世界の歴史叙述の伝統を概観する。以後の章が変化を測る基準点となる。
第2章:The Advance of Nationalism and Nationalist History: The West, the Middle East, and India in the Nineteenth Century
19世紀のヨーロッパ、中東、インドにおける民族主義的歴史叙述の台頭をたどる。
第3章:Academic History and the Shaping of Historical Profession: Transforming Historical Study in the Nineteenth Century West and East Asia
歴史学が学問的な職業として確立していく過程を、西洋と東アジアについて扱う。
第4章:Historical Writings in the Shadow of Two World Wars: The Crisis of Historicism and Modern Historiography
二つの世界大戦の時代と歴史主義の危機、および近代歴史学における新しい方向の出現を扱う。
第5章:The Appeal of Nationalist History around the World: Historical Studies in the Middle East and Asia in the Twentieth Century
20世紀の民族主義的歴史叙述に再び目を向け、中東とアジアに焦点を当てる。
第6章:New Challenges in the Postwar Period: From Social History to Postmodernism and Postcolonialism
社会史からポストモダニズム、ポストコロニアリズムまで、戦後に既存の歴史学が受けた挑戦をたどる。
第7章:The Rise of Islamism and the Ebb of Marxism: Historical Writings in Late Twentieth Century Asia, the Middle East and the West
イスラーム主義の台頭とマルクス主義の退潮を背景に、20世紀末のアジア、中東、西洋の歴史叙述を検討する。
第8章:Historiography after the Cold War, 1990–2007: A Critical Retrospect
冷戦後の歴史学を概観する終章。出版社によれば、第2版ではラテンアメリカとアフリカの歴史学の節が更新され、ロシアの歴史叙述が新たに加わり、近年のグローバル・ヒストリー、環境史、フェミニズム・ジェンダー史の議論が扱われている。
主要概念
序論と第1章
- グローバルで比較的な歴史学史:各地域の歴史叙述の伝統を、西洋モデルの派生ではなく並べて扱う見方。
- 歴史叙述の伝統:18世紀の概観が描く、各社会の近代以前の歴史の書き方。
第2〜3章
- 民族主義的歴史:国民的アイデンティティに資する歴史叙述。西洋、中東、インドで追跡される。
- 歴史学の専門職化:学問としての歴史学が職業として確立すること。西洋と東アジアについて扱われる。
第4〜5章
- 歴史主義とその危機:19世紀の歴史へのアプローチと、世界大戦の時代にそれが直面した疑念。
第6〜8章
- 社会史、ポストモダニズム、ポストコロニアリズム:戦後に既存の歴史叙述に向けられた挑戦。
- イスラーム主義とマルクス主義:その盛衰が20世紀末の歴史叙述を形づくった二つの思想潮流。
- 冷戦後の歴史学:グローバル、環境、ジェンダー・フェミニズムの新しい取り組みの時期。
批判的分析
長所
- 真に比較的な範囲。 出版社は、グローバルで比較的な視点をとった初の歴史学史と位置づけている。章題を見ると、他地域を末尾に付け足すのではなく、一貫して西洋の展開と中東、インド、東アジアなどの展開が対にされている。
- 明快な年代的枠組み。 約2世紀半を8章で順に扱うため、ある歴史家や学派を文脈に位置づけやすい。
- 第2版での更新。 ラテンアメリカ、アフリカ、ロシア、そしてグローバル史、環境史、ジェンダー史の内容が加えられ、叙述が21世紀初頭に及ぶ。
- 学習支援。 用語集、推薦文献、主要な歴史学テクストの抜粋を収めたオンライン資料が授業での利用を助ける。出版社が引用するエディンバラ大学のアダム・バッドは、18世紀以降の歴史叙述を扱う真にグローバルな唯一の歴史であり、文体も明晰だと評している。
短所
- 概説としての深さ。 世界全体を約390ページで扱うため、個々の歴史家や伝統の扱いは簡潔になる。地図としては有用だが、一次文献の読書や専門研究の代わりにはならない。
- 終点の年。 最終章は2007年で終わるため、最近の展開は後の文献に頼る必要がある。
- 前提知識。 近現代の世界史や西洋の主要な歴史学派に不慣れな読者は、ある程度の背景知識があるほうが比較を追いやすい。
コースにおける位置づけ
歴史学方法論のリストの中で、本書は主題を地理的に、また長い時間幅で整理する唯一の本である。ジョン・アーノルドの『History: A Very Short Introduction』とジョン・トッシュの『The Pursuit of History』は、歴史家が何をし、史料をどう扱うかを紹介する入門であり、最初に読むのに適している。マルク・ブロックの『The Historian's Craft』とE・H・カーの『What Is History?』は、一人の著者による歴史の実践についての短い古典的省察で、ヘイドン・ホワイトの『Metahistory』は19世紀ヨーロッパの歴史叙述を扱う難度の高い理論的研究である。
イガース、ワン、ムカジーは、これらの本が扱わない地球規模かつ年代順の背景を提供する。民族主義的歴史、専門的歴史学、社会史、ポストコロニアル批判がどこから来て、ヨーロッパの外でどう展開したかを示す。基礎を押さえたあと、『Metahistory』の前か並行して読む伴走書として適している。
本書の使い方
歴史学史、歴史学方法論、グローバル・ヒストリーを学ぶ学生と、分野の概観が必要な大学院生に向く。近現代史の入門的な知識と、歴史学の基本的な方法への親しみがあると役立つ。
実際の読み方の例を挙げる。
- 中核: 枠組みと19世紀の基礎のために序論と第1〜3章、20世紀の歴史主義の危機と戦後の挑戦のために第4章と第6章。
- 地域別: 第2、3、5、7章は中東、インド、東アジアを扱う(第2、3、7章は西洋も含む)ので、関心のある地域に応じて選んで読める。
- 締めくくり: 現在の議論については第8章と第2版の新しい内容。
- 併読: 用語は用語集で確認し、個別の伝統は推薦文献でたどり、論じられるテクストの一部はオンライン抜粋で読む。
