01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Daley, P., & Klinke, I. (2025). Human Geography: A Very Short Introduction. Oxford University Press. Very Short Introductions.
章の要約
本書は約160ページ、全8章からなる。人文地理学の下位分野を一つずつ順に扱うのではなく、中間の6章がそれぞれ一種類の空間を取り上げ、そこから権力、不平等、抵抗をめぐる一連の問いを開いていく。冒頭の章が学問分野を定義し、最終章は地球そのものの外へと出ていく。
第1章:人文地理学とは何か
インド–パキスタン国境を最初の事例として、社会が国境をどのように築き、維持するか、そしてナショナリズムと協力がその国境をはさんでどのように展開するかを示す。続いて、植民地主義に根をもつ起源から、多様な方法と視点をもつより多元的な分野へと至る学問の歴史を概観し、本書を貫く概念として空間と権力を導入する。
第2章:植民地
ブラック・ライヴズ・マター運動の抗議のなかでブリストルのエドワード・コルストン像が引き倒された出来事から出発し、大西洋奴隷貿易から今日の新植民地主義的な関係に至る植民地主義の歩みをたどる。形式的な脱植民地化の後もヨーロッパ中心的な構造と経済的従属が残ったと論じ、先住民の視点の承認を含む脱植民地性(デコロニアリティ)の主張で締めくくる。
第3章:パイプライン
石油を、採掘、商品化、輸送の過程に沿って追う。産業資本主義が社会を再生可能エネルギーから化石燃料へと移行させた経緯を述べ、ダコタ・アクセスとキーストーンXLのパイプライン、そしてチャド–カメルーン・パイプライン(その周囲に生まれた呪術をめぐる語りを含む)を取り上げ、石油を地球温暖化、植民地的搾取、環境人種主義と結びつける。
第4章:高層住宅
2017年にロンドン西部で起きたグレンフェル・タワー火災を入り口として、都市の不平等を論じる。高層建築の起源と資本主義的動機との結びつきをたどり、低所得の住民を立ち退かせる過程としての都市再開発とジェントリフィケーションを検討する。
第5章:国境
家畜の囲いから強制収容所、国境フェンスに至るまで用いられてきた有刺鉄線が、この章の象徴となる。誰が越えてよいかを決める主権の標識としての国境、グローバル化のもとでのその役割の変化、国境管理に伴う暴力と植民地主義・人種主義・資本主義との結びつきを論じ、最後に国境廃絶という構想を取り上げる。
第6章:職場
労働の地理学に目を向ける。ギグワークと不安定な雇用契約、ジェンダーと人種のイデオロギーが労働を形づくるあり方(その一例として英国の男女間賃金格差)、人種資本主義、そしてファストファッションのグローバルなネットワークを扱う。最後に、仕事がどこでどのように行われるかを作り変えつつある地政学的変化に触れる。
第7章:保護区
ライオンのセシルが殺された事件を手がかりに、西洋的な商品化と軍事化に方向づけられた自然保護を批判する。保護区の起源を植民地時代の森林法と先住民共同体の排除にまでさかのぼり、自然を経済的資産とみなす新自由主義的な枠づけを論じ、自然保護の脱植民地化を主張する。
第8章:人文地理学の彼方へ
最終章は本書の問いを宇宙空間へと広げる。ボイジャー計画を手がかりにスケールと人間の限界を考え、宇宙インフラと資源採掘に見られる植民地主義的傾向、億万長者と国家の思惑に動かされる宇宙産業の拡大、日常生活における人工衛星の役割を論じる。そして、宇宙空間の人文地理学は土地の収奪や不平等といった地上の問題に深く根ざしたままだと結論づける。
主要概念
第1章:人文地理学とは何か
- 空間と権力:本書を組み立てる二つの概念。地理学は、権力が空間の編成を通じてどのように行使され、争われ、抵抗されるかを研究する。
- 学問の植民地主義的起源:人文地理学の歴史は、中立的な背景ではなく、それ自体が研究対象の一部として扱われる。
第2〜3章:植民地/パイプライン
- 新植民地主義:形式的な独立の後も続く、植民地的な経済的・政治的従属。
- 脱植民地性(デコロニアリティ):先住民の視点の承認などを通じて、人種と知の植民地的な序列を解体しようとする立場。
- 環境人種主義:環境被害が不均等に配分されること。ここでは石油採掘とパイプラインを通じて論じられる。
第4〜6章:高層住宅/国境/職場
- ジェントリフィケーション:都市の近隣地区が変容し、低所得の住民が立ち退かされる過程。
- 国境化(ボーダリング):国家が誰を通し、誰を排除するかを決める実践。
- 人種資本主義:資本主義的な搾取が人種的な序列を通じて作動するという考え方。ここでは職場とグローバルな生産ネットワークを読み解くために用いられる。
第7〜8章:保護区/人文地理学の彼方へ
- 自然の商品化:自然を経済的資産とみなす新自由主義的な枠づけ。この章はそれを植民地時代の森林法や、保護区からの先住民共同体の排除と結びつける。
- 宇宙空間の人文地理学:領域、採掘、不平等をめぐる問いを地球の外へと拡張すること。
批判的分析
長所
- 独特で記憶に残る構成。 植民地、パイプライン、高層住宅、国境、職場、保護区という六つの具体的な空間を軸に本書を組み立てることで、各章に明確な対象が与えられ、植民地主義や不平等といった主題が大きく異なる場面に繰り返し現れる。
- 最近の具体的な事例。 各章は、多くの読者が知っている出来事から始まる。コルストン像の撤去、グレンフェル火災、ダコタ・アクセス・パイプライン、ライオンのセシルの殺害である。これにより、権力と空間をめぐる抽象的な議論がつかみやすくなる。
- 学問そのものへの批判的なまなざし。 出版社の紹介文は、著者たちが地理学の歴史を批判的に検討しつつ、その変わらぬ活力を主張していることを強調している。第1章が描く分野の植民地主義的起源は、より上級の授業で出会う論争への準備となる。
- 自らの研究領域について書く著者。 デイリーはオックスフォード大学のアフリカ人文地理学教授で、ジェンダー、ジェノサイド、開発研究の脱植民地化に関する仕事がある。同じくオックスフォードのクリンケは、フリードリヒ・ラッツェルの地理学や冷戦期ドイツについて著書がある。二人の研究関心は、植民地主義、国境、地政学を重視する本書の方向と一致している。
短所
- 体系的な概説ではない。 標準的な入門教科書が人文地理学を組み立てるような、人口、言語、宗教、農業、都市モデルの章はない。人口密度、拡散の類型、人口転換といった分野の基本用語を体系的に学ぶ必要がある読者は、教科書を併用することになる。
- 全体を通じて一つの批判的視点。 各章は一貫して、植民地主義、人種資本主義、脱植民地性を通じて事例を読み解く。これは欠陥というより本書の主張そのものだが、学生は現代人文地理学の一つの潮流を深く知る一方で、空間分析や地誌的記述といった他の伝統は本書の関心の外にある。
- 英国色の強い出発点。 アフリカや北米の事例と並んで、いくつかの事例は英国のもの(コルストン、グレンフェル、英国の男女間賃金格差)である。
- 意図的な短さ。 本文は約115ページで、各空間には短い一章しか割かれず、参考文献の一覧も短い。
コースにおける位置づけ
このコースのリストでは、本書は最も短い入口である。ドレルとヘンダーソンの Introduction to Human Geography は、人口、移住、文化、言語、宗教、エスニシティ、政治地理、開発、農業、工業、集落、資源といった従来の主題を一章ずつ扱う無料のオープン教科書であり、バーグリーの World Regional Geography は世界を地域ごとに概観する。デイリーとクリンケは、こうした概説に欠けがちなもの、すなわち、なぜこの学問が重要なのか、そして権力が日常の空間をどのように貫いているのかについての議論を補ってくれる。
その議論の背後にある理論を理解したい学生には、アイトキンとヴァレンタインの Approaches to Human Geography が学問の哲学と理論を章ごとに説明しており、The Dictionary of Human Geography は分野の概念と論争についての署名入り項目を収め、本書が導入する用語を掘り下げるのに役立つ。この「ベリー・ショート・イントロダクション」は、最初に、あるいは主教科書と並行して読み、その後、より理論的なこれらの著作への橋渡しとして使うのがよい。
本書の使い方
予備知識は不要で、数回に分けて読み通せる。大学1年生、他分野から地理学の授業を一つだけ取る学生、この学問を専攻するかどうか考えている人に向いている。
- まず第1章を読む。 後の章が前提とする空間と権力の考え方、そして学問の歴史がここで示される。
- 第2〜7章はどの順でも読める。 各章は独立している。植民地主義はパイプライン、国境、保護区の章でも繰り返し現れるので、2番目には植民地の章(第2章)を読むのが最も役に立つ。
- 教科書の主題と組み合わせる。 国境の章は教科書の政治地理の章と、高層住宅の章は都市地理と、職場の章は工業や開発と、パイプラインと保護区の章は資源・環境と並べて読む。記述的な扱いと論証的な扱いの違いを比べることは学びになる。
- 事例を調べる。 各章は特定の出来事を軸にしている。その出来事(グレンフェル、ダコタ・アクセス、ライオンのセシル)についての報道や報告書を読み、章の概念がどう当てはまるかを考えることは、理解を確かめるよい方法である。
- 最後に第8章を読む。 宇宙空間の章は、本書の考え方をなじみのない場面に当てはめる練習として有用であり、参考文献一覧はさらなる読書への手がかりとなる。
