01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Bowles, S. (2004). Microeconomics: Behavior, Institutions, and Evolution. Princeton University Press.
章の要約
全体は約580ページで、4部14章からなり、冒頭にプロローグ、末尾に約30ページの問題集、参考文献などが付く。各章は経験的な謎や歴史的な出来事から始まり、その章のモデルがそれらを解き明かすことを狙う。出版社によれば、モデルを試せるようエージェント・ベースのシミュレーションがオンラインで提供されている。
プロローグ 経済学と諸国民および人々の富(Economics and the Wealth of Nations and People)
古典派経済学者の、国や人々の富と貧困への関心に立ち返り、本書の立場を示す。それは、制度が個人の行動を形づくり、その制度自体が個人の行動、技術変化、偶然によって形づくられるというミクロ経済学である。
第I部 協調と対立:第1–2章:社会的相互作用と制度設計;自生的秩序:経済生活の自己組織化(Social Interactions and Institutional Design; Spontaneous Order: The Self-organization of Economic Life)
第1章は簡単なゲームを通じて社会的相互作用を導入する。囚人のジレンマに似た「漁師たちの悲劇」と保証ゲームがあり、それらを通してナッシュ均衡とパレート効率性の概念が示される。第2章は、設計者なしに秩序がどう生まれるかを、レプリケーター動学と進化的安定状態を用いて論じ、居住分離や財産権の進化を例とする。
第3–4章:選好と行動;協調の失敗と制度的対応(Preferences and Behavior; Coordination Failures and Institutional Responses)
第3章は、選好から行動へという標準的な道筋である期待効用の最大化を、選好が状況に依存し自己利益が常に優先されるわけではないという証拠と比較し、プロスペクト理論、不平等回避、互恵性を論じる。第4章はチーム生産などの協調の失敗をモデル化し、協調問題とそれに対する制度的対応の分類を示す。
第5章 協力の利得の分配:交渉とレントシーキング(Dividing the Gains to Cooperation: Bargaining and Rent Seeking)
協力の利得をめぐる交渉を、ナッシュ交渉解や交互提案モデルを含めて扱い、レントシーキングと交渉の決裂も論じる。
第II部 競争と協力:資本主義の制度:第6–7章:ユートピア的資本主義:分権的な調整;交換:契約・規範・権力(Utopian Capitalism: Decentralized Coordination; Exchange: Contracts, Norms, and Power)
第6章は、厚生経済学の基本定理とコースの定理を、現実の経済の記述ではなく理想化された極限の場合として扱う。第7章は、契約が通常は不完備であるという観察から出発し、規範、繰り返し相互作用、評判、情報の非対称性を探る。
第8–10章:雇用・失業・賃金;信用市場・富の制約・配分の非効率;資本主義経済の制度(Employment, Unemployment, and Wages; Credit Markets, Wealth Constraints, and Allocative Inefficiency; The Institutions of a Capitalist Economy)
第8章は企業内の雇用関係のモデルを構築し、失業を伴う一般均衡へ拡張する。第9章は信用市場をモデル化し、富が契約の形態と配分の効率に影響することを示す。第10章は、企業の支配権がなぜ通常は資本の供給者に属するのか、またそれが権力の行使に何を意味するのかを考える。
第III部 変化:制度と選好の共進化:第11–13章:制度と個人の進化;偶然・集合行為・制度革新;制度と選好の共進化(Institutional and Individual Evolution; Chance, Collective Action, and Institutional Innovation; The Coevolution of Institutions and Preferences)
第11章は、集団内選択と集団間選択を含むレプリケーター・モデルを用いて、初期人類の集団で競合した行動様式と農業への移行を研究する。第12章は確率的進化ゲーム理論を制度変化と集合行為に応用する。第13章は、制度と選好の共進化についてのマルチエージェント・シミュレーションを展開する。
第IV部 結論:第14章 経済ガバナンス:市場・国家・コミュニティ(Economic Governance: Markets, States, and Communities)
「ルールを正しく定める」という問いで締めくくり、市場、国家、コミュニティを、代替的であり時に補完的でもあるガバナンスの構造として評価する。
主要概念
第I部(第1–5章)
- 協調と対立:個々人の最適な選択が、全員にとってより悪い結果をもたらす社会的相互作用。
- レプリケーター動学:行動がその成功度に応じて集団内に広がる様子を表すモデル。
- 社会的選好:互恵性や不平等回避など、純粋な自己利益から外れる動機。
- 交渉とレントシーキング:協力の利得の分配をめぐる争い。
第II部(第6–10章)
- 不完備契約:契約はあらゆる事態を規定できず、結果が規範や権力に左右されるという考え方。
- 富の制約:誰が借り入れ、所有し、支配できるかに富が及ぼす影響と、それを通じた契約形態への影響。
- 残余支配権:契約で定められていない事柄を決める権利で、本書は権力と結びつけている。
第III・IV部(第11–14章)
- 制度と選好の共進化:経済制度と個人の傾向が互いに強め合いながら進む発展。
- 確率的進化ゲーム理論:ランダムな逸脱を含み、集団が均衡間を移動できる進化モデル。
- 経済ガバナンス:市場、国家、コミュニティの間のバランス。
批判的分析
長所
- 異なる組織原理。 価格と孤立した市場ではなく、社会的相互作用、制度、その進化を軸とし、ゲーム理論、契約理論、実験的証拠、動学モデルを道具とする。Danny Yee の書評は、Bowles が行動経済学・実験の成果を付け足しではなく基礎として扱っていると述べている。
- モデルとその限界を併記。 Yee の説明では、モデルは前提と限界への注意深い配慮とともに提示され、著者はワルラス的基準を現実の経済の記述として扱うことに慎重である。
- 簡明な数学と軽快な叙述。 書評によれば、必要なのは単純な微積分だけで、数学は簡潔に示される。
- 考えさせる問題。 Yee は30ページの問題を、単純な応用ではなく中心的な考え方の理解を試すための複数小問の設定問題と述べている。出版社はさらに、モデルを試すオンラインのシミュレーションを提供している。
- 理論と歴史の結びつき。 各章が経験的な謎や歴史的な出来事で始まる。
短所
- ペースと前提知識。 同じ書評は、考えが速いペースと高い抽象度で現れ、形式的なミクロ経済学的思考にある程度触れていることが前提だと指摘している。ゲーム理論や進化モデルに慣れていると助けになる。
- 通常の入門コースではない。 著者は大学院レベルのミクロ経済学の授業を想定しており、標準的なカリキュラムから外れるため、通常の教科書に代わるものではなく、並べて使うのが望ましい。
- 確立していない内容。 Bowles は、この分野は流動的でほとんど確立していないと述べ、交渉の章など、より良いモデルが必要だとする箇所もある。
コースにおける位置づけ
経済学原理のリストに入っているものの、入門コースではない。Mankiw の Principles of Economics、Sloman・Garratt・Guest の Economics、OpenStax の Principles of Economics、CORE の The Economy 2.0: Microeconomics は標準的なモデルを教える入門書であり、Bowles の前にそれらのモデルを知っておくのがよい。
Bowles は、現実の問題から出発する点で CORE の教科書に精神的に最も近いが、形式化の程度ははるかに高い。リストの中では、Acemoglu らの Microeconomics が基礎理論と実証的証拠を統合した大学院レベルの教科書で、より通常の大学院向けの併読書である。Bowles は制度、社会的選好、進化モデルでそれを補う。
本書の使い方
経済学およびその隣接社会科学の大学院生、経済学原理、中級ミクロ経済学の一部、微積分を学んだ学部上級生に向く。使われるゲーム理論は本文中で導入されるため、別にゲーム理論の授業を取る必要はない。
読み進め方の例:
- 中核: 第I部の第1–5章は、他のすべての部で使われる道具(ゲーム、進化、選好、協調、交渉)を与える。
- 資本主義の制度: 第6–10章は標準的なミクロ経済学の授業と最も直接に関係し、厚生定理、契約、労働、信用、企業を扱う。経済制度が主な関心の読者は第5章の後すぐに読める。
- 進化的な拡張: 第11–13章は最も専門的で後回しにできる。第14章は議論全体のまとめとして単独で読める。
巻末の問題に取り組み、出版社が述べるオンラインのシミュレーションも試すこと。
