01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Stock, J. H., & Watson, M. W. (2018). Introduction to Econometrics (4th ed.). Pearson.
章の要約
第4版は約755ページ、5部19章で構成される。Pearsonは本書の理念を、応用が理論を導くのであってその逆ではない、と説明している。各手法は現実の問いとデータから導入され、この版では大規模データ(ビッグデータ)に関する章が新たに加わった。
第1〜3章:経済上の問いとデータ、確率の復習、統計の復習
第I部「序論と復習」は、経済上の問いとそれに答えるためのデータという観点から計量経済学を位置づけることから始まり、続く2章で確率と統計をそれぞれ復習する。この2章は回帰分析の土台を整えるもので、基礎知識が曖昧になっている読者は本論に入る前に確認できる。
第4〜5章:説明変数が1つの線形回帰、説明変数が1つの回帰における仮説検定と信頼区間
第II部「回帰分析の基礎」は、最も単純な回帰モデル、すなわち説明変数が1つのモデルから始まり、次の1章をそのモデルの推測、つまり仮説検定と信頼区間にあてる。
第6〜7章:複数の説明変数をもつ線形回帰、重回帰における仮説検定と信頼区間
同じ2段階の構成が複数の説明変数の場合にも繰り返される。まずモデルが示され、次にそれに対応する検定と信頼区間が扱われる。
第8〜9章:非線形の回帰関数、重回帰に基づく研究の評価
第8章は回帰を直線的な関係の外へと広げる。第9章は第II部を締めくくり、手法の説明から評価へと視点を移して、重回帰に基づく研究をどう評価すべきかを論じる。
第10〜14章:パネルデータによる回帰、二値の被説明変数による回帰、操作変数回帰、実験と準実験、多数の説明変数による予測とビッグデータ
第III部「回帰分析のさらなるトピック」は、互いに独立した5つの拡張を並べる。同じ個体を複数の時点で追跡したデータ、2つの値しかとらない結果変数、操作変数、実験および準実験による証拠、そして多数の説明変数を用いた予測である。最後が第4版で新設されたビッグデータの章にあたる。
第15〜17章:時系列回帰と予測の入門、動学的因果効果の推定、時系列回帰のその他のトピック
第IV部「経済時系列データの回帰分析」は、時系列回帰と予測の入門に始まり、動学的因果効果の推定へ進み、その他のトピックを扱う章で終わる。
第18〜19章:説明変数が1つの線形回帰の理論、重回帰の理論
第V部「回帰分析の経済理論」は、最後の2章で単回帰と重回帰のモデルの理論をまとめて扱う。これらは、それまでの応用的な章とは切り離されている。
主要概念
第I部:序論と復習(第1〜3章)
- 経済上の問いとデータ:本書の出発点であり、実証的な問いとそれに答えるために使えるデータを、手法選択の土台に据える。
- 確率と統計の復習:回帰分析が前提とする確率・統計の基礎知識。
第II部:回帰分析の基礎(第4〜9章)
- 単回帰:結果変数と1つの説明変数を結びつける直線をあてはめること。
- 仮説検定と信頼区間:推定された係数がある値と異なるかどうか、またどの程度正確に推定されているかを判断する道具。
- 重回帰:複数の説明変数を同じモデルの中に含めること。
- 非線形の回帰関数:効果が一定の傾きではない関係。
- 研究の評価:回帰に基づく研究が、そこから導かれた結論を支えているかを判断すること。
第III部:回帰分析のさらなるトピック(第10〜14章)
- パネルデータ:同じ個体を複数の期間にわたって観測したデータ。
- 二値の被説明変数:結果が「はい・いいえ」で表される場合の回帰。
- 操作変数回帰:説明変数が誤差項と相関している場合に効果を推定する方法。
- 実験と準実験:無作為化された変動、あるいは自然に生じた変動から得られる証拠。
- 多数の説明変数による予測:予測変数の候補が多数ある状況での予測で、ビッグデータの章の主題。
第IV部・第V部:時系列と理論(第15〜19章)
- 時系列回帰と予測:時間順に観測された変数をモデル化し、予測すること。
- 動学的因果効果:ある変数の変化がその後の期間の別の変数にどう影響するか。
- 線形回帰の理論:説明変数が1つの場合と複数の場合のモデルを形式的に展開したもの。
批判的分析
長所
- 応用重視の姿勢が構成に表れている。 Pearsonは応用が理論を導くべきだとしており、目次の配列もこれに沿っている。本書は経済上の問いとデータから始まり、第II〜IV部で回帰、拡張トピック、時系列と進み、形式的な理論は冒頭ではなく最終部に置かれている。
- 1冊で幅広く扱う。 横断面データの回帰、パネルデータ、二値の結果、操作変数、実験と準実験、時系列回帰と予測、そして多数の説明変数による予測の章が19章の中に収まっており、1冊で横断面の手法と時系列の手法の両方に及ぶ。
- 復習が組み込まれている。 冒頭の2章が確率と統計を復習しているため、別の統計学の授業の記憶が鮮明であることに全面的に頼らずに済む。
- 新しい内容。 出版社は、多数の説明変数による予測とビッグデータに関する新章を、第4版の主な追加として挙げている。
短所
- 理論が後回しになっている。 形式的な議論が第V部にあるため、各手法が登場する時点でその導出を見たい読者は、最後の2章を前の章と並行して読む必要がある。
- 分量と取捨選択。 約755ページ、5部構成の本書は、1つの授業で扱えそうな量を超えており、目次も決まった読み順を示していない。特に第III部は独立した話題が並んでいるため、授業も読者も取捨選択が必要になる。
- 予測は1章のみ。 目次では予測とビッグデータに割かれているのは1章だけであり、この分野の入口として働くものの、本格的な解説ではない。
コースにおける位置づけ
Stock と Watson の本は、この計量経済学の書目における学部向けの主教科書である。より穏やかな出発点となる本が2冊ある。Angrist と Pischke の Mastering 'Metrics は、因果効果を推定する方法への読みやすい入門書とされ、5つの中心的な道具を軸に、平易な言葉と簡単な記法で書かれている。A. H. Studenmund の Using Econometrics は、直感と実践を通じて単一方程式の回帰を教え、小規模な実証プロジェクトの特定、診断、報告にも目配りするものとされている。どちらも Stock と Watson の前に読むことも、並行して読んで同じ考え方を別の説明で確かめることもできる。
Wooldridge の Introductory Econometrics: A Modern Approach は、主教科書として最も近い代替であり、書目の紹介では回帰、因果的推論、仮説検定、パネルデータ、操作変数、実証研究が挙げられている。Angrist と Pischke の Mostly Harmless Econometrics は、応用ミクロ経済学者が因果的な問いに用いる道具、すなわち操作変数、差の差、回帰不連続などをまとめた簡潔な案内書で、第12章・第13章の次に読む本として自然である。Newbold の Statistics for Business and Economics は一般的な統計学の教科書で、第2章・第3章の復習を補う役割を果たせる。
本書の使い方
本書は、経済学の入門科目と統計学の最初の科目を終えた学生を対象としており、Pearsonは入門的な計量経済学の授業向けの教科書と位置づけている。第2章と第3章が復習を提供するので、統計学を学んでから時間が経っている読者は、これらで確認してから先へ進むとよい。
実際的な進め方は次のとおりである。
- 中核: 第1〜9章を順に読む。回帰モデル、推測、重回帰、非線形の定式化、そして研究を批判的に評価する習慣がここで固まり、以降のすべてがこれらの上に成り立つ。
- 関心に応じて選ぶ: 第III部では、ミクロ経済学における因果的証拠に関心があれば操作変数と実験・準実験(第12・13章)、企業・個人・国の反復観測を扱うならパネルデータ(第10章)、「はい・いいえ」の結果を扱うなら二値の結果の章(第11章)を読む。予測や大規模データに興味がある読者には第14章が向く。
- 時系列: 第IV部は、マクロ経済学、金融、予測に関する授業に適している。
- 理論: 第V部は、さらに計量経済学を学ぶ予定の読者向けである。導出を早く見たい場合は、第4〜7章と並行して読む。
読みながら、統計ソフトを使って実際のデータでモデルを推定してみるとよい。本書は実証的な問いを軸に組み立てられているからである。あわせて、授業で課される演習にも取り組む。Pearsonは本書を単独でも、オンライン演習プラットフォームの MyLab Economics とセットでも販売しており、どちらを選ぶかは授業の要件による。
