01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Scerri, E. R. (2019). The Periodic Table: A Very Short Introduction (2nd ed.). Oxford University Press. Very Short Introductions.
章の要約
第2版は全10章、約145ページである。オックスフォード大学出版局の紹介文によれば、本書は周期表がつくられるに至った経緯と、その構造のより深い意味が原子論と量子力学の発展とともにどのように明らかになったかを扱う。この版では、113、115、117、118番元素がニホニウム、モスコビウム、テネシン、オガネソンと命名されて第7周期が完成したことを取り上げ、元素の起源についての最近の知見も加えている。構成はおおむね歴史に沿っており、全体を見渡す2章のあと、第3〜9章が初期の原子量から合成元素までの周期表の発展をたどり、第10章がどの形の周期表が最良かを問う。
第1章:元素(The elements)
元素という考え方の歴史である。ギリシアの四元素とプラトンの立体との結びつき、古代から知られていた元素と分離に新しい技術を要した元素、命名をめぐる論争、そして錬金術の記号から現在の文字記号への移行を扱う。
第2章:現代の周期表の概観(A quick overview of the modern periodic table)
元素がどう並べられているか、そして周期律が何を述べているか(一定ではあるが長さの異なる間隔をおいて、元素の性質がおおよそ繰り返される)を説明する。並べ方の原理が当量から原子量へ、さらに原子番号へと移ったことをたどり、周期表には多くの版があることに触れ、量子力学、相対性理論、人工元素の合成(これにより元素は118種となった)が周期性の考え方をどう変えたかを説明する。
第3章:原子量、三つ組、プラウト(Atomic weight, triads, and Prout)
定性的な化学から定量的な化学への転換を扱う。ドルトンの原子論、アボガドロの二原子分子、ゲイ=リュサックの気体反応の体積比、原子量は水素の原子量の倍数だとするプラウトの仮説、デーベライナーの三つ組元素、そして化学的に似ていない元素どうしを関係づけようとしたクレーマースの最初の試みである。
第4章:周期表への歩み(Steps towards the periodic table)
カールスルーエ会議とそこで標準化された原子量に続いて1860年代に考案された周期表を扱う。ド・シャンクルトワ、オクターブの法則のニューランズ、オドリング、ヒンリクス、ロタール・マイヤーで、それぞれが周期性の一端をとらえていた。
第5章:ロシアの天才(The Russian genius)
メンデレーエフの生涯と業績である。プラウトの仮説や三つ組を退けた点でライバルたちとどう違ったか、1869年に描いた周期表、その予言の成功と失敗、そして1890年代に分離された貴ガスの周期表への組み込みを扱う。
第6章:物理学が周期表に入り込む(Physics invades the periodic table)
ラザフォードの原子核モデル、ファン・デン・ブルークの原子番号の考え方、どの元素が欠けているかを正確に示したモーズリーの測定、そしてソディの同位体を扱う。
第7章:電子構造(Electronic structure)
プランクの量子論、ボーアの殻模型と化学的証拠を用いた他の元素への拡張、ルイスの立方体原子と電子対結合、殻の満たされる順序についてのベリーの研究を扱う。
第8章:量子力学(Quantum mechanics)
ボーアの理論が多電子原子でなぜうまくいかなかったか、そしてシュレーディンガーの波動方程式が電子を波として扱うことでそのエネルギーをどう量子化したかを説明し、オイゲン・シュヴァルツによる電子配置についての最近の研究も論じる。
第9章:現代の錬金術(Modern alchemy)
ラザフォードとソディによる元素変換から、サイクロトロンによるより重い元素の合成、周期表の空白の充填、ウランより後の元素を独立した区画に置く扱い、そして相対論効果までを扱う。相対論効果があっても化学的な周期性は驚くほど保たれている。
第10章:周期表のさまざまな形(Forms of the periodic table)
水素とヘリウムの位置を動かしたり、三つ組をつくるように元素を並べ替えたりしたものを含め、これまでに発表された多くの周期表を取り上げ、最適な周期表はあるのかを問う。本章はこれを、周期性についての実在論と道具主義という哲学的な立場の選択として描く。
主要概念
第1〜2章:元素と現代の周期表
- 周期律:一定ではあるが長さの異なる間隔をおいて、元素の性質がおおよそ繰り返されること。
- 原子番号:当量と原子量に代わって元素を並べる原理となったもの。
第3〜5章:周期性の発見
- プラウトの仮説と三つ組:周期性を指し示していた、原子量の初期の数値的パターン。
- メンデレーエフの予言:周期系を用いた未知元素の予測であり、成功と誤りの両方があった。
第6〜8章:物理学と周期表
- モーズリーの研究と同位体:元素を並べるのは原子量ではなく原子番号だという実験的証拠。
- 電子殻と量子力学:周期性の説明としての、ボーアのモデルからシュレーディンガー方程式への歩み。
第9〜10章:新しい元素と新しい周期表
- 合成元素:原子核の変換と粒子加速器によってつくられ、第7周期を完成させた元素。
- 実在論と道具主義:最適な周期表が存在するかどうかについての2つの見方。
批判的分析
長所
- 歴史を深く語る。 量子力学以前の時代に5章を充て、クレーマース、オドリング、ヒンリクス、ベリーのようなあまり知られていない貢献者も取り上げるので、周期表はメンデレーエフ一人ではなく多くの人々の仕事として描かれる。
- 説明としての物理学。 第6〜8章は、化学者がすでに見いだしていたパターンを原子番号、電子構造、量子力学がどう説明したかを示し、学生がこれから学ぶ傾向に理由を与える。
- 刊行時点で最新。 第2版は113、115、117、118番元素の命名と、元素の起源についての最近の考え方を含んでいる。
- 未解決の問いに向き合う。 最終章は周期表の形を哲学的な側面をもつ現在進行形の問いとして扱っており、教室の壁に貼られた周期表が唯一の可能な形だと思い込んでいる学生に役立つ。
短所
- 記述化学はわずか。 本書が説明するのは周期表であって、そこに並ぶ元素の化学ではない。族の性質や、原子の大きさ、イオン化エネルギー、反応性の周期的傾向を主題とする章はない。
- 読者によっては歴史が重い。 第3〜5章は科学史であり、科学的な説明だけを求める学生はここを速く読み進めてよい。
- 授業用の教科書ではない。 約145ページの本書が与えるのは背景であり、無機化学の授業で評価される定量的な技能ではない。
コースにおける位置づけ
この無機化学のコースにおいて、Scerri の本は学問全体を組み立てる枠組みについての背景読書である。Rayner-Canham と Overton の Descriptive Inorganic Chemistry とは自然に組み合わさる。同書は元素のふるまいの背後にある原理を示したうえで元素を族ごとに概観する。Scerri が周期表がなぜその形をしているかを説明し、Rayner-Canham と Overton がそこに並ぶ元素が何をするかを記述するという関係である。
リストにある、より理論的な教科書ははるかに先まで進む。Housecroft の Inorganic Chemistry と Shriver、Weller、Overton らの Inorganic Chemistry は、原子構造、結合、対称性、分光法を各ブロックの系統的な化学と組み合わせる。Pfennig の Principles of Inorganic Chemistry は対称性、群論、分子軌道モデルを展開し、Crabtree の The Organometallic Chemistry of the Transition Metals は金属–炭素化合物を扱う大学院レベルの教科書である。Scerri の電子構造と量子力学の章は、それらの本の冒頭の章へのやさしい序文になる。
本書の使い方
本書は、無機化学を学び始める化学専攻の1年生、周期表を日常的に使う物理学・材料科学・地球科学の学生、そして化学の歴史と哲学に関心のある読者に向いている。学校で学ぶ化学の知識があれば十分である。
実際的な計画は次のとおりである。
- 授業の前に: 周期表と周期律の概観として第1〜2章を、周期性の物理的な説明として第6〜8章を読む。
- 授業と並行して: 第3〜5章と第9章を周期表の背後にある物語として読む。授業が原子構造や重元素に進んだときが望ましい。
- 授業の後に、または議論のために: 第10章は、周期表に最良の形があるかどうかをめぐるゼミや小論文のよい土台になる。
読むときには周期表を手元に置き、記述的な無機化学や理論的な無機化学の教科書が前提としている枠組みを理解するために本書を使うとよい。
