01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Rayner-Canham, G., & Overton, T. (2014). Descriptive Inorganic Chemistry (6th ed.). W. H. Freeman / Macmillan Learning.
章の要約
第6版は24章からなり、原理を扱う9章のあと、水素からアクチノイドまで周期表をめぐる。Macmillan は本書を、周期表を化学的性質と異なる族の元素どうしの関係を探る文脈として用いる、厳密さと数学をおさえた無機化学への入口と説明し、歴史的な発展と現代の応用、とくに工業プロセスと環境問題の両方を扱うとしている。出版社はこの版の特徴を4つ挙げている。各章は章の内容と結びついた無機化学の身近な側面である「Context」で始まること(例として温室効果、イオン液体とグリーンケミストリー、カーボンナノチューブやグラフェン、ADP と ATP、水道水のフッ素添加、ラドン、亜鉛の生物学的重要性、レーザーや原子力が挙げられている)、段階を追って解き方を示す新しい例題、章末の「Biological Aspects」の節の更新、そして無料のコンパニオンサイトにある化合物と反応の動画である。
第1〜2章:原子の電子構造:復習/周期表の構造
最初の章は題名が示すとおり一般化学で学んだ原子構造の復習であり、2章目は本書の残りが依拠する周期表の構成を示す。
第3〜5章:共有結合と分子分光法/金属結合、合金、複合材料/イオン結合と固体のふるまい
3種類の結合を扱う3章で、それぞれが性質と結びつけられている。共有結合には分子分光法が、金属結合には合金と複合材料が、イオン結合には固体のふるまいが組み合わされる。
第6〜8章:化合物はなぜ存在するのか:無機熱力学/溶媒系と酸塩基のふるまい/酸化と還元
説明のための道具を扱う。特定の化合物がなぜ生じるのかという問いに熱力学を適用し、水やその他の溶媒中での酸塩基のふるまい、そして酸化還元化学を扱う。
第9章:周期的なパターン(Periodic Patterns)
周期表を横断するパターンに充てられた章で、原理と族ごとの概観とをつなぐ橋渡しとなる。
第10〜12章:水素/1族元素:アルカリ金属/2族元素:アルカリ土類金属
記述的な概観は独立した章としての水素から始まり、アルカリ金属とアルカリ土類金属が続く。
第13〜18章:13族元素から18族元素まで
13族から18族までの典型元素の族ごとに1章ずつが充てられる。13族と14族の元素、ニクトゲン(15族)、カルコゲン(16族)、ハロゲン(17族)、貴ガス(18族)である。
第19〜22章:遷移金属錯体/3d 遷移金属の性質/4d・5d 遷移金属の性質/12族元素
まず配位化学を扱い、次に第一遷移系列の金属と、より重い 4d・5d の金属を別々の章で扱う。12族(亜鉛、カドミウム、水銀)は遷移金属のあとに独立した章をもつ。
第23〜24章:有機金属化学/希土類元素とアクチノイド元素
本書は有機金属化学の1章と、希土類元素とアクチノイド元素の1章で終わる。
主要概念
第1〜9章:原理
- 周期表の構造:以後のすべての章の枠組みとなる元素の配列。
- 結合の種類と性質:共有結合、金属結合、イオン結合で、それぞれ実際の物質のふるまいと結びつけられる。
- 無機熱力学:ある化合物が存在し別の化合物が存在しない理由を説明するエネルギーの議論。
- 酸塩基と酸化還元のふるまい:記述的な章を通じて用いられる2つの反応の型。
- 周期的なパターン:族をまたいで現れる傾向と関係。
第10〜24章:元素
- 族の化学:水素とアルカリ金属から貴ガスまでの、各典型元素の族の性質。
- 遷移金属錯体:d ブロック金属を理解する基礎としての配位化合物。
- 3d 金属と 4d・5d 金属:第一遷移系列の金属を、より重い同族元素とは別に扱う。
- 有機金属化合物:1章で導入される金属–炭素の化学。
批判的分析
長所
- 事実を説明するための概念。 Macmillan の著者紹介によれば、Rayner-Canham は、概念を用いて元素とその化合物の性質と用途を説明する無機化学の教科書が見つからなかったために本書を書いた。原理の9章に記述の15章が続く構成はその狙いを反映している。
- 全体を通じた文脈づけ。 すべての章が身近な Context で始まり、Biological Aspects の節は生物学系の学生に役立ち、出版社は工業と環境への応用、そして歴史的な発展を強調している。
- 取り組みやすい水準。 出版社は本書を数学をおさえた無機化学への入口と位置づけており、最初の無機化学の授業や化学以外の分野の学生に向いている。
- 元素をきめ細かく扱う。 水素、13族から18族までの各族、12族、4d・5d 金属がそれぞれ独立した章をもち、ブロックごとに1章という構成よりも記述化学に多くの紙幅を割いている。
短所
- 理論は軽め。 出版社自身が「厳密さと数学をおさえた」と説明しているとおり、対称性、群論、詳しい結合モデルは章のリストに現れない。上級の無機化学の授業に進む学生には、より理論的な教科書が必要になる。
- 古い版。 2014年刊行のため、113、115、117、118番元素の2016年の命名のような、その後の展開より前の内容である。
- 有機金属化学は1章のみ。 有機金属化学は終わり近くの1章だけで扱われ、入門としては十分だが、この分野の授業には足りない。
コースにおける位置づけ
Rayner-Canham と Overton の本は、このリストの無機化学の本のなかで記述的な最初の教科書にあたる。Scerri の The Periodic Table: A Very Short Introduction はよい伴走者または序章になる。同書は周期表がどのように生まれ、なぜその形をしているのかを説明し、本書は周期表を使って元素の化学を整理する。
Housecroft の Inorganic Chemistry と Shriver、Weller、Overton らの Inorganic Chemistry(Overton は後者の共著者でもある)は、物理無機化学の原理、対称性、分光法を各ブロックの系統的な化学と組み合わせており、化学専攻の学生にとって自然な次の一歩である。Pfennig の Principles of Inorganic Chemistry は対称性、群論、分子軌道モデルを深く展開し、Crabtree の The Organometallic Chemistry of the Transition Metals は第23章の主題を大学院レベルまで進める。
本書の使い方
本書は、初めて無機化学の授業を受ける学部生(出版社によればこの授業をよく受講する生物学専攻の学生を含む)と、元素についての実用的な知識を必要とするほかの理系分野の学生に向いている。第1章は原子構造を復習として示しているので、一般化学の授業を終えていることが前提となる。
実際的な計画は次のとおりである。
- 中核: 原理を扱う第1〜9章。無機熱力学の第6章と周期的なパターンの第9章は、記述的な章で繰り返し立ち返るので、丁寧に学ぶ価値がある。
- 記述的な概観: 典型元素を扱う第10〜18章を、順番に、あるいは授業が重視する族に応じて読む。
- 遷移金属: 第19章の錯体から始めて第19〜22章を読む。
- 任意または後で: 有機金属化学と f ブロックを扱う第23〜24章は授業に応じて読む。
各章冒頭の Context を動機づけに、例題を問題を解く際の手本として使うとよい。生物学系の学生は Biological Aspects の節を丁寧に読むこと。コンパニオンサイトにある化合物と反応の動画は、実験経験の少ない学生に役立つ。
