01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Hill, R. H., Jr., & Finster, D. C. (2016). Laboratory Safety for Chemistry Students (2nd ed.). Wiley.
章の要約
第2版は約576ページで、8章のあとに付録と索引が続く。前付には学生向けと教員向けの二つの序文と略語一覧がある。本書は一度に通読するのではなく、学位課程全体を通して読むように作られている。各節には三つの数字からなる番号が付いており、真ん中の数字が「層」を示す。節の題名を見ると、第1層の節は入門的な実験、第2層の節は有機化学などの上級の学生実験、第3層の節は上級学年や研究での作業を対象としている。出版社はこれを、いくつかの話題が深さを増しながら2〜3回扱われる層構造と説明しており、火災や薬品のこぼれといった話題が学習の各段階でふたたび現れる。
第1章:安全文化
冒頭の章は「安全の四原則」で本書の枠組みを示し、グリーンケミストリーを導入したうえで、両者をより高いレベルで再び取り上げる。第2層では実験事故から学ぶことと有機化学カリキュラムにおけるグリーンケミストリー、第3層では安全文化の育成、雇用者が新人化学者に期待する安全技能、法令と規制、「全体像」としてのグリーンケミストリー、化学の演示実験における安全、ティーチング・アシスタントの役割を扱う。
第2章:緊急時対応への備え
実験室での緊急事態への対応、入門科目での火災、身体や実験室への薬品のこぼれ、応急手当を扱う。第2層では有機・上級科目での火災と、こぼれの原因・予防・封じ込め・清掃に戻り、第3層の一節で研究における緊急時の備えを扱う。
第3章:実験室の危険の理解と伝達
安全の情報面を扱う章である。曝露経路、「安全の言語」をなす標識・記号・ラベル、(化学物質)安全データシート(SDS)と化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)、その他の情報源、SDS情報の読み方を取り上げ、最後に化学物質衛生計画(ケミカル・ハイジーン・プラン)で締めくくる。
第4章:実験室の危険の認識:有毒物質と生物学的因子
毒性学への入門である。基本概念、毒性の測定法、急性毒性に続いて、慢性毒性、さらに発がん性物質、生物学的危険と血液媒介病原体、ナノ材料の危険を扱う。
第5章:実験室の危険の認識:物理的危険
16節からなる最も長い章である。入門的な実験での腐食性物質と可燃性物質から始まり、上級実験での腐食性物質、火災と爆発の化学、混触危険のある薬品へと進む。長い第3層では、ガスボンベと液化ガス容器、過酸化物、反応性・不安定な薬品、減圧・加圧系、電気的危険、整理整頓、非電離放射線と電離放射線、寒剤、暴走反応、触媒を扱う。
第6章:リスクアセスメント
危険を知ることからリスクを判断することへの一歩である。危険とともに安全に暮らすことと安全に関する意思決定から始め、GHSを使った毒性危険の評価と職業曝露限界の理解に進み、最後に化学物質への曝露の評価と新しい実験のリスクアセスメントを扱う。
第7章:危険によるリスクの最小化
管理策と保護具の章である。第1層では保護眼鏡、衣服・手袋・道具による皮膚の保護、入門的な実験でのドラフト(ケミカルフード)を扱い、第2層では上級実験における目と顔の保護、皮膚の保護、封じ込めと換気を再び取り上げる。第3層では一般的な実験操作、放射線とレーザーの安全、バイオセーフティレベルと生物学用安全キャビネット、危険な雰囲気での作業、研究室での安全、プロセス安全を扱う。
第8章:化学物質の管理:点検、保管、廃棄物、セキュリティ
最後の章は化学物質の管理を扱う。化学廃棄物の入門、可燃性物質と腐食性物質の保管、有害な実験廃棄物の取り扱いに続き、自分で行う安全点検、化学物質と在庫の管理、保管、化学物質のセキュリティを取り上げる。
主要概念
第1〜3章:文化、緊急時、危険情報
- RAMP:本書の安全の四原則(危険を認識する、リスクを評価する、リスクを最小化する、緊急事態に備える)であり、第3〜8章の順序もこれに沿う。
- 安全文化:学生からティーチング・アシスタントまで、安全な作業を当たり前にする実験室内の共通の態度と慣行。
- グリーンケミストリー:そもそも危険を減らすように化学を設計する考え方で、早い段階で導入され、上の層で再び扱われる。
- GHSと安全データシート:危険有害性の分類、絵表示、ラベルの国際的な体系と、各化学物質の危険情報を伝える文書。
- 化学物質衛生計画:化学的危険から作業者を守るために実験室が備える書面の計画。
第4〜5章:危険の認識
- 急性毒性と慢性毒性:1回の曝露による害と、反復的・長期的な曝露による害。発がん性物質は別に扱われる。
- 曝露経路:物質が体内に入る経路で、毒性学と防護の両方の出発点となる。
- 混触危険物と反応性化学物質:過酸化物を生成する物質のように、激しく反応しうる組み合わせや物質。
第6〜8章:リスクの評価と管理
- 職業曝露限界:曝露が許容できるかを判断するために用いられる、空気中濃度の限度。
- 新しい実験のリスクアセスメント:手順を実施する前にその危険を評価すること。
- 防護の階層:目・顔・皮膚の保護と並ぶ、ドラフト、換気、封じ込め。
- 化学物質の管理:在庫、区分保管、廃棄物の取り扱い、点検、化学物質のセキュリティ。
批判的分析
長所
- 全体を貫く一つの枠組み。 安全の四原則は1.1.1節で導入され、第3〜8章は危険の認識、リスクの評価、リスクの最小化という同じ順序に従い、緊急時への備えは第2章に前倒しされている。王立化学会の Education in Chemistry に掲載された書評(2017年1月、小売店Booktopiaに引用)は、RAMPの体系が「中心に据えられ」、多様な話題を通じて役立つ覚え書きになっていると評している。
- 学位課程全体のための設計。 層状の番号付けにより、1年生は第1層の節だけを読み、研究を始める学生は同じ章の第3層を読み進めることができる。出版社によれば、本書は学士課程に関する米国化学会(ACS)専門教育委員会の2015年の安全教育要件に沿っている。
- 規則だけでなく実際の化学。 同じ書評は、無味乾燥になりがちな主題でありながら本書が読者を引きつけると評し、その理由として各章冒頭の現実の事例を挙げ、速度論、熱力学、有機化学を用いる囲み記事にも触れている。また、扱う範囲が広く、専門家の参考書としても役立つと判断している。
- 化学的危険を超える幅広さ。 生物学的危険と安全キャビネット、電離・非電離放射線、レーザー、ナノ材料、プロセス安全、化学物質のセキュリティに関する節があるため、複数分野が混在する実験室でも使える。
短所
- 米国を前提に書かれている。 1.3.3節は法令と規制を扱い、著者の経歴も米国の労働衛生とACSの安全分野にある。それ以外の国の読者は、自国の規制と所属機関の規則を別に確認する必要がある。
- 通読向きの本ではない。 話題が層ごとに繰り返されるため、火災、こぼれ、腐食性物質、目の保護、ドラフトはそれぞれ2〜3か所に分かれている。通読すると重複に出会い、参考書として使う場合はすべての層を確認しなければならない。
- 情報の時期。 規制や情報源に関する記述の一部は2015年前後の状況を反映している。曝露限界、SDSの入手先、規制は最新版と照合すること。
コースにおける位置づけ
本書はこのコースにおける学生向けの安全の教科書であり、最初に読むのに自然な一冊である。全米研究評議会(NRC)の Prudent Practices in the Laboratory は、実験室の安全、管理、設備、法令について委員会がまとめた参考書で、全米アカデミーズ出版から無料で入手できる。教員、安全管理者、リスクアセスメントを書く学生など権威ある参考資料を必要とする人に向いており、HillとFinsterは同じ考え方を学生に段階を追って教える。Practical Skills in Chemistry は実験技術、データ処理、学習技能を幅広く扱う手引きで、安全な作業は多くのテーマの一つにすぎないため、本書を置き換えるのではなく補う関係にある。
残る2冊は研究レベルの技術書である。Leonard、Lygo、Procterの Advanced Practical Organic Chemistry は学生実験から合成研究への移行を導き、ShriverとDrezdzonの The Manipulation of Air-Sensitive Compounds は不活性雰囲気の装置と操作に関する専門書である。どちらかを読む前、あるいは並行して、第5章と第7章の該当する第3層の節(反応性化学物質、減圧・加圧系、寒剤、危険な雰囲気、研究室での安全)を読んでおくとよい。
本書の使い方
本書は1年次からの化学専攻の学部生、安全教育の体系を必要とするティーチング・アシスタントや教員、化学実験室で作業する隣接分野の学生に向いている。必要なのは一般化学の知識だけだが、後の節は有機化学を前提とし、進むにつれてより多くの化学を用いる。
層に沿った実際的な読み方:
- 最初の実験科目: 1.1.1〜1.1.2節、第2〜5章の第1層の節(緊急事態、火災、こぼれ、応急手当、曝露経路、ラベルとSDS、毒性学の基礎、腐食性物質と可燃性物質)、目・皮膚・ドラフトによる保護を扱う7.1.1〜7.1.3節。これらが中核である。
- 有機化学や上級の学生実験: 各章の第2層の節と、リスクに関する意思決定、GHS、曝露限界を扱う第6章の最初の二つの層。
- 研究やティーチング・アシスタントの役割を始める前: 1.3.1〜1.3.6節、2.3.1節、第5章と第7章の第3層、曝露評価と新しい実験のリスクアセスメントを扱う6.3.1〜6.3.2節、点検・保管・廃棄物・セキュリティを扱う第8章。
- 実験室の種類に応じた選択: 生物、ナノ材料、放射線、レーザーの節は、それらの危険がある場所では必須であり、それ以外では省略できる。
該当する節は、事故が起きてからではなく新しい実験科目の前に読むこと。読書は実際の文書と組み合わせるとよい。その週に使う化学物質のSDSを入手して3.1.5節を手がかりに読み解き、所属学科の化学物質衛生計画を3.3.1節と並べて読み、6.3.2節を使って一つの実験について短いリスクアセスメントを書いてみる。本書の米国中心の記述と異なる可能性がある点については、現地の規制と最新の曝露限界を確認すること。
