01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Tompkins, W. J. (Ed.). (1993). Biomedical Digital Signal Processing: C Language Examples and Laboratory Experiments for the IBM PC. Prentice Hall.
章の要約
本書は、生体医用のディジタル信号処理への、実験を重視した初期の入門書で、1993 年の刊行、368 ページである。出版社は、生体医用分野のディジタル信号処理の全体像を扱い、この分野の基礎に加えて、簡単なディジタルフィルタを設計・実装するための C 言語のプログラムを提供すると紹介している。付属のフロッピーディスクには UW DigiScope というプログラムが入っており、実験を行い、さまざまな種類のディジタルフィルタを設計し、処理結果を画面で確認するための環境になる。実験には、実際の A/D 変換器もソフトウェアで模擬した仮想の変換器も使える。目次は 22 項目あり、以下の見出しはそれらを役割ごとにまとめたものである。
医学におけるコンピュータ、心電図、信号変換
本書は「Introduction to Computers in Medicine」と「Electrocardiography」で始まり、臨床的・信号的な背景を示す。心電図は、後の QRS と監視の項目に再び現れる。続く「Signal Conversion」は、アナログの生理信号から、計算機が処理できる標本への段階を扱う。
ディジタルフィルタリング
本書の中核は、フィルタに関する一連の項目である。「Basics of Digital Filtering」「Finite Impulse Response Filters」「Infinite Impulse Response Filters」「Integer Filters」「Adaptive Filters」。出版社によれば、C 言語のプログラムは簡単なディジタルフィルタの設計と実装のためのもので、UW DigiScope はさまざまな種類のフィルタを設計する環境である。
信号の平均化、データ削減、その他の手法
「Signal Averaging」「Data Reduction Techniques」「Other Time and Frequency Domain Techniques」は、道具立てをフィルタから、信号品質の改善、データの圧縮、時間領域・周波数領域での解析へと広げる。
QRS フィルタ、心電図監視システム、VLSI
主系列の応用側にあたるのが「QRS Filters」と「ECG Monitoring Systems」で、フィルタリングの方法を心拍の検出と監視に適用する。「VLSI in Digital Signal Processing」は、処理をハードウェアで実装することを扱う。
ソフトウェアと実験の資料
残りの項目は実験面を支える。「Configuring the PC for UW DigiScope」「Data Acquisition and Control Routines」「Data Acquisition and Control: Some Hints」「UW DigiScope User's Manual」である。さらに三つの項目、「Signal Generation」「Finite Length Register Effects」「Commercial DSP Systems」は、信号の生成、有限レジスタ長の影響、市販のディジタル信号処理システムを扱う。
主要概念
信号変換とディジタルフィルタリング
- アナログ—ディジタル変換:生理信号を標本に変えること。実験では実際の変換器も仮想の変換器も使われる。
- FIR と IIR フィルタ:ディジタルフィルタの二大種類で、それぞれ別の項目になっている。
- 整数フィルタ:IIR フィルタと適応フィルタの間に独立して置かれた種類のフィルタ。
- 適応フィルタ:信号に応じて挙動を調整するフィルタ。
解析手法と応用
- 信号の平均化:繰り返した記録を合わせて信号を改善すること。
- データ削減:信号をより少ないデータで表す手法。
- QRS フィルタ:心電図の QRS 群の検出を目的としたフィルタリング。
- 心電図監視システム:これらの方法を応用した完全なシステム。
実装
- 有限レジスタ長の影響:独立した項目になっている主題で、ディジタル処理における有限語長に関わる。
- UW DigiScope:フィルタの設計と実験に使う付属プログラム。
批判的分析
長所
- **手を動かす設計。**出版社は実験と C 言語のプログラムを強調しており、読者は読むだけでなく、フィルタを自分で実装する。
- **仮想計測器の選択肢。**実験は実機でも、ソフトウェアで模擬した変換器でも実行できるため、収集装置のない授業でも実験ができる。
- **応用重視。**目次は、信号変換から各種フィルタ、QRS フィルタリング、心電図監視システムへ進み、最後に VLSI、有限レジスタ長、市販のディジタル信号処理システムといった実装上の主題で終わる。
短所
- **1993 年の PC 環境に結びついている。**書名と図書館の目録記録によれば、ソフトウェアは 640K のメモリと VGA、EGA、または Hercules グラフィックスをもつ IBM PC 互換機で動いた。現在の読者は、演習を行うために別のプラットフォームが必要になる。
- **信号の範囲が狭い。**目次は心電図を中心とし、脳波、筋電図、画像に関する章はない。生体医用信号の種類を広く見渡す本ではない。
- **手法が古い。**非定常信号、時間—周波数解析、現代的な分類のためにその後発展した技法は、1993 年の目次にはない。
- **ディジタル信号処理の基礎のみ。**出版社は、本書をディジタル信号処理の基礎とプログラムを提供するものとして紹介している。数学を深く求める読者は、別にディジタル信号処理の教科書が必要である。
コースにおける位置づけ
生体医用信号処理のコースでは、これは最も古く、実験用のプログラムを軸に作られた本である。Steven W. Smith の The Scientist and Engineer's Guide to Digital Signal Processing は一般的なディジタル信号処理の実践的入門書、John Semmlow の Circuits, Signals, and Systems for Bioengineers は MATLAB に基づく電気工学の基礎の入門である。Semmlow と Griffel の Biosignal and Medical Image Processing は生体医工学者のための信号・画像処理を扱い、Rangayyan の Biomedical Signal Analysis は、心電図、脳波、筋電図などの生理信号を解析する、事例主導の教科書である。
Tompkins の本は、これらの前か並行して、心電図を中心にフィルタの実装を学ぶ簡潔な授業として読める。また、リアルタイムの心電図処理がどのように作られたかという歴史的な見方のために後で読んでもよい。現在の授業には、MATLAB に基づく教科書のほうが直接的な道具になる。Tompkins の価値は、FIR・IIR・整数・適応フィルタと QRS 検出を一つの系列で扱う点にある。
本書の使い方
微積分と多少のプログラミング経験があり、作ることでディジタルフィルタリングを理解したい学生に向く。心電図監視の歴史に関心のある読者にも役立つ。
実用的な進め方は次のとおり。
- 中核:「Signal Conversion」から始まる目次を、各フィルタの項目、そして「QRS Filters」と「ECG Monitoring Systems」へと進む。
- **関心に応じて:**誘発電位や保存に関する主題には「Signal Averaging」と「Data Reduction Techniques」、実装に関心がある場合は「VLSI in Digital Signal Processing」と「Commercial DSP Systems」。
- **実験:**ソフトウェアと DigiScope の項目が実験の出発点。現在の環境で再実装する。
- **併読:**数学には新しいディジタル信号処理の教科書、より広い信号の種類には Rangayyan を使う。
各種のフィルタについて、現在の言語でフィルタを書き、短い心電図記録に適用し、その出力を、書中でそのフィルタに期待される働きとして説明されている内容と比べるとよい。
