01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Flajnik, M. F., Singh, N. J., & Holland, S. M. (Eds.). (2022). Paul's Fundamental Immunology (8th ed.). Wolters Kluwer.
章の要約
本書は複数の著者による参考書で、全50章が8つの部に分かれ、本文は索引の前までで約1,650ページある。各章はそれぞれの分野の専門家が執筆している。出版社によれば、この版では10の章が完全な新章で、無脊椎動物と植物の免疫、好酸球、自然リンパ球、γδ T細胞、NKT細胞とMAIT細胞、免疫代謝、母体-胎児免疫などが含まれる。以下では書中の部・章の題名に従う。
第I部 免疫学入門:第1–2章
第1章「免疫系の概観」(約28ページ、3人の編者が執筆)は、以降のすべての章への導入となる。第2章「免疫学の歴史」は、この分野の概念を歴史の順に位置づける。
第II部 免疫系の進化:第3–5章
「昆虫の免疫系」「脊椎動物と下等後口動物の免疫系の進化」「植物の免疫系」の3章は、哺乳類モデルの外へ視野を広げる。第4章は3章のうち最も長く、およそ50ページである。
第III部 免疫における細胞の経路と過程:第6–11章
この部では、「免疫代謝」「免疫系における制御された細胞死」「リンパ組織と器官」「I型サイトカイン、インターフェロンとその受容体」「腫瘍壊死因子スーパーファミリーのサイトカインと受容体」「ケモカインとケモカイン受容体」を扱う。後の部が前提とする共通の仕組み(代謝、細胞死、解剖、シグナル分子のファミリー)をまとめている。
第IV部 自然免疫:第12–18章
第12章は「パターン認識受容体とIL-1ファミリー」、第13章は「補体系」である。続いて細胞の種類ごとに「好中球」「マクロファージ」「マスト細胞と好塩基球」「好酸球」「ナチュラルキラー細胞と自然リンパ球の生物学」が置かれる。
第V部 獲得免疫:第19–31章
最も大きい部で、「主要組織適合遺伝子複合体」と「古典的な抗原プロセシングと提示」に始まり、「免疫グロブリン:構造と機能」「免疫グロブリン:分子遺伝学」「T細胞抗原受容体と抗原認識」「抗原受容体シグナル伝達」へ進む。その後はリンパ球ごとに、「マウスにおけるB細胞の発生」「B細胞応答」「胸腺でのT細胞の発生」「CD4+ヘルパーT細胞:分化、柔軟性、不均一性」「制御性T細胞」「CD8+ T細胞の記憶」「細胞傷害性エフェクター機能」と続く。
第VI部 統合免疫学:第32–41章
細胞の種類を横断する章が並ぶ。「免疫寛容」「Fc受容体と免疫制御・炎症における役割」「樹状細胞」「γδ T細胞」「CD1拘束性T細胞」「粘膜関連invariant T細胞とその他のMR1反応性T細胞」である。部の終わりには「粘膜免疫系」「神経免疫学入門」「ワクチン」「母体-胎児免疫学」がある。
第VII部 病原体に対する免疫応答:第42–45章
4つの章で、「寄生虫に対する応答」「細菌に対する免疫応答」「ウイルスに対する応答」「HIV感染の免疫学」を扱う。
第VIII部 免疫疾患と免疫不全:第46–50章
最後に「自己免疫と自己免疫疾患」「アレルギー疾患の免疫機構」「移植免疫学」「がん免疫学と免疫療法」「先天性免疫異常症」が置かれる。
主要概念
第I–III部:基礎と共通の仕組み
- 比較免疫学:脊椎動物の免疫を昆虫、植物、下等後口動物の免疫系と並べ、どの特徴が古く、どれが新しいかを示す。
- 免疫代謝:細胞の代謝状態が免疫細胞の機能をどう形づくるか。
- 制御された細胞死:免疫応答の内部で働くプログラムされた細胞死の形式。
- サイトカイン、ケモカイン、受容体のファミリー:免疫細胞を方向づけるシグナル分子を、ファミリーごとに整理したもの。
第IV部:自然免疫
- パターン認識:保存された微生物由来または傷害由来のシグナルを検出し、炎症経路を起動する受容体。IL-1ファミリーを含む。
- 補体:微生物に印を付けて攻撃し、炎症にも影響するタンパク質のカスケード。
- 自然免疫の細胞:好中球、マクロファージ、マスト細胞、好塩基球、好酸球、ナチュラルキラー細胞、自然リンパ球。それぞれが独立した章で論じられる。
第V部:獲得免疫
- MHCと抗原提示:ペプチドがどのように処理され、T細胞に提示されるか。
- 抗原受容体:免疫グロブリンとT細胞受容体の構造、遺伝学、シグナル伝達。
- リンパ球の発生と記憶:前駆細胞からB細胞・T細胞のエフェクター集団と記憶集団に至る道筋。ヘルパーT細胞、制御性T細胞、CD8+ T細胞を含む。
第VI–VIII部:統合、病原体、疾患
- 免疫寛容:自己に対する有害な応答を防ぐ仕組み。
- 非従来型T細胞:γδ T細胞、CD1拘束性集団、MR1反応性集団。
- 疾患の機構:自己免疫、アレルギー、移植拒絶、腫瘍免疫、先天性免疫異常症。
批判的分析
長所
- 幅広さと専門家による執筆。 50章はいずれもそのサブ分野で研究する著者が執筆している(たとえばケモカインはPhilip Murphy、補体系はErin WestとClaudia Kemper)。単独著者の教科書では得にくい深さがある。
- 進化的な枠組み。 総合的な免疫学の参考書としては珍しく、第II部で昆虫・脊椎動物・植物の免疫が細胞に関する章より先に置かれている。出版社もこれを10の新章に数えている。
- 機構から疾患へのつながり。 第VII・VIII部は病原体から始まり、自己免疫、アレルギー、移植、がん、先天性免疫異常症へ進む。出版社は、本書が基礎免疫学と疾患の過程をつなぐと説明している。
- 新しさ。 出版社は基礎と橋渡しの両面で最新の進展を扱うと強調し、γδ T細胞、NKT・MAIT細胞、自然リンパ球、免疫代謝の新章を挙げている。
短所
- 最初の1冊ではない。 出版社は大学院生、ポスドク、現役の免疫学者・医師を対象としている。各章は、分野の用語をすでに知っている読者に向けた専門家による総説である。
- 分量が大きく、章の長さが不揃い。 全体で約1,750ページあり、章の長さの差は大きい。「好中球」は約14ページ、「主要組織適合遺伝子複合体」は約50ページである。そのため主題ごとに深さが異なる。これは編集書によくあることである。
- 学習支援は謳われていない。 出版社の説明は図表とオンライン版の年次更新に触れているが、章末問題や演習には触れていない。講義用の演習教材ではなく、読んだり引いたりするための参考書である。
コースにおける位置づけ
『Paul's Fundamental Immunology』は免疫学の読書リストの最上位に位置する。Coico『Immunology: A Short Course』は1学期向けの簡潔な教科書で、Klenerman『The Immune System: A Very Short Introduction』は短い一般向けの入門書であり、どちらも出発点にふさわしい。Parham『The Immune System』はヒトの免疫系と健康・疾患における役割に焦点を当てた簡潔な教科書で、Kuby『Immunology』は古典的な実験と最近の実験を軸に説明を組み立てている。Janeway『Immunobiology』は上級の学部生や大学院生・医学生向けの詳細な教科書で、これらの本と本書をつなぐ自然な橋渡しとなる。
こうした基礎を終えたあと、特定の細胞、受容体ファミリー、疾患などの主題について、その研究者自身が書いた完全な総説が必要になったときに、本書は力を発揮する。教科書を置き換えるものではなく、補うものである。
本書の使い方
大学院生、ポスドク、臨床医、そして免疫学の原著論文を読む準備をしている人に向いている。標準的な免疫学の教科書をすでに学んだことが前提である。通読するよう設計された本ではない。
実用的な進め方:
- 第1章から始める。 概観の章で、各部が分野をどう区切っているかを把握する。
- 目的に応じて選ぶ。 T細胞の研究なら第19–24章と第27–31章を順に読む。自然免疫なら第12–18章を使う。臨床上の疑問には第VII・VIII部(第42–50章)に進み、免疫寛容とワクチンには第32章と第40章を読む。
- 任意: 第2章の歴史と第II部の進化は得るところが大きいが、後回しにしてよい。
- 文献案内として使う。 各章を、同じ主題の最近の論文と並べて読み、章末の参考文献から原著論文へ進む。
