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Fundamentals of Biochemistry: Life at the Molecular Level(基礎生化学:分子レベルで見る生命) cover

生物学

生物学

Fundamentals of Biochemistry: Life at the Molecular Level(基礎生化学:分子レベルで見る生命)

Donald Voet; Judith G. Voet; Charlotte W. Pratt

英語原題: Fundamentals of Biochemistry: Life at the Molecular Level

化学的な厳密さをもって生化学を扱う、学部向けの本格的な教科書。生体分子の構造と機能、酵素の反応機構と反応速度論、代謝とその調節、遺伝情報の生化学を、記述的な要約にとどめず、熱力学と反応機構に基づいて説明する。

前提知識: 一般化学と一年間の有機化学、入門生物学の履修。

難易度レベル
中級
学術レベル
学部
biochemistryprotein structureenzymologymetabolismmolecular biology教科書

01 / 読書ガイド

読書ガイド

引用

Voet, D., Voet, J. G., & Pratt, C. W. (2016). Fundamentals of Biochemistry: Life at the Molecular Level (5th ed.). John Wiley & Sons.

章の要約

本書は5部28章からなり、約1,180ページある。各章は番号付きの節に分かれ、その下の英字付き小見出しは完全な叙述文で書かれている(例:「次世代シーケンス技術は大規模並列である」)。そのため、目次がそのまま議論の骨子として読める。多くの章には、Pathways of Discovery、Perspectives in Biochemistry、Biochemistry in Health and Disease という3系列のコラムが付いている。

第I部:第1〜2章:生命の化学入門;水

第1章は生命の起源、細胞の構造(原核生物、真核生物、3つのドメイン)、そして以後の章に必要な熱力学(第一法則・第二法則、自由エネルギー、恒常性)を扱う。第2章は水の物理的性質(極性、疎水効果、浸透と拡散)と化学的性質(イオン化、pH、緩衝液)を論じる。

第II部:第3〜10章:生体分子

  • 3. ヌクレオチド、核酸、遺伝情報。 ヌクレオチド、DNAとRNAの構造、核酸の機能、シーケンシング(連鎖停止法から次世代法まで)、およびクローニング、ライブラリー、PCRによるDNAの操作。
  • 4. アミノ酸。 構造、立体化学、誘導体。
  • 5. タンパク質:一次構造。 ポリペプチドの多様性、精製と分析、タンパク質の配列決定(エドマン分解と質量分析)、タンパク質の進化。
  • 6. タンパク質:三次元構造。 二次・三次・四次構造、X線結晶構造解析・NMR・クライオ電子顕微鏡による構造決定、構造バイオインフォマティクス、安定性、そしてシャペロンや誤ったフォールディングによる疾患を含むフォールディング。
  • 7. タンパク質の機能:ミオグロビンとヘモグロビン、筋収縮、抗体。 構造から機能が生まれる仕組みを示す3つの例(酸素結合タンパク質、筋、抗体)。
  • 8. 糖質。 単糖、多糖、糖タンパク質。
  • 9. 脂質と生体膜。 脂質の分類、二重層、膜タンパク質、膜の構造と形成(分泌経路や小胞融合を含む)。
  • 10. 膜輸送。 輸送の熱力学、受動的な仲介輸送(イオノホア、ポーリン、イオンチャネル、アクアポリン)と能動輸送(ATPaseとABCトランスポーター)。

第III部:第11〜13章:酵素

第11章「酵素触媒作用」は、酵素の一般的性質、活性化エネルギー、主な触媒機構を述べたうえで、リゾチームとセリンプロテアーゼという2つの長い実例に応用する。第12章「酵素の速度論、阻害、制御」は、ミカエリス・メンテン速度論と二基質反応の速度論、競合阻害・不競合阻害・混合阻害、アロステリック制御と共有結合による制御を扱い、最後に創薬の節を置く。第13章「生化学的シグナル伝達」は、ホルモンから受容体チロシンキナーゼ、三量体Gタンパク質を経て、ホスホイノシチド経路へと進む。

第IV部:第14〜22章:代謝

第14章「代謝入門」は、代謝経路、「高エネルギー」化合物、酸化還元反応、標識代謝物やシステム生物学を含む実験的アプローチを紹介する。第15〜19章は糖質とエネルギーの代謝を順に追う。グルコースの異化、グリコーゲン代謝と糖新生、クエン酸回路、電子伝達と酸化的リン酸化、そして光合成(明反応、カルビン回路、光呼吸)である。第20〜22章は、分解と合成の両方を扱う脂質代謝とアミノ酸代謝、および「哺乳類の燃料代謝:統合と調節」へ進み、後者では臓器の役割分担、ホルモンによる制御、エネルギー代謝と食欲の調節、燃料代謝の異常が論じられる。

第V部:第23〜28章:遺伝子発現と複製

ヌクレオチド代謝(23)と核酸の構造(24)に続いて、DNAの複製・修復・組換え(25)、転写とRNAプロセシング(26)、タンパク質合成(27)、遺伝子発現の調節(28)が置かれる。最終章は細胞周期、がん、アポトーシス、発生で終わる。

主要概念

第1〜10章:基礎と生体分子

  • 自由エネルギー:過程が自発的に進むかどうかを決める熱力学量(第1章)。
  • 疎水効果:無極性の物質が水中で集まろうとする傾向。第2章と第9章の主題。
  • タンパク質のフォールディング:第6章で扱うフォールディング経路、シャペロンの助け、誤ったフォールディングによる疾患。
  • 協同性:ヘモグロビンによる酸素の協同的結合(第7章)。
  • 流動モザイクモデル:第9章の膜構造の説明。

第11〜13章:酵素とシグナル伝達

  • 触媒機構:酸塩基触媒、共有結合触媒、金属イオン触媒、近接・配向効果による触媒、遷移状態への結合。
  • ミカエリス・メンテンの式:第12章で酵素速度論を記述する標準的な式。
  • アロステリック制御と共有結合修飾:酵素制御の2つの類型。
  • セカンドメッセンジャー:第13章の経路に現れるcAMP、IP3、Ca2+、DAG。

第14〜22章:代謝

  • 共役反応:ATPなどの「高エネルギー」化合物が吸エルゴン過程を駆動する仕組み。
  • 解糖、糖新生、クエン酸回路:中心的な代謝経路で、それぞれ調節の議論が付く。
  • 酸化的リン酸化:電子伝達複合体と、プロトンの流れで駆動されるATP合成酵素。
  • 代謝の恒常性:第22章のエネルギー代謝・食欲・体重の調節。

第23〜28章:遺伝情報

  • DNAの複製・修復・組換え:第25章で扱う機構。
  • 遺伝暗号と翻訳:第27章のtRNA、リボソーム、翻訳後プロセシング。
  • 遺伝子発現の調節:第28章の原核生物と真核生物における制御。

批判的分析

長所

  • 化学に根ざした明確な土台。 出版社は本版を「化学に根ざした」生化学の基礎と説明しており、見出しもそれを裏付けている。熱力学は第1章に現れ、第14章で再び現れる。第11・12章は酵素の性質を並べるのではなく、機構と速度論を順を追って検討する。
  • 現代的な方法。 目次には次世代シーケンシング、質量分析、クライオ電子顕微鏡、構造バイオインフォマティクス、システム生物学が含まれ、出版社も構造生物学とバイオインフォマティクスを本版の焦点として挙げている。
  • 人間的・臨床的な背景。 Biochemistry in Health and Diseaseのコラム(乳糖不耐症、グリコーゲン蓄積症、テロメラーゼなど)や、Pathways of Discoveryの人物コラム(フランクリン、サンガー、ペルーツ、バンティングとベストなど)が、各経路に文脈を与えている。
  • 学習の補助。 出版社の第1章抜粋には、各節の冒頭のKey Concepts、補助動画付きの計算例、ページ番号付きのKey Terms一覧、章末問題、短いオンラインのバイオインフォマティクス演習、注釈付き参考文献が見られる。

短所

  • 分量。 28章・約1,180ページは1学期でこなせる量を超えており、教員も独習者も章を選ぶ必要がある。
  • 化学の前提。 自由エネルギー、pK値、ネルンストの式、反応機構が早い章から登場するため、化学の基礎が弱い読者には厳しい。
  • 解答の入手。 奇数番号の問題の解答は本ではなくWileyのコンパニオンサイトに掲載されているため、残りの問題には学習仲間か教員の助けが要る。
  • 代謝と遺伝子発現の比重。 第IV部と第V部は442ページから本文の終わりまで続き、本の半分以上を占める。構造と酵素に同じ時間をかける授業では削る部分が出る。

コースにおける位置づけ

本書は化学の原理に基づく本格的な生化学の教科書である。PrattとCornelyのEssential Biochemistryは1学期の入門コース向けの簡潔な教科書、McKeeのBiochemistry: The Molecular Basis of Lifeは化学の予備知識が限られた学生向けの入門書と説明されており、どちらもVoetの前に読める。MiesfeldとMcEvoyのBiochemistryは分子構造と代謝を生理学・栄養・疾患に結びつけるもので、生理学寄りの選択肢である。

Lehninger Principles of Biochemistryは生体分子、代謝経路、細胞過程を包括的に扱うと説明されており、主教材として最も近い代替である。Kuriyan、Konforti、WemmerのThe Molecules of Lifeは熱力学・統計力学・速度論から生体分子に迫る本で、本書のような教科書の後に物理的な深みを求める読者に向く。化学の棚からは、McMurryとBegleyのThe Organic Chemistry of Biological Pathwaysが、第14〜23章の背後にある反応機構を理解するための併読書になる。

本書の使い方

本書は、通年または負荷の高い1学期の生化学コースを受講し、一般化学・有機化学・生物学入門を修了した学生を対象とする。実践的な進め方は次のとおり。

  • 中核: 第3〜9章(生体分子)、第11〜12章(酵素)、第14〜18章(代謝の原理、解糖、クエン酸回路、酸化的リン酸化)、第25〜27章(複製、転写、翻訳)。
  • 選択: 第10、13、19、20〜23、28章はコースに応じて指定する。分子生物学の授業が別にある場合は第24〜28章を流し読みしてよい。
  • 復習: 内容に馴染みがあっても第1〜2章は読む価値がある。熱力学の語彙が全編で使われるからである。

各節のKey Conceptsを先に読み、問題の前に計算例を解き、復習にはKey Terms一覧を使う。第6章では、構造バイオインフォマティクスの節とオンライン演習を組み合わせるとよい。コラムは読まなくてもよいが、経路を疾患に結びつけているものは特に目を通す価値がある。